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目が覚めると……・4
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「お嬢様。駅の中に入りましょう。中にもベンチがあります。そちらに座って下さい」
唯一の希望であった老爺が去ってしまった以上、アリーシャには抵抗する気力さえなくなってしまった。
カリーダに腕を引かれるまま、アリーシャは駅の中に入って行く。
駅舎の中には、シュタルクヘルトらしいバラバラの服装をした人たちが大勢いた。
掲示板を見ては自分が乗車予定の汽車を確認する者、乗車予定の汽車が分からず、駅員に質問する者、携帯電話や公衆電話で通話をする者などがあちこちにいた。
彼らがシュタルクヘルト語を話すことから、やはりシュタルクヘルトに戻って来てしまったのだと、アリーシャは思わざるを得なかった。
アリーシャはシュタルクヘルトの駅に来たのも初めてであり、シュタルクヘルトの汽車に乗るのも初めてであった。
いつもなら子供の様に喜ぶところだが、今はそんな気分にはなれなかった。
心なしか、また気分が悪くなったような気さえした。
「私達が乗車予定の汽車は、あと二十分程で駅に到着するようですね。これから到着する汽車の次に来るそうです」
改札口近くのベンチに座らされたアリーシャは、ベンチの傍らに立ち、懐中時計で時間を確認するカリーダの言葉をじっと聞き入る。
「屋敷に到着するのは夕方過ぎになるでしょう。汽車の中で何か召し上がりますか。車内販売のワゴンもあると聞いていますので、そちらで購入しても……」
「なんで、お迎えに来たんですか……? 私、死んだことになっているのに……」
アリサが死んだことはシュタルクヘルトの新聞に大々的に掲載されていた。
仮に新聞に掲載された時は行方不明扱いだったとしても、あれから半年近くが経過している。
死亡したと考えられて、アリサの存在さえ忘れられていると思っていた。
「屋敷に連絡があったからです。『九番目の子供を帰す』と」
「誰からですか?」
「機械の様な音声だったので、性別までは分かりません。ただ九番目の子供というのは、アリサお嬢様に他なりません。その話を聞いた旦那様が、お嬢様をお迎えに行くように私に指示されて、こうして相手が指定してきた場所に来ました」
「そうですか……」
「お嬢様をお連れした方は、遣いの者でしょう。相手も遣いの者に送らせると言っていたので」
「悪戯電話だと思わないんですか。私の名前を利用して、身代金を要求しようとか」
「その可能性も考えましたが、ただそれでも旦那様は私を行かせたと思いますよ。旦那様はお子様方を愛されていますから。無論、お嬢様も含めて」
そんなはずない、とアリーシャは心の中で叫ぶ。
母が亡くなり、アリーシャを引き取ってから、最初に顔を合わせた時を除いて、父はずっと無視してきた。
残飯の様な食事や、ほつれた衣服しか与えられていないことを知りながらも、何もしてくれなかった。
倉庫として使っていた古い部屋に住まわせて、外出も許してくれず、家族の集まりにも呼んでくれなかった。
オルキデアと出会うきっかけとなった軍事医療施設への慰問も、他の兄弟姉妹が行きたがらなかったから、仕方なくアリーシャに声を掛けてきたようなものだった。
「父が……お父さんが、そう思って頂けたなら嬉しいです……」
「お嬢様」
カリーダは物言いたげな顔をしていたが、それに気づかない振りをして、アリーシャは俯いた。
ーーたとえ、その言葉の裏にどんな意図があったとしても。
アリーシャが心の中で呟いた時、汽笛を鳴らしながら駅の中に汽車が入ってきた。二人の近くにいた人たちが汽車に向かって歩いて行き、そこで話は終途切れたのであった。
それから乗車予定の汽車が来るまで、二人はずっと無言で居たのだった。
唯一の希望であった老爺が去ってしまった以上、アリーシャには抵抗する気力さえなくなってしまった。
カリーダに腕を引かれるまま、アリーシャは駅の中に入って行く。
駅舎の中には、シュタルクヘルトらしいバラバラの服装をした人たちが大勢いた。
掲示板を見ては自分が乗車予定の汽車を確認する者、乗車予定の汽車が分からず、駅員に質問する者、携帯電話や公衆電話で通話をする者などがあちこちにいた。
彼らがシュタルクヘルト語を話すことから、やはりシュタルクヘルトに戻って来てしまったのだと、アリーシャは思わざるを得なかった。
アリーシャはシュタルクヘルトの駅に来たのも初めてであり、シュタルクヘルトの汽車に乗るのも初めてであった。
いつもなら子供の様に喜ぶところだが、今はそんな気分にはなれなかった。
心なしか、また気分が悪くなったような気さえした。
「私達が乗車予定の汽車は、あと二十分程で駅に到着するようですね。これから到着する汽車の次に来るそうです」
改札口近くのベンチに座らされたアリーシャは、ベンチの傍らに立ち、懐中時計で時間を確認するカリーダの言葉をじっと聞き入る。
「屋敷に到着するのは夕方過ぎになるでしょう。汽車の中で何か召し上がりますか。車内販売のワゴンもあると聞いていますので、そちらで購入しても……」
「なんで、お迎えに来たんですか……? 私、死んだことになっているのに……」
アリサが死んだことはシュタルクヘルトの新聞に大々的に掲載されていた。
仮に新聞に掲載された時は行方不明扱いだったとしても、あれから半年近くが経過している。
死亡したと考えられて、アリサの存在さえ忘れられていると思っていた。
「屋敷に連絡があったからです。『九番目の子供を帰す』と」
「誰からですか?」
「機械の様な音声だったので、性別までは分かりません。ただ九番目の子供というのは、アリサお嬢様に他なりません。その話を聞いた旦那様が、お嬢様をお迎えに行くように私に指示されて、こうして相手が指定してきた場所に来ました」
「そうですか……」
「お嬢様をお連れした方は、遣いの者でしょう。相手も遣いの者に送らせると言っていたので」
「悪戯電話だと思わないんですか。私の名前を利用して、身代金を要求しようとか」
「その可能性も考えましたが、ただそれでも旦那様は私を行かせたと思いますよ。旦那様はお子様方を愛されていますから。無論、お嬢様も含めて」
そんなはずない、とアリーシャは心の中で叫ぶ。
母が亡くなり、アリーシャを引き取ってから、最初に顔を合わせた時を除いて、父はずっと無視してきた。
残飯の様な食事や、ほつれた衣服しか与えられていないことを知りながらも、何もしてくれなかった。
倉庫として使っていた古い部屋に住まわせて、外出も許してくれず、家族の集まりにも呼んでくれなかった。
オルキデアと出会うきっかけとなった軍事医療施設への慰問も、他の兄弟姉妹が行きたがらなかったから、仕方なくアリーシャに声を掛けてきたようなものだった。
「父が……お父さんが、そう思って頂けたなら嬉しいです……」
「お嬢様」
カリーダは物言いたげな顔をしていたが、それに気づかない振りをして、アリーシャは俯いた。
ーーたとえ、その言葉の裏にどんな意図があったとしても。
アリーシャが心の中で呟いた時、汽笛を鳴らしながら駅の中に汽車が入ってきた。二人の近くにいた人たちが汽車に向かって歩いて行き、そこで話は終途切れたのであった。
それから乗車予定の汽車が来るまで、二人はずっと無言で居たのだった。
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