【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
13 / 247
第一部

バレた!?【1】

しおりを挟む
「私です。入ってもいいですか?」

 次の日の夕方、旦那様が御國の元を訪れた。

「はい。どうぞ」

 今日は仕事が休みということで、旦那様は今までどこかに出掛けていたらしい。
 部屋に入ってくると眉を顰めたのだった。

「……何をしているのですか?」

 御國はベッドに腰掛けると、腕にニコラを抱いて、右手にスプーンを持っていたのだった。

「あっ、これですか? もうすぐ、ニコラが離乳食を始めると思うので、その前にスプーンに慣れさせておこうと思いまして」

 御國は持っていたスプーンを、傍らのサイドテーブルに置いていた水の入ったコップの中に入れたのだった。

 これは元の世界で育児書を読んだ時に知ったのだが、離乳食を始めた赤ちゃんの中には、金属のスプーン特有の冷たさが苦手な子がいるらしい。
 そうならないように、予めスプーンを使って、水や小指の先よりも少ない野菜スープ、すりつぶした果実を絞った汁を飲ませて、スプーンに慣れさせると良いとのことだった。

「旦那様もあげてみますか? ニコラはスプーンを怖がらないどころか、もっと水が欲しいみたいですよ」
「それじゃあ……い、いえ! 今は遠慮しておきます」
「そうですが。ああ、それなら! ニコラの入浴上がりはどうですか? その時に、またあげるつもりです!」

 再度、御國は勧めてみるが、旦那様は丁重に断ったのだった。

「それよりも、貴女に渡したいものがあります」
「渡したいものですか?」
「ええ。部屋まで来て頂けますか?」

 旦那様はペルラを呼ぶと、ニコラの面倒を見るように指示を出して預けたのだった。
 そうして、御國は旦那様に連れられて、部屋を出たのだった。

「ここが、旦那様のお部屋なんですね」

 旦那様に連れられて始めて入った部屋の中には、ダブルベッドの様な大きなベッドと、白色の布張りのソファーセット、よく磨かれたガラスのテーブルしかなかった。
 その代わりに、窓辺には御國の部屋よりも大きな白いバルコニーがあったのだった。

「私の部屋というよりは、ここは私と貴女の寝室です。もっとも、貴女が私と同じ部屋での就寝を拒否したので、今は私が一人で使用しています。そういう意味では、私の部屋と言っても間違いではありませんが……」

「覚えていませんか?」と旦那様に聞かれ、御國は真っ青になりながら、首を振ったのだった。

「ま、まさか。勿論、覚えていますよ!」

(しまった)

 御國は内心でそう思いながらも、何度も頷いた。
 旦那様はまだ疑わしげではあったが、「そうですか」とだけ答えたのだった。

 御國が窓辺に近寄ると、旦那様も後を追うようにやって来た。
 旦那さんの手には、掌サイズの小さな白色の小箱があったのだった。

「貴女にこれを差し上げます」
「ありがとうございます……」

 御國が両手を伸ばして丁寧に受け取るが、何故かその瞬間、旦那様は悲しげな顔をしたのだった。

「開けてもいいですか?」
「……どうぞ」

 御國がそっと小箱を開けると、中には中指の爪くらいの大きさをした赤い宝石の指輪が入っていたのだった。

「わぁ! これはルビーでしょうか? 綺麗な指輪ですね!」

 御國は窓から差し込む光に指輪をかざしてみる。指輪は光を受けて、キラキラと赤く輝いていたのだった。

「貴方が階段から落ちて昏睡状態になる前、貴女は私が差し上げた指輪を失くしたと、大騒ぎをしましたね。それをきっかけに、私たちは大喧嘩をしてしまいました」 
「そ、そうでしたね!」

(それで夫婦仲が悪かったんだ……)

 ペルラが言っていた「モニカ」が、旦那様にニコラを会わせなかったというのは、きっとこの大喧嘩がきっかけなのだろう。
 ようやく、夫婦仲が悪い理由がわかって一安心すると、御國は何も身につけていなかった左手の薬指に、指輪を嵌めたのだった。

「それなら、私はもう気にしていません。この指輪で充分です」

 御國が気にしなくていいという意味を込めて笑った瞬間、突然、旦那様は御國の右手を掴んだのだった。

「あの、旦那様?」

 そうして旦那様は両手で御國の手を掴むと顔を顰めたのだった。

「貴女は、いったい誰ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...