236 / 357
万華鏡と一輪挿し・4
しおりを挟む
「アップル以外にも、いくつか果物が並んでいたが、お前にはこれが似合う気がしてな」
「アップルですか……」
「赤く熟したアップルの様な色をしているからな。お前の頬は」
赤く色づいたアリーシャの頬は、まるで熟したアップルの様だと常々思っていた。
指で突いて、齧り付きたくなるくらいに。
「そこまで、赤いですか? 私の頬」
「アップルの様な鮮やかな赤だな。……唇で触れれば甘い味がして、ずっと吸っていたくなる」
アリーシャは顔を背けると、ソーセージに齧り付く。
オルキデアの位置から表情は見えないが、耳まで真っ赤な様子から恥ずかしがっているのだろう。
そんなアリーシャを微笑ましく見つめながら、「帰ったら食おう」と飴を袋にしまったのだった。
アリーシャが食べ終わると、油紙に串を包み、空になった飲み物ごと広場に設置しているゴミ箱に捨てる。
「他にも何か食べるか?」
「特には……。それより、今度は出店を見たいです!」
「出店だな。わかった。こっちだ」
依然として混雑する広場からアリーシャの手を引くと、出店側へと向かう。
出店には、ペルフェクトの工芸品から保存食、菓子、酒、ジュース、果物、花、ハルモニア経由で輸入した他国の交易品まで、数多くの雑貨や食品が並んでいたのだった。
「こんなに種類があるんですね」
「百貨店が協賛している店もあるからな。そこの他国の品を扱っている雑貨店がそうだ」
オルキデアが示したのは、出店のテントと品物を並べたテーブルクロスに、百貨店のロゴが入った店であった。
「百貨店が協賛している店は、ハルモニアを始めとする周辺諸国から、独自の交易ルートを使って集めた物を販売しているらしい」
中立国であるハルモニア経由なら、シュタルクヘルトから妨害を受けないので、商品を輸入しやすい。
加えて、ハルモニアからの輸入は、他国からの輸入に比べ、関税も安ければ、軍による監視の目も潜り抜けやすい。
その分、国で禁止している違法品の密輸入も後が立たないが。
「百貨店が持つ独自の交易ルートによって、たまにシュタルクヘルトの品物も混ざっていることがあってな。危険物や思想に関するものでなければ、軍も手を出しづらい」
「どうしてですか?」
「あまりおおっぴらには言えないが、百貨店は軍部にも出資しているんだ。金から物まで。
それを切られてしまうと、些か軍部の財政事情が苦しくなる。だからこそ、余程のことで無ければ、口出ししづらい」
勿論、財政事情は苦しくなるが、軍部が傾く程ではない。
ただ、戦争が長期化している以上、いずれは出資なくして、成り立たなくなる時も来るだろう。
そうしなければ、国の予算の補填として税金の値上げや物価の高騰など国民に余波が来る。
「終戦を迎えれば、気にする必要はなくなるのでしょうか……?」
「どうだかな。終戦を迎えれば、出資が減って軍部は縮小される。
その代わり、今ほど検閲が厳重じゃなくなるから、シュタルクヘルトから交易品が輸入しやすくなる。人々の往来も容易くなるだろうさ」
昔に比べれば国内外への往来は緩和されたが、軍所属のペルフェクト兵はハルモニアへの入国を制限されている。
ハルモニア国内での無益な争いを避ける為と言われているが、一番はシュタルクヘルトとの衝突を避ける為であろう。
頻繁にペルフェクト兵がハルモニアへの出入国を繰り返していたら、同じく兵の出入国を制限しているシュタルクヘルトが変な勘繰りを入れてくる。
両国に対して中立を宣言しているハルモニアを板挟みにした対立構造は、ペルフェクト側からしても、なんとしても避けなければならない。
そうしなければ、ハルモニアとの関係が悪化してしまい、交易を始めとするハルモニアとの関係が断絶しかねない。この国はハルモニアとの交易に助けられているところも多い。今やハルモニアから交易品は国の郊外や国境沿いの軍基地にまで届き、国民の生活の奥深くまで関わっているからだった。
