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今世、思い出した時は既婚者だった
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その後、ヘニング様を説得出来ないまま、私は与えられた自室に戻った。
(どうしよう。このままじゃあヘニング様と伽を迎える事になる……。グラナック卿と結ばれるなんて絶望的なんじゃ……)
ソファーに座って考えていると、「奥様」と声を掛けられる。顔を上げると、そこには私付きの侍女だというジェナがいた。
「ジェナ。どうしたの?」
「失礼ながら、奥様は誤解されている様ですが、旦那様がお心に決めたお相手というのは奥様に間違いありません」
「私達の話を聞いていたの?」
「廊下を通り掛かったら、たまたま声が聞こえてきましたので」
立ち聞きした事をジェナは謝罪するが、それよりも私はヘニング様の事が気になったので話しをする様に促す。
「私は旦那様が幼い頃からこの屋敷に仕えていますが、旦那様は不思議な方でした。何と言えばいいのか、どこか大人びていらしたのです」
「乳母や家庭教師の教えを守っていたからではなくて?」
「それでも幼少の頃というのは、もう少し手が掛かるものです。悪戯をして、勉強や剣の稽古を抜け出して、周囲に反発して、子供らしい姿を見せるものです。
それなのに旦那様は一度もその様な事をなさいません。聞き分けが良く、大人の話を聞き、言う事を守りました。それが原因で、ご家族から距離を置かれ、同年代の友人が出来なかったとしても……」
「そうだったの……」
出会った頃からヘニング様はどこか周囲と距離を置いている様に見えたが、もしかしたら幼少期が原因だったのだろうか。
「確かに旦那様は幼少の頃からどなたかを探している様子でした。人に聞き、自分の足で尋ね歩いていました。ですが、そのお相手が誰かは旦那様にも分かっていないご様子でした。ようやく見つけたのは、王族の結婚式に護衛騎士として参列した際。花嫁となる王族の姫のご家族とお会いした時でした」
「それって……私?」
「そうです。初めて奥様とお会いした時に旦那様は思ったそうです。『王家の末姫こそ、俺が探していた相手に違いない』と」
その後、ヘニング様は騎士団や公爵家の伝手を使って、私の事を調べたらしい。私が今まで病弱で表舞台に出られなかった事、成人を前に身体が回復してきたので姉の結婚式に参列した事など。
「奥様について調べる中で、奥様の降嫁先について皇帝陛下が頭を悩まされていると知りました。そこで旦那様が名乗り出たそうです。『王家の末娘を妻として迎え入れたい』と」
ヘニング様以外にも私を妻に求めた者はいたらしいが、父である皇帝は遠縁でも血縁者であるという理由からヘニング様に降嫁を決めたらしい。
またシュトローマ公爵であるヘニング様に王族直系の姫を降嫁させるという事は、シュトローマ家を王族側の味方に付けさせるという意味でもあった。
「皇帝陛下は奥様を降嫁させる代わりに、旦那様に国への忠誠を誓わせました。シュトローマ家は代々騎士の家系です。また騎士団の大半はシュトローマ家の身内か関係者です。特に騎士団の上層部はほとんどシュトローマ家の者が占めています」
「それが何か……?」
「……もし万が一にも、シュトローマ家が国を簒奪しようと考えた時、貴族だけではなく騎士団にも人脈にあるシュトローマ家が圧倒的に有利です。資金面だけではなく、統制が取れた騎士でさえ動かせるのですから」
「でもそうなる前に王家側の私設騎士団が鎮圧するわ。簒奪なんて事にはならない」
この国には帝国に忠誠を誓う帝国騎士団以外にも、領地や屋敷の防衛を目的とした各貴族で運営する私設騎士団が存在する。
主に定職に就かず遊び惚けている貴族の子息や用心棒の延長の様な者達で成り立っているが、中には元騎士団に所属していた者も多く在籍している。彼らなら帝国騎士団にも敵うだろう。
そう考えて言ったのだが、ジュナは首を振っただけであった。
「勿論、各貴族が私設騎士団を派遣して騎士団を鎮圧しようとするでしょう。しかし奥様、お考え下さい。各私設騎士団が派遣されたとしても、今度は集まった指揮官の中から誰が鎮圧の指揮を執るかで揉める事は想像に難くありません。所詮は寄せ集めの者達です。有事の際には烏合の衆となるでしょう」
「そんな……」
「対して、旦那様も所属する帝国騎士団は、日々の訓練や規律によって統制が取れています。有事の際にも問題なく動けるでしょう。シュトローマ家が騎士団の大半の実績を握っている今の状態では、いつ騎士団ごとシュトローマ家が王家の敵となるか分かりません。皇帝陛下は何としても騎士団を御する必要がありました。そんな中で旦那様が奥様を本妻に申されたのです。皇帝陛下がそれを逃す訳がありません」
つまり父は私をヘニング様に降嫁させて王家に忠誠を誓わせる事で、騎士団全員が敵に回る事態を防いだのだろう。ヘニング様が王家に忠義を尽くす限り、ヘニング様の部下やヘニング様を慕う者達も王家側に付く事になる。
でも、それって……。
「それって、万が一にでも王家とシュトローマ家が敵対するような事態になった時、ヘニング様は一族を裏切って、王家に付く事になるのよね。つまりヘニング様は一族の中で孤立している事になるのでは……」
ジュナが何も答えずに目を伏せているという事は、やはりそうなのだろう。
私と結婚した事でシュトローマ家でのヘニング様の立場が微妙なものとなっている。シュトローマ家が王家を裏切るとは限らないが、それでもヘニング様がやっている事は一族に歓迎されるものではない。孤立され、何かあった時に一族から支援や協力を得る事さえ出来ないのかもしれない。
