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別れと断髪・2
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「これでいいんだ。ここにいては、俺に巻き込まれるだけだからな」
「ラナンキュラス少将が無実だというのは、ペテルギウス大将は元より、わたしも知っています」
「そうなのか?」
ペテルギウス大将が無実を知っているとは思わなかった。
あの様子だと、オルキデアの無実を信じていなさそうに見えたが。
「無実を知っているからこそです。いずれ落ち着いた時に奥方を迎えに行く為にも、ほんの少し距離が離れているだけでいいんじゃないでしょうか。何も国外じゃなくても……」
「元々、彼女はシュタルクヘルトの出身だ。ペルフェクトよりは、何もかも合うだろうさ」
空が白み始めていた。
新しい一日がまた始まろうとしていた。
「俺の事情に……巻き込まずに済むからな」
「そうですか……」
「彼女を頼んだ。サンダルウッド」
使いの男はーーハルワタート・カイウス・サンダルウッドは、悲しげな顔でオルキデアをじっと見つめたが、やがて諦めたように息をついたのだった。
「必ず、送り届けます」
そうして、サンダルウッドは車に乗り込むと、アリーシャが入ったスーツケースを乗せて屋敷を離れて行った。
「幸せにな……。アリーシャ」
オルキデアが呟いた言葉は、エンジンの駆動に紛れて誰に知られることもなく地に落ちる。
車が見えなくなっても、日が完全に昇っても、オルキデアはその場から動くことが出来なかったのだったーー。
ようやく屋敷の中に戻ったオルキデアだったが、妙に屋敷が広く感じられた。
屋敷に帰宅する度にオルキデアを包んでいた温かい空気は消え失せて、今は静寂を含んだ冷ややかな空気が屋敷の中を満たしているようだった。
オルキデアは自室に戻ると、ただ呆然と机の前に座った。
とりあえず不在にしていた間の郵便物でも片付けるかと、何も考えられない頭で机の上に置かれていた郵便物を手に取った時だった。
それぞれ、日付ごとに仕分けされた郵便物の上に、日付が書かれた紙がテープで貼られていたことに気づく。
見慣れた文字がオルキデアの目に入り、胸が苦しくなる。
咄嗟に別の郵便物で日付が書かれた紙を隠すと、今度こそ何もしたくなくなった。
そのまま天井を仰ぐと、目を瞑ったのだった。
ーーオルキデア様!
不意にアリーシャの声が聞こえた気がして、目を開ける。
身を起こし掛けるが、そこにいたのは最愛の女性でもなんでもなく、気まずそうな顔をして「よぉ……」と力なく挨拶をした親友の姿だった。
「オルキデア。こんなところで寝たら風邪を引くぞ……」
「クシャースラか……」
いつの間に屋敷に入って来たのだろうか。訝しむように見つめると、「セシリアから鍵を預かってきた」と視線の意図に気付いて答えてくれたのだった。
「悪い。戻ったのが明け方で、さっきまで寝ていたんだ。お前さんのメールに気づくのが遅くなって……」
言われて、クシャースラに屋敷とアリーシャを狙った銃撃と不審な手紙に関するメールを送っていたことを思い出す。
オルキデアは「いや」とだけ首を振る。
「こっちこそ悪かった。近々、遠征があるのに邪魔をしてしまって……」
「そんなことはどうでもいい。で、アリーシャ嬢は? 一人にするのも不安だろうし、しばらくうちで預かるよ。セシリアも居るから大丈夫だろう。アリーシャ嬢の体調もすぐに良くなる……」
「そのことだけどな。クシャースラ」
オルキデアは目を伏せると、そっと口を開く。
「アリーシャはもういないんだ。……本来、彼女が居るべき場所に帰した」
「ラナンキュラス少将が無実だというのは、ペテルギウス大将は元より、わたしも知っています」
「そうなのか?」
ペテルギウス大将が無実を知っているとは思わなかった。
あの様子だと、オルキデアの無実を信じていなさそうに見えたが。
「無実を知っているからこそです。いずれ落ち着いた時に奥方を迎えに行く為にも、ほんの少し距離が離れているだけでいいんじゃないでしょうか。何も国外じゃなくても……」
「元々、彼女はシュタルクヘルトの出身だ。ペルフェクトよりは、何もかも合うだろうさ」
空が白み始めていた。
新しい一日がまた始まろうとしていた。
「俺の事情に……巻き込まずに済むからな」
「そうですか……」
「彼女を頼んだ。サンダルウッド」
使いの男はーーハルワタート・カイウス・サンダルウッドは、悲しげな顔でオルキデアをじっと見つめたが、やがて諦めたように息をついたのだった。
「必ず、送り届けます」
そうして、サンダルウッドは車に乗り込むと、アリーシャが入ったスーツケースを乗せて屋敷を離れて行った。
「幸せにな……。アリーシャ」
オルキデアが呟いた言葉は、エンジンの駆動に紛れて誰に知られることもなく地に落ちる。
車が見えなくなっても、日が完全に昇っても、オルキデアはその場から動くことが出来なかったのだったーー。
ようやく屋敷の中に戻ったオルキデアだったが、妙に屋敷が広く感じられた。
屋敷に帰宅する度にオルキデアを包んでいた温かい空気は消え失せて、今は静寂を含んだ冷ややかな空気が屋敷の中を満たしているようだった。
オルキデアは自室に戻ると、ただ呆然と机の前に座った。
とりあえず不在にしていた間の郵便物でも片付けるかと、何も考えられない頭で机の上に置かれていた郵便物を手に取った時だった。
それぞれ、日付ごとに仕分けされた郵便物の上に、日付が書かれた紙がテープで貼られていたことに気づく。
見慣れた文字がオルキデアの目に入り、胸が苦しくなる。
咄嗟に別の郵便物で日付が書かれた紙を隠すと、今度こそ何もしたくなくなった。
そのまま天井を仰ぐと、目を瞑ったのだった。
ーーオルキデア様!
不意にアリーシャの声が聞こえた気がして、目を開ける。
身を起こし掛けるが、そこにいたのは最愛の女性でもなんでもなく、気まずそうな顔をして「よぉ……」と力なく挨拶をした親友の姿だった。
「オルキデア。こんなところで寝たら風邪を引くぞ……」
「クシャースラか……」
いつの間に屋敷に入って来たのだろうか。訝しむように見つめると、「セシリアから鍵を預かってきた」と視線の意図に気付いて答えてくれたのだった。
「悪い。戻ったのが明け方で、さっきまで寝ていたんだ。お前さんのメールに気づくのが遅くなって……」
言われて、クシャースラに屋敷とアリーシャを狙った銃撃と不審な手紙に関するメールを送っていたことを思い出す。
オルキデアは「いや」とだけ首を振る。
「こっちこそ悪かった。近々、遠征があるのに邪魔をしてしまって……」
「そんなことはどうでもいい。で、アリーシャ嬢は? 一人にするのも不安だろうし、しばらくうちで預かるよ。セシリアも居るから大丈夫だろう。アリーシャ嬢の体調もすぐに良くなる……」
「そのことだけどな。クシャースラ」
オルキデアは目を伏せると、そっと口を開く。
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