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第一部
御國の思い出・上【5】
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「ふうっ……」
一人になると、モニカはベッドに倒れた。
倒れた拍子にティカにまとめてもらった金髪がほどけて、ベッドに広がった。
「最近、夢見が悪いな……」
モニカは仰向けになると、ため息をついた。
ここ最近、毎晩、同じ夢を見ていた。
おそらく、御國の頃の記憶なのだろう。全て見覚えがあった。
アーケードの入り口にあった立ち食い蕎麦屋から漂ってくる出汁の匂いも。
街中の賑やかな喧騒も、お店の場所も。
モニカがぶつかったカップルさえも。
実際にカップルとぶつかった時を思い出して、モニカの胸は痛んだ。
周囲のお店に気をとられていたとはいえ、当時、心が痛むような罵声を浴びせられたのだった。
先にぶつかったことを謝れば良かったのかもしれない。
ただ、あの時は反応が遅れて、謝るタイミングを逃してしまった。
その結果、舌打ちと罵声を浴びせられたのだった。
いつもなら「アレ」を使っているから、そんな舌打ちと罵声は聞こえないのに。
それから、もう一つ。
モニカが彼等を、覚えていた理由はーー。
(悔しかったんだよね……恋人がいて羨ましかったんだよね……。私にはいないから……自分は一人だから)
女性とぶつかった時、女性は男性に気遣われていた。
けれども、モニカには気遣ってくれる相手が居なかった。
相手のように、友人など複数人と歩いていたのならば気遣われただろう。
もしくは、恋人がいれば、また違っていたのかもしれない。
今でこそマキウスと結婚したが、御國だった時は、恋人どころか男の友人さえいなかった。
欲しいと思ったし、探そうとも思った、男性と知り合うイベントにも参加しようと申し込みもしようと思ったこともある。
でも、出来なかった。
いつもその直前に、子供の頃の「あの夜」が思い出された。
子供の頃の嫌な思い出。男に恐怖を感じたあの夜。
今でも思い出しそうになると、身体の内側が苦しくなって、息苦しくなる。
今も「あの夜」を思い出しそうになって、めまいがした。
胃が苦しくなって、吐き気さえしてきた。
「はぁ……!」
シーツを掴んで、何度も息継ぎを繰り返すと、ようやくめまいと吐き気は収まったのだった。
(違う。あれは……悪いのは私で……)
自分は決してそんなつもりじゃなかった。ただ、いつもの様に、みんなと同じ様に接していただけ。
そのつもりだったのに、周りが「悪いのはお前だ」と、「お前が色目を使って誘惑した」と言ってきた。
自分でも気づかない内に、色目を使ってしまったのだろうか。
それなら、悪いのは自分で……。
(悪いのは自分。悪いのは自分! それで終わったじゃない!)
また「あの夜」を思い出しそうになって、モニカは首を振った。
きっと疲れているだけだ。
マキウスの言う通り、育児で疲れているんだろう。
この世界に来て、モニカになってから、ずっとニコラの世話をしていた。
疲れているからこそ、御國だった頃の嫌な記憶を思い出すのだろう。
「マキウス様が帰ってくるまでには、元に戻っていないと……」
今のモニカを見たら、きっとマキウスは何かあったのかと血相を変えて聞いてくるだろう。
モニカやヴィオーラの問題が片付き、ようやく肩の荷が降りつつあるマキウスに、これ以上の負担を増やしたくなかった。
これはモニカ自身のーーモニカ自身の問題なのだから、自分で乗り越えなければならない。
(また、今夜も見るのかな……)
もう考えるのは止めて、今はゆっくり休もう。
いつもの自分に戻る為にも。
そう自分に言い聞かせると、モニカはそっと目を閉じたのだった。
一人になると、モニカはベッドに倒れた。
倒れた拍子にティカにまとめてもらった金髪がほどけて、ベッドに広がった。
「最近、夢見が悪いな……」
モニカは仰向けになると、ため息をついた。
ここ最近、毎晩、同じ夢を見ていた。
おそらく、御國の頃の記憶なのだろう。全て見覚えがあった。
アーケードの入り口にあった立ち食い蕎麦屋から漂ってくる出汁の匂いも。
街中の賑やかな喧騒も、お店の場所も。
モニカがぶつかったカップルさえも。
実際にカップルとぶつかった時を思い出して、モニカの胸は痛んだ。
周囲のお店に気をとられていたとはいえ、当時、心が痛むような罵声を浴びせられたのだった。
先にぶつかったことを謝れば良かったのかもしれない。
ただ、あの時は反応が遅れて、謝るタイミングを逃してしまった。
その結果、舌打ちと罵声を浴びせられたのだった。
いつもなら「アレ」を使っているから、そんな舌打ちと罵声は聞こえないのに。
それから、もう一つ。
モニカが彼等を、覚えていた理由はーー。
(悔しかったんだよね……恋人がいて羨ましかったんだよね……。私にはいないから……自分は一人だから)
女性とぶつかった時、女性は男性に気遣われていた。
けれども、モニカには気遣ってくれる相手が居なかった。
相手のように、友人など複数人と歩いていたのならば気遣われただろう。
もしくは、恋人がいれば、また違っていたのかもしれない。
今でこそマキウスと結婚したが、御國だった時は、恋人どころか男の友人さえいなかった。
欲しいと思ったし、探そうとも思った、男性と知り合うイベントにも参加しようと申し込みもしようと思ったこともある。
でも、出来なかった。
いつもその直前に、子供の頃の「あの夜」が思い出された。
子供の頃の嫌な思い出。男に恐怖を感じたあの夜。
今でも思い出しそうになると、身体の内側が苦しくなって、息苦しくなる。
今も「あの夜」を思い出しそうになって、めまいがした。
胃が苦しくなって、吐き気さえしてきた。
「はぁ……!」
シーツを掴んで、何度も息継ぎを繰り返すと、ようやくめまいと吐き気は収まったのだった。
(違う。あれは……悪いのは私で……)
自分は決してそんなつもりじゃなかった。ただ、いつもの様に、みんなと同じ様に接していただけ。
そのつもりだったのに、周りが「悪いのはお前だ」と、「お前が色目を使って誘惑した」と言ってきた。
自分でも気づかない内に、色目を使ってしまったのだろうか。
それなら、悪いのは自分で……。
(悪いのは自分。悪いのは自分! それで終わったじゃない!)
また「あの夜」を思い出しそうになって、モニカは首を振った。
きっと疲れているだけだ。
マキウスの言う通り、育児で疲れているんだろう。
この世界に来て、モニカになってから、ずっとニコラの世話をしていた。
疲れているからこそ、御國だった頃の嫌な記憶を思い出すのだろう。
「マキウス様が帰ってくるまでには、元に戻っていないと……」
今のモニカを見たら、きっとマキウスは何かあったのかと血相を変えて聞いてくるだろう。
モニカやヴィオーラの問題が片付き、ようやく肩の荷が降りつつあるマキウスに、これ以上の負担を増やしたくなかった。
これはモニカ自身のーーモニカ自身の問題なのだから、自分で乗り越えなければならない。
(また、今夜も見るのかな……)
もう考えるのは止めて、今はゆっくり休もう。
いつもの自分に戻る為にも。
そう自分に言い聞かせると、モニカはそっと目を閉じたのだった。
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