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シュタルクヘルト家・2
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終点で汽車を降りると、乗車した北部の駅よりも人手が多くて、アリーシャは戸惑ってしまう。
さすが首都と言えばいいのだろうか。老若男女関係なく、駅の構内は人で混雑していた。シュタルクヘルト語で交わされる会話も乗車案内も絶えなく構内に響き渡っており、まるで音の洪水の中に居る様であった。
アリーシャのカバンを持ったカリーダの先導で駅の外に出ると、すぐ目の前の車停めにシュタルクヘルト家の家紋が入った車が停められていた。きっと車内で電話をしていたカリーダが迎えを呼んでくれたのだろう。
アリーシャ達が近づいて行くと、運転席から降りて来た中年の男性運転手が車のドアを開けてくれた。
「さあ、お嬢様」
シュタルクヘルト家の車が駅に停められるのが珍しいのか、カリーダに促されたアリーシャは周囲の注目を浴びながら車に乗り込む。オルキデアがメイソンから借りていた車とは違って、シュタルクヘルト家の車の座席は柔らかく、座り心地が良い。足を伸ばせて座れるくらいに車内も広く、天井もずっと高かった。
アリーシャの向かいの席にカリーダが座ると、二人を乗せた車はゆっくりと走り出した。
シュタルクヘルトを離れてから半年ほどしか離れていないのに、どこか異国に来たような気持ちになる。自分でも思っていた以上に、ペルフェクトでの生活に馴染んでいたのだろうか。
(それもそうだよね。だってあの国での生活はとっても充実していたもの)
オルキデアという大切な存在が居たところが大きいが、クシャースラやセシリアといった友人、マルテやメイソンといった本当の両親の様に優しく頼もしい存在があの国には居た。
大変な思いもしたが、それ以上に幸せな出来事がたくさんあった。毎日が楽しくて不安が無かった。
シュタルクヘルトに居た頃に出来なかったことややってみたことを、あの国では出来た。
カフェで食事をして、墓参りに行って、お祭りではしゃいで、海で砂の城を作った。自分の気持ちに忠実に、誰の目も気にする必要もなかった。
ペルフェクトで過ごした日々は温かい思い出に包まれていた。
一方でシュタルクヘルトでの日々はどうだろう。
母を亡くしてからは苦労の日々だった。父に気に入られたいと勉強に励み、他の兄弟姉妹や使用人たちの嫌がらせに耐え続けた。どうやっても父が見てくれないと分かると、後は息を殺して生き続けた。
もしかしたらいつの日か父は見てくれるかもしれない、自分も「家族」の一人として扱ってくれるかもしれないと、心のどこかで思っていた。
泣きたい時もあったけど我慢した。泣いても状況は変わらない。母が生き返る訳でも、父が愛してくれる訳でもないと知っていたから。
だからこそ、落雷の日にオルキデアに「我慢せずに泣いていい」と言われた時、堰を切った様に泣いてしまった。
母が死んでからは、誰からも言われたことが無かった。オルキデアの前で泣いたからといって何かが変わった訳では無い。でも泣いた事で胸の中が軽くなった。
シュタルクヘルト家で生活している内にいつの間にか自分を守ろうとして、自分の心を殻に包んでいたのだろう。それがオルキデアの言葉がきっかけで泣いたことで殻が無くなった。どこか晴れ晴れとした気持ちになれたのだった。
それなのに今もまた自分の心が壊れそうになったきっかけとなる家に戻ろうとしている。気分が重くならない訳が無かった。
アリーシャは服の上から胸の辺りを触って、オルキデアとの唯一の繋がりとなったネックレスに触れる。小さく息をすると、目的地に到着するまで外の景色を見て過ごしたのであった。
そうして外が完全に宵闇に包まれる頃、アリーシャたちを乗せた車は首都で一番大きな屋敷と言われているシュタルクヘルト家の門をくぐったのであった。
さすが首都と言えばいいのだろうか。老若男女関係なく、駅の構内は人で混雑していた。シュタルクヘルト語で交わされる会話も乗車案内も絶えなく構内に響き渡っており、まるで音の洪水の中に居る様であった。
アリーシャのカバンを持ったカリーダの先導で駅の外に出ると、すぐ目の前の車停めにシュタルクヘルト家の家紋が入った車が停められていた。きっと車内で電話をしていたカリーダが迎えを呼んでくれたのだろう。
アリーシャ達が近づいて行くと、運転席から降りて来た中年の男性運転手が車のドアを開けてくれた。
「さあ、お嬢様」
シュタルクヘルト家の車が駅に停められるのが珍しいのか、カリーダに促されたアリーシャは周囲の注目を浴びながら車に乗り込む。オルキデアがメイソンから借りていた車とは違って、シュタルクヘルト家の車の座席は柔らかく、座り心地が良い。足を伸ばせて座れるくらいに車内も広く、天井もずっと高かった。
アリーシャの向かいの席にカリーダが座ると、二人を乗せた車はゆっくりと走り出した。
シュタルクヘルトを離れてから半年ほどしか離れていないのに、どこか異国に来たような気持ちになる。自分でも思っていた以上に、ペルフェクトでの生活に馴染んでいたのだろうか。
(それもそうだよね。だってあの国での生活はとっても充実していたもの)
オルキデアという大切な存在が居たところが大きいが、クシャースラやセシリアといった友人、マルテやメイソンといった本当の両親の様に優しく頼もしい存在があの国には居た。
大変な思いもしたが、それ以上に幸せな出来事がたくさんあった。毎日が楽しくて不安が無かった。
シュタルクヘルトに居た頃に出来なかったことややってみたことを、あの国では出来た。
カフェで食事をして、墓参りに行って、お祭りではしゃいで、海で砂の城を作った。自分の気持ちに忠実に、誰の目も気にする必要もなかった。
ペルフェクトで過ごした日々は温かい思い出に包まれていた。
一方でシュタルクヘルトでの日々はどうだろう。
母を亡くしてからは苦労の日々だった。父に気に入られたいと勉強に励み、他の兄弟姉妹や使用人たちの嫌がらせに耐え続けた。どうやっても父が見てくれないと分かると、後は息を殺して生き続けた。
もしかしたらいつの日か父は見てくれるかもしれない、自分も「家族」の一人として扱ってくれるかもしれないと、心のどこかで思っていた。
泣きたい時もあったけど我慢した。泣いても状況は変わらない。母が生き返る訳でも、父が愛してくれる訳でもないと知っていたから。
だからこそ、落雷の日にオルキデアに「我慢せずに泣いていい」と言われた時、堰を切った様に泣いてしまった。
母が死んでからは、誰からも言われたことが無かった。オルキデアの前で泣いたからといって何かが変わった訳では無い。でも泣いた事で胸の中が軽くなった。
シュタルクヘルト家で生活している内にいつの間にか自分を守ろうとして、自分の心を殻に包んでいたのだろう。それがオルキデアの言葉がきっかけで泣いたことで殻が無くなった。どこか晴れ晴れとした気持ちになれたのだった。
それなのに今もまた自分の心が壊れそうになったきっかけとなる家に戻ろうとしている。気分が重くならない訳が無かった。
アリーシャは服の上から胸の辺りを触って、オルキデアとの唯一の繋がりとなったネックレスに触れる。小さく息をすると、目的地に到着するまで外の景色を見て過ごしたのであった。
そうして外が完全に宵闇に包まれる頃、アリーシャたちを乗せた車は首都で一番大きな屋敷と言われているシュタルクヘルト家の門をくぐったのであった。
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