175 / 247
第一部
流星群と明かされた過去・下【3】
しおりを挟む
「あの頃、二人はまだブーゲンビリア侯爵家で働いていました。私がついでの様に姉上に『モニカ』の妊娠と、出産を含めて何も用意をしていないことを話したら、姉上が二人を屋敷に寄越してくれました。
その姉上は、話を聞くなり怒り狂って、私に平手打ちを食らわせました」
「大丈夫だったんですか……?」
「『モニカ』の苦痛に比べれば平気です。姉上に本気で怒られ、平手打ちもされたのは、子供の頃以来です。本気で叩かれたので、しばらくは腫れが引かず、使用人たちには何事かと怪しまれましたが」
「モニカ」から妊娠したと告げられてからしばらく経