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約束・4
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「いつから居たんだ?」
パタパタと膝についた砂を叩きながら、オルキデアが立ち上がると「いまさっきです」と返される。
「お風呂から出て、オルキデア様のお部屋に行こうとしたら、窓から見えたので……」
「風呂上がりだったのか。湯冷めするぞ。部屋に戻ろう」
言われてみれば、アリーシャの頬はほんのり上気しており、月に照らされる髪もうっすら濡れているようだった。
オルキデアが促すと、「少しだけ!」と首を振ったのだった。
「お風呂が熱かったので、湯冷めしない程度に夜風に当たりたくて……」
「だが……」
「それに……もうすぐ休暇が明けると聞いたので、少しでも同じ時間を共有したいんです」
少し前に、アリーシャにはもうすぐ休暇が明けて、仕事に戻る事を話していた。
あの時は聞き分けよく、「わかりました」と返していたが、実際のところは違ったのかもしれない。
執務室に仮住まいしていた時とは違い、少なからずアリーシャのーーアリサの顔を覚えている者がいる軍部に、気軽に連れて行く訳にはいかない。
出入りの際に、警備の兵や事情を知らない兵たちに怪しまれたら、それこそ移送させた意味がない。
オルキデアが仕事に行っている間、アリーシャには屋敷で留守番を頼むことになる。
「屋敷内が静かで怖い」と言っていたアリーシャを一人にするのは心苦しいが、親友夫婦もコーンウォール夫妻も、それぞれ仕事や家庭を持っているので安易には頼めない。
他に頼める者もいないので、一人きりで屋敷で帰りを待つことになるのだった。
「あ、でも。お邪魔でしたら部屋に戻ります。一人きりになりたい時もあると思うので……」
この場から立ち去ろうとしたアリーシャに、「ここに居ていい」と努めて優しく返す。
「庭の花を見ていただけだからな。気にしなくていい」
「庭の花ですか……。どれも綺麗ですよね」
「そうだな。だが、隣の紫の花には負けるな」
シュタルクヘルトという名の隣国からやって来て、今もオルキデアの傍らで艶然と微笑んで咲き誇る「紫の花」をじっと見つめながら、さも当然のように話す。
「隣の紫の花」と言われて、アリーシャはキョロキョロ探していたが、やがてオルキデアの視線から自分だと気づいたのだろう。
ますます顔を赤くして、「もう……」と声を漏らしたのだった。
「いつものように話すという事は、私の気のせいだったんですね」
「何かあったのか?」
「なんだか、クシャースラ様とお出かけに行ってから、元気が無さそうだったので……」
月夜に溶けてしまいそうな、濃い紫色の瞳を大きく見開いてしまう。
「……そう見えたか?」
「なんとなくですが……。見間違いでしたらすみません」
「いや、間違いではない。……俺としたことが駄目だな。お前に心配をかけて」
嘆息すると、「違います」と柔らかく返される。
「いつも私が迷惑かけて、助けていただいてばかりいるから、お役に立てないかと思っただけです」
「そんなことはない」
即座に否定すると、アリーシャは小さく微笑む。
「あの、もし聞いていい話なら、聞いてもいいですか? 私には話しを聞くくらいしか出来ませんが、口にしたら軽くなることもあると思うんです」
「……そうだな」
自嘲めいた笑みを浮かべると、オルキデアは昼間にティシュトリアと会ったことについて、話したのだった。
パタパタと膝についた砂を叩きながら、オルキデアが立ち上がると「いまさっきです」と返される。
「お風呂から出て、オルキデア様のお部屋に行こうとしたら、窓から見えたので……」
「風呂上がりだったのか。湯冷めするぞ。部屋に戻ろう」
言われてみれば、アリーシャの頬はほんのり上気しており、月に照らされる髪もうっすら濡れているようだった。
オルキデアが促すと、「少しだけ!」と首を振ったのだった。
「お風呂が熱かったので、湯冷めしない程度に夜風に当たりたくて……」
「だが……」
「それに……もうすぐ休暇が明けると聞いたので、少しでも同じ時間を共有したいんです」
少し前に、アリーシャにはもうすぐ休暇が明けて、仕事に戻る事を話していた。
あの時は聞き分けよく、「わかりました」と返していたが、実際のところは違ったのかもしれない。
執務室に仮住まいしていた時とは違い、少なからずアリーシャのーーアリサの顔を覚えている者がいる軍部に、気軽に連れて行く訳にはいかない。
出入りの際に、警備の兵や事情を知らない兵たちに怪しまれたら、それこそ移送させた意味がない。
オルキデアが仕事に行っている間、アリーシャには屋敷で留守番を頼むことになる。
「屋敷内が静かで怖い」と言っていたアリーシャを一人にするのは心苦しいが、親友夫婦もコーンウォール夫妻も、それぞれ仕事や家庭を持っているので安易には頼めない。
他に頼める者もいないので、一人きりで屋敷で帰りを待つことになるのだった。
「あ、でも。お邪魔でしたら部屋に戻ります。一人きりになりたい時もあると思うので……」
この場から立ち去ろうとしたアリーシャに、「ここに居ていい」と努めて優しく返す。
「庭の花を見ていただけだからな。気にしなくていい」
「庭の花ですか……。どれも綺麗ですよね」
「そうだな。だが、隣の紫の花には負けるな」
シュタルクヘルトという名の隣国からやって来て、今もオルキデアの傍らで艶然と微笑んで咲き誇る「紫の花」をじっと見つめながら、さも当然のように話す。
「隣の紫の花」と言われて、アリーシャはキョロキョロ探していたが、やがてオルキデアの視線から自分だと気づいたのだろう。
ますます顔を赤くして、「もう……」と声を漏らしたのだった。
「いつものように話すという事は、私の気のせいだったんですね」
「何かあったのか?」
「なんだか、クシャースラ様とお出かけに行ってから、元気が無さそうだったので……」
月夜に溶けてしまいそうな、濃い紫色の瞳を大きく見開いてしまう。
「……そう見えたか?」
「なんとなくですが……。見間違いでしたらすみません」
「いや、間違いではない。……俺としたことが駄目だな。お前に心配をかけて」
嘆息すると、「違います」と柔らかく返される。
「いつも私が迷惑かけて、助けていただいてばかりいるから、お役に立てないかと思っただけです」
「そんなことはない」
即座に否定すると、アリーシャは小さく微笑む。
「あの、もし聞いていい話なら、聞いてもいいですか? 私には話しを聞くくらいしか出来ませんが、口にしたら軽くなることもあると思うんです」
「……そうだな」
自嘲めいた笑みを浮かべると、オルキデアは昼間にティシュトリアと会ったことについて、話したのだった。
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