【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
6 / 247
第一部

旦那様【2】

しおりを挟む
「旦那様」と呼ばれていた男性が出て行くと、御國はそっと安堵の息をついた。

(緊張した……。あんなイケメンを間近で見たことなんて、これまでなかったし……)

 気がかりなことがあるとすれば、御國に対する態度とニコラに対する旦那様の態度があまりにも違うところだろうか。

(何か理由があるのかな……)

 とりあえず旦那様から何も追及されなかった事に安堵してそっと息を吐いていると、それに気づいたメイド長が金色の鋭い眼光を御國に向けて、声を掛けてきたのだった。

「モニカ様。旦那様にニコラ様に会わないのかと勧めるとは……何かありましたか?」
「えっ!? 何かって、何も……。駄目でしたか?」

 御國がギョッとしてメイド長を見つめると、メイド長は「いえ、駄目という訳ではありませんが」と首を降るが、ややあってから「ですが」と続けたのだった。

「これまでは頑なに、旦那様にお嬢様のニコラ様を会わせることはありませんでした。
 二人の間に出来たお子様にも関わらず、頑なに旦那様に会わせないのは、何か理由があるのかと思っていましたので」
「えっ……?」

 御國が何か言わなければと考えている間に、メイド長は咳払いをしたのだった。

「起きたばかりで長々と失礼しました。長話は身体に障ります。しばらく横になってお休み下さい。ニコラ様は私共で看ますので」

 そうして、メイド長は他のメイドにニコラを別室に連れて行くように命じると、御國を残して部屋から出て行ったのだった。
 他のメイドたちもそれに続き、やがて、一人、部屋に残された御國は呆然としたのだった。

(ま、間違えた……?)

 御國自身は、御國とニコラが、清潔に整えられた豪華なこの部屋の中に、大切そうに寝かされていたことから、二人はあの「旦那様」と呼ばれていた男性と、深い関係があると思って声を掛けた。
 けれども、旦那様の反応やメイド長の様子から考えると、そんな親密な関係では無さそうだった。

 そしてもう一つ、気にかかることといえば――。

「今、『モニカ』って呼ばれた……?」

 旦那様も、メイド長も、最初に部屋に入ってきたメイドも、誰もが御國のことを「モニカ」と呼んでいた。

(もしかして、私は『モニカ』っていう女性の中に入ってしまったの?)

 確かに、御國は階段から落ちて死んだはずだった。その時のことは、今でもよく思い出せる。
 頭から出血して血の気が失せていき、真っ暗になっていく視界。コンクリートにぶつけた痛みが続く間もなく、冷たくなっていく身体。何も聞こえなくなって、意識がブツリと切れたあの瞬間。
 自分が死んだ時を思い出して、御國は両肩を押さえて真っ青になるとぶるりと身震いをした。

(あの時、階段から落ちて死んだ以外に何かあったっけ……?)

 自分が死んだ時のことを思い出そうとすると、何故か頭がズキリと痛んだ。まるで、思い出してはいけない「何か」がそこにあるかのように――。

(今は自分が死んだ時は考えないようにしよう。それよりも、これからどうしたらいいか考えないと……!)

 御國がモニカの中にいるということは、もしかしたら、モニカは御國の中にいるのかもしれない。
 それよりも、階段から落ちたはずの御國の身体はどうなったのだろうか?
 あの時は死んだと思っていた。けれども、モニカの中に入った御國が生きているということは、もしかしてモニカが中に入った御國が生きている可能性も――。

(でも、誰かに相談しようにも、こんな話、信じてくれそうにないし……)

 いつ元の身体に戻れるかはわからないが、しばらくの間、御國はモニカとして生活しなければならないだろう。

「バレないようにしなければ……。モニカにならなければ……!」

 御國は決意を新たにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...