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第一部
花嫁【4】
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「何かを欲していたのか、誰かを探していたのか。部屋に遺書も何もなかった以上、それが事故だったのか、自ら選んだ死だったのか。もう誰にもわかりません。ただ、モニカの生存は絶望的だとーーもう目覚めることはないだろうと、言われました」
その話は、以前、マキウスから聞いて知っていた。
打ち所が悪かったのか、階段から落ちて、頭から大量の血を流したモニカは、意識不明の重体となった。
目覚めることは難しいと、モニカを治療した医師に言われたと。
この世界は元いた世界とは違って、大怪我を負ったからとすぐに大きな病院に搬送されて、高度な治療を受けられるわけではないのだろう。
それ以前にこの世界には、車どころか、電気も、ガスもない。
部屋の窓から外を眺めていると、道を走っているのは、車ではなく馬車であり、暗闇を灯しているのは、電気ではなく、燭台か、それに近いものであった。
服装もモニカがいた世界とは違い、どちらかといえば世界史の教科書で見るような、中世のヨーロッパ風のロングドレスしかなかった。
女性は誰もが足首までの長さのあるロングスカートと踵が高いヒール靴を履いていた。
病み上がりのモニカはまだつけていないが、貴族の女性はコルセットで身体の形を整えるのが一般的らしい。
貴族の男性はマキウスのような白シャツと黒のズボン、革靴といった、部屋着でもスーツの様な格好をするのが当たり前のようであった。
「生存は絶望的と言われた以上、最期に過ごす場所を嫌いな場所ではなく、住み慣れた場所の方がいいのではないかと、モニカを生まれ故郷に帰そうか悩んでいた時でした」
マキウスの紫色の瞳にじっと見つめられる。モニカがきょとんとした顔で首を傾げると、マキウスは柔和な笑みを浮かべたのだった。
「倒れてから約一か月後、突然モニカの意識は回復しました。そうしてこれまでの態度がなかったかのように、私や使用人に優しくなりました。……それが今の貴女です」
「私ですか……」
端正な顔立ちのマキウスの輝く様な笑みにモニカの心臓が大きく跳ねる。
自身の頬が赤く染まっていくのを感じたのだった。
「ええ。貴女です。異なる世界からやって来て、今はモニカとして、こんな不甲斐ない私と夫婦になってくれた貴女です」
「不甲斐ないってことはありません……。『モニカ』が階段から落ちたのだって、きっと事故です……」
「たとえ事故だとしても、私が何の役に立っていないのも、不甲斐ないのも事実です。
結局、私は『モニカ』のことを何も知らないのですから」
マキウスの手がモニカの頬にそっと触れるが、微かに指先が触れただけですぐに引っ込められる。
「これからは、貴女と『モニカ』を知っていきたい。もう二度と、このような悲劇を繰り返さないためにも」
アメシストの瞳が優しく細められて、ますます赤面してしまう。
この機会に、モニカは目覚めてからずっと気になっていたことを尋ねたのだった。
その話は、以前、マキウスから聞いて知っていた。
打ち所が悪かったのか、階段から落ちて、頭から大量の血を流したモニカは、意識不明の重体となった。
目覚めることは難しいと、モニカを治療した医師に言われたと。
この世界は元いた世界とは違って、大怪我を負ったからとすぐに大きな病院に搬送されて、高度な治療を受けられるわけではないのだろう。
それ以前にこの世界には、車どころか、電気も、ガスもない。
部屋の窓から外を眺めていると、道を走っているのは、車ではなく馬車であり、暗闇を灯しているのは、電気ではなく、燭台か、それに近いものであった。
服装もモニカがいた世界とは違い、どちらかといえば世界史の教科書で見るような、中世のヨーロッパ風のロングドレスしかなかった。
女性は誰もが足首までの長さのあるロングスカートと踵が高いヒール靴を履いていた。
病み上がりのモニカはまだつけていないが、貴族の女性はコルセットで身体の形を整えるのが一般的らしい。
貴族の男性はマキウスのような白シャツと黒のズボン、革靴といった、部屋着でもスーツの様な格好をするのが当たり前のようであった。
「生存は絶望的と言われた以上、最期に過ごす場所を嫌いな場所ではなく、住み慣れた場所の方がいいのではないかと、モニカを生まれ故郷に帰そうか悩んでいた時でした」
マキウスの紫色の瞳にじっと見つめられる。モニカがきょとんとした顔で首を傾げると、マキウスは柔和な笑みを浮かべたのだった。
「倒れてから約一か月後、突然モニカの意識は回復しました。そうしてこれまでの態度がなかったかのように、私や使用人に優しくなりました。……それが今の貴女です」
「私ですか……」
端正な顔立ちのマキウスの輝く様な笑みにモニカの心臓が大きく跳ねる。
自身の頬が赤く染まっていくのを感じたのだった。
「ええ。貴女です。異なる世界からやって来て、今はモニカとして、こんな不甲斐ない私と夫婦になってくれた貴女です」
「不甲斐ないってことはありません……。『モニカ』が階段から落ちたのだって、きっと事故です……」
「たとえ事故だとしても、私が何の役に立っていないのも、不甲斐ないのも事実です。
結局、私は『モニカ』のことを何も知らないのですから」
マキウスの手がモニカの頬にそっと触れるが、微かに指先が触れただけですぐに引っ込められる。
「これからは、貴女と『モニカ』を知っていきたい。もう二度と、このような悲劇を繰り返さないためにも」
アメシストの瞳が優しく細められて、ますます赤面してしまう。
この機会に、モニカは目覚めてからずっと気になっていたことを尋ねたのだった。
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