【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
68 / 247
第一部

丸い空の向こう側【2】

しおりを挟む
「それは良かったです。でも、私は大したことはしていません。お二人がきちんと自分の気持ちを伝えられたからお話し出来たんです」

 お互いに自分の思いを相手に伝えられたと聞き、モニカはどこか肩の荷が降りた気がした。

 近くにいて、お互いに同じ思いを持っていて、もう少しで分かり合えそうなのに、それが出来ないのは苦しい。
 それを知っているモニカは、二人以上にもどかしくて堪らなかった。

「私が勝手に思い込んでいただけだったようです。姉上は姉上で、私のことを思っていたみたいです」
「マキウス様、誰かとの間に壁を感じた時、それは相手が壁を作っているのではなく、自分自身が壁を作っているらしいです」

 モニカの言葉に、マキウスは綺麗に整えられた両眉を上げたようだった。

「そうなんですか?」
「自分が壁を越えて相手に近づかなければ、相手はやって来ない。もし、お互いに相手を理解したいと思っているのなら尚更」

 片方だけが相手に近寄っても駄目。
 相手が壁を作っていたら近づけない。
 けれども、自分も壁を越えて相手に近寄ったら相手に近づける。

 そうやって、互いに自分が作った壁を越えることで、人は初めて分かり合えるのだろう。

「私とマキウス様がこうやって話しているのも、お互いに壁を越えて相手に近寄ったからだと思っていますよ」

 モニカが微笑むと、マキウスは優しく見つめていた。

「時折、私よりも貴女が大人に思えます。まるで、姉上やアマンテ、ペルラと話しているようです」
「ん~。そうですか? 御國と同い年でも、お姉様の方がずっと大人な気がします。やっぱり、貴族で騎士だからでしょうか……」

 そう言ってモニカが笑うと、何故かマキウスはギョッとしたように驚いた。

「……貴女と姉上は同じ歳なのですか?」
「ええと、お姉様ってマキウス様より二歳上なんですよね? マキウス様は二十四歳と聞いていたので……。ということは、お姉様は二十六歳ですよね? 私も二十六歳でしたから」

 元の世界で階段から転落した時、御國は二十六歳だった。
 もう少しで誕生日が来るという時に、死んだのだった。

「そ、そうだったんですね……」
「でも、そんな『私』よりも、マキウス様の方がしっかりしています。
 私がマキウス様の歳の頃なんて、まだまだ周囲に甘えていました」

 モニカはーー御國がマキウスの年齢だった頃を思い出す。
 しっかり者と言われるには程遠く、まだまだ周囲に頼って、甘えていたような気がした。

「私など、まだまだ未熟者です」
「そうですか? そんなことはないと思いますよ」

 そうして、モニカは空を見上げた。
 そこには限りある丸い空が広がっていた。

「明日も晴れなんですよね。この世界の天気予報は、絶対当たりますから」

 この世界に来て、空が丸いと気づいてからは、モニカは時折、空を眺めるようにしていた。
 マキウスから、この国が周囲から切り離された人工的に作られた国と聞いてからは、空が丸い理由に納得がいった。

 それでも、この国の天候は元の世界と何も変わらなかった。
 朝が来て、昼になって、やがて夕方になって、夜が来る。
 晴れの日があれば、雨の日もある。

 昼は人工の太陽が昇り、時には人工的に生み出された曇り空となり、雨が降った。
 夜になるとプラネタリウムの様に、ドーム型の丸い空に幾千もの星々が輝く。
 夜更けになって極端に明かりが減ると、細かな糠星まで見えるような、幻想的な星空が広がっていた。

 人工的な国なのに、何故こんなにも地上から空を眺めるのと同じ天候なのか、不思議に思っていたが、マキウスや使用人たちから聞いて、ようやく判明した。

 この国は空に浮かんでいるが、かつて地上で暮らしていた頃の空を忘れないように、建国時に、天候は全て地上と同じように作ったらしい。
 太陽や雨の恵みといった自然を享受し、感謝と共生していた頃をいつまでも語り継げる様に、快晴の日から台風の日まで、この国の最初の住民たちは人工的に生み出したのだった。

 また、人の手で管理されているだけあって、天候は国民に事前の連絡なく変わることはなく、あらかじめ国から知らされていた天気通りになるらしい。
 国はあらかじめ月々の天気を国民に知らされており、国民はその天気に合わせて仕事や活動が出来る。
 急な雨天決行や中止といったことは、絶対無いらしい。

 元の世界でも、同じように確実に天候がわかれば、洗濯物や遠出をする時に、大助かりするだろう。
 運動会や体育大会も中止にならずに済んだかもしれないと思うと、羨ましささえある。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...