「アップルですか……」
「赤く熟したアップルの様な色をしているからな。お前の頬は」
赤く色づいたアリーシャの頬は、まるで熟したアップルの様だと常々思っていた。
指で突いて、齧り付きたくなるくらいに。
「そこまで、赤いですか? 私の頬」
「アップルの様な鮮やかな赤だな。……唇で触れれば甘い味がして、ずっと吸っていたくなる」
アリーシャは顔を背けると、ソーセージに齧り付く。
オルキデアの位置から表情は見えないが、耳まで真っ赤な様子から恥ずかしがっているのだろう。
そんなアリーシャを微笑ましく見つめながら、「帰ったら食おう」と飴を袋にしまったのだった。
アリーシャが食べ終わると、油紙に串を包み、空になった飲み物ごと広場に設置しているゴミ箱に捨てる。
「他にも何か食べるか?」
「特には……。それより、今度は出店を見たいです!」
「出店だな。わかった。こっちだ」
依然として混雑する広場からアリーシャの手を引くと、出店側へと向かう。
出店には、ペルフェクトの工芸品から保存食、菓子、酒、ジュース、果物、花、ハルモニア経由で輸入した他国の交易品まで、数多くの雑貨や食品が並んでいたのだった。
「こんなに種類があるんですね」
「百貨店が協賛している店もあるからな。そこの他国の品を扱っている雑貨店がそうだ」
オルキデアが示したのは、出店のテントと品物を並べたテーブルクロスに、百貨店のロゴが入った店であった。
「百貨店が協賛している店は、ハルモニアを始めとする周辺諸国から、独自の交易ルートを使って集めた物を販売しているらしい」
中立国であるハルモニア経由なら、シュタルクヘルトから妨害を受けないので、商品を輸入しやすい。
加えて、ハルモニアからの輸入は、他国からの輸入に比べ、関税も安ければ、軍による監視の目も潜り抜けやすい。
その分、国で禁止している違法品の密輸入も後が立たないが。
「百貨店が持つ独自の交易ルートによって、たまにシュタルクヘルトの品物も混ざっていることがあってな。危険物や思想に関するものでなければ、軍も手を出しづらい」
「どうしてですか?」
「あまりおおっぴらには言えないが、百貨店は軍部にも出資しているんだ。金から物まで。
それを切られてしまうと、些か軍部の財政事情が苦しくなる。だからこそ、余程のことで無ければ、口出ししづらい」
勿論、財政事情は苦しくなるが、軍部が傾く程ではない。
ただ、戦争が長期化している以上、いずれは出資なくして、成り立たなくなる時も来るだろう。
そうしなければ、国の予算の補填として税金の値上げや物価の高騰など国民に余波が来る。
「終戦を迎えれば、気にする必要はなくなるのでしょうか……?」
「どうだかな。終戦を迎えれば、出資が減って軍部は縮小される。
その代わり、今ほど検閲が厳重じゃなくなるから、シュタルクヘルトから交易品が輸入しやすくなる。人々の往来も容易くなるだろうさ」
昔に比べれば国内外への往来は緩和されたが、軍所属のペルフェクト兵はハルモニアへの入国を制限されている。
ハルモニア国内での無益な争いを避ける為と言われているが、一番はシュタルクヘルトとの衝突を避ける為であろう。
頻繁にペルフェクト兵がハルモニアへの出入国を繰り返していたら、同じく兵の出入国を制限しているシュタルクヘルトが変な勘繰りを入れてくる。
両国に対して中立を宣言しているハルモニアを板挟みにした対立構造は、ペルフェクト側からしても、なんとしても避けなければならない。
そうしなければ、ハルモニアとの関係が悪化してしまい、交易を始めとするハルモニアとの関係が断絶しかねない。この国はハルモニアとの交易に助けられているところも多い。今やハルモニアから交易品は国の郊外や国境沿いの軍基地にまで届き、国民の生活の奥深くまで関わっているからだった。
1
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる