【第一部完結・改稿版】ハージェント家の天使

夜霞

文字の大きさ
115 / 247
第一部

甘い読み聞かせ【6】

しおりを挟む
「それなら、喜んで練習相手になりましょう。
 貴女の小鳥の様な可憐な声を聞きながら眠りにつける贅沢を、ニコラに独り占めされるのは惜しいですから」
「もう……。娘に嫉妬して、恥ずかしいことを言わないで下さい」

 赤面した顔を見られたくなくて、モニカは絵本で顔を隠した。
 隣で横になったマキウスは、ふと思い出したように話し出したのだった。
 
「こうして、暗い部屋で本を読んでもらっていると、子供の頃、ペルラに本を読んでもらったことや、姉上と一緒にベッドで絵本を読んだ日々を思い出します」
「ペルラさんはわかりますが、お姉様と一緒に絵本を読んだことがあるんですか?」
「ええ。私と姉上は、同じ乳母であるペルラに育てられました。まだ父上が生きていた頃は、姉上と共にペルラの元で過ごすことが多かったのです」
 
 マキウスとヴィオーラの母親同士は不仲だったが、姉弟は同じ乳母であるペルラに育てられていた。
 丁度、二人が生まれた時期に、ペルラがアマンテとアガタの姉妹を生んだばかりであり、乳が出ていたことと、ペルラが代々ブーゲンビリア侯爵家に仕える一族の者と結婚したことで、信頼が置けるというのもあったらしい。

 特にマキウスは授乳の時期が終わってからも、身体の弱い母親の体調が優れない時は、よく乳母であるペルラの元で過ごしていた。
 そんなマキウスを心配したヴィオーラも、よくペルラを訪ねる振りをして、マキウスの元に来てくれたのだった。
 
「夜になると、姉上は『眠れない』と言って、私が寝ている部屋にやって来ては、私のベッドに入ってきました。
 私を寝かしつけていたペルラが、別のベッドを用意すると言っても、姉上は聞きませんでした」

 おそらく、ヴィオーラはヴィオーラなりに、マキウスを心配していたのだろう。
 以前、マキウスから聞いた話では、マキウスの母親は身体が弱く、乳母であるペルラも自身の子供たちを育てながらマキウスの世話をしていたとのことだった。
 義弟おとうとが寂しく、悲しい思いをしていないか、ヴィオーラなりに気遣っていたのだと思う。

「ペルラがいる時はペルラが、ペルラの手が空いていない時は二人で、本を読んでいました」
「素敵な思い出ですね」
「ええ。大切な思い出です」

 モニカがマキウスの灰色の頭に触れると、マキウスは犬の様にモニカの手に頬を寄せたのだった。
 
「すみません。邪魔をしてしまって。読み聞かせの練習をするんでしたね」
「いえ。じゃあ、今夜は私が読み聞かせするので、次回はマキウス様が読んで下さいね」
「私も読むんですか?」
「はい。もっとニコラと仲良くなりたいのなら、それが一番早いですから」

 物語の内容によっては、女性のモニカではなく、男性のマキウスが読んだ方が、読み聞かせに深みが出ることがある。
 例えば、男性が主人公や語り手となる作品の時や、教訓を伝える物語の時。
 大切なのは、子供が物語に没入できるかどうか。アナウンサー並みの活舌の良さはあまり関係ない。
 マキウスは落ち着いた話し方をしており、声色は低く、発音にも問題はない。
 そんなマキウスが読み聞かせをすれば、きっと説得力のある読み聞かせになるに違いない。

 モニカから話しを聞いたマキウスは、俄然、ニコラへの読み聞かせにやる気が出てきたようだった。

「ニコラの為なら、私もやりましょう」
「良かったです。じゃあ、読みますよ」

 モニカはマキウスの肩まで掛布を掛けると、絵本を読み始めた。
 
 マキウスはよほど仕事で疲れているのか、元々寝つきがいいのかはわからないが、すぐに寝付くタイプであった。
 今夜もモニカが読み聞かせを始めてすぐに、マキウスは寝息を立て始めたのだった。
 こんなマキウスを微笑ましく思いつつ、モニカは絵本を読み終わると、ベッド脇のサイドテーブルに絵本を置いて明かりを消した。

「おやすみなさい。マキウス様」

 すやすやと寝息を立てるマキウスに、モニカはそっと微笑んだ。
 マキウスの隣で横になると、そのまま目を瞑ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...