(どうしよう。このままじゃあヘニング様と伽を迎える事になる……。グラナック卿と結ばれるなんて絶望的なんじゃ……)
ソファーに座って考えていると、「奥様」と声を掛けられる。顔を上げると、そこには私付きの侍女だというジェナがいた。
「ジェナ。どうしたの?」
「失礼ながら、奥様は誤解されている様ですが、旦那様がお心に決めたお相手というのは奥様に間違いありません」
「私達の話を聞いていたの?」
「廊下を通り掛かったら、たまたま声が聞こえてきましたので」
立ち聞きした事をジェナは謝罪するが、それよりも私はヘニング様の事が気になったので話しをする様に促す。
「私は旦那様が幼い頃からこの屋敷に仕えていますが、旦那様は不思議な方でした。何と言えばいいのか、どこか大人びていらしたのです」
「乳母や家庭教師の教えを守っていたからではなくて?」
「それでも幼少の頃というのは、もう少し手が掛かるものです。悪戯をして、勉強や剣の稽古を抜け出して、周囲に反発して、子供らしい姿を見せるものです。
それなのに旦那様は一度もその様な事をなさいません。聞き分けが良く、大人の話を聞き、言う事を守りました。それが原因で、ご家族から距離を置かれ、同年代の友人が出来なかったとしても……」
「そうだったの……」
出会った頃からヘニング様はどこか周囲と距離を置いている様に見えたが、もしかしたら幼少期が原因だったのだろうか。
「確かに旦那様は幼少の頃からどなたかを探している様子でした。人に聞き、自分の足で尋ね歩いていました。ですが、そのお相手が誰かは旦那様にも分かっていないご様子でした。ようやく見つけたのは、王族の結婚式に護衛騎士として参列した際。花嫁となる王族の姫のご家族とお会いした時でした」
「それって……私?」
「そうです。初めて奥様とお会いした時に旦那様は思ったそうです。『王家の末姫こそ、俺が探していた相手に違いない』と」
その後、ヘニング様は騎士団や公爵家の伝手を使って、私の事を調べたらしい。私が今まで病弱で表舞台に出られなかった事、成人を前に身体が回復してきたので姉の結婚式に参列した事など。
「奥様について調べる中で、奥様の降嫁先について皇帝陛下が頭を悩まされていると知りました。そこで旦那様が名乗り出たそうです。『王家の末娘を妻として迎え入れたい』と」
ヘニング様以外にも私を妻に求めた者はいたらしいが、父である皇帝は遠縁でも血縁者であるという理由からヘニング様に降嫁を決めたらしい。
またシュトローマ公爵であるヘニング様に王族直系の姫を降嫁させるという事は、シュトローマ家を王族側の味方に付けさせるという意味でもあった。
「皇帝陛下は奥様を降嫁させる代わりに、旦那様に国への忠誠を誓わせました。シュトローマ家は代々騎士の家系です。また騎士団の大半はシュトローマ家の身内か関係者です。特に騎士団の上層部はほとんどシュトローマ家の者が占めています」
「それが何か……?」
「……もし万が一にも、シュトローマ家が国を簒奪しようと考えた時、貴族だけではなく騎士団にも人脈にあるシュトローマ家が圧倒的に有利です。資金面だけではなく、統制が取れた騎士でさえ動かせるのですから」
「でもそうなる前に王家側の私設騎士団が鎮圧するわ。簒奪なんて事にはならない」
この国には帝国に忠誠を誓う帝国騎士団以外にも、領地や屋敷の防衛を目的とした各貴族で運営する私設騎士団が存在する。
主に定職に就かず遊び惚けている貴族の子息や用心棒の延長の様な者達で成り立っているが、中には元騎士団に所属していた者も多く在籍している。彼らなら帝国騎士団にも敵うだろう。
そう考えて言ったのだが、ジュナは首を振っただけであった。
「勿論、各貴族が私設騎士団を派遣して騎士団を鎮圧しようとするでしょう。しかし奥様、お考え下さい。各私設騎士団が派遣されたとしても、今度は集まった指揮官の中から誰が鎮圧の指揮を執るかで揉める事は想像に難くありません。所詮は寄せ集めの者達です。有事の際には烏合の衆となるでしょう」
「そんな……」
「対して、旦那様も所属する帝国騎士団は、日々の訓練や規律によって統制が取れています。有事の際にも問題なく動けるでしょう。シュトローマ家が騎士団の大半の実績を握っている今の状態では、いつ騎士団ごとシュトローマ家が王家の敵となるか分かりません。皇帝陛下は何としても騎士団を御する必要がありました。そんな中で旦那様が奥様を本妻に申されたのです。皇帝陛下がそれを逃す訳がありません」
つまり父は私をヘニング様に降嫁させて王家に忠誠を誓わせる事で、騎士団全員が敵に回る事態を防いだのだろう。ヘニング様が王家に忠義を尽くす限り、ヘニング様の部下やヘニング様を慕う者達も王家側に付く事になる。
でも、それって……。
「それって、万が一にでも王家とシュトローマ家が敵対するような事態になった時、ヘニング様は一族を裏切って、王家に付く事になるのよね。つまりヘニング様は一族の中で孤立している事になるのでは……」
ジュナが何も答えずに目を伏せているという事は、やはりそうなのだろう。
私と結婚した事でシュトローマ家でのヘニング様の立場が微妙なものとなっている。シュトローマ家が王家を裏切るとは限らないが、それでもヘニング様がやっている事は一族に歓迎されるものではない。孤立され、何かあった時に一族から支援や協力を得る事さえ出来ないのかもしれない。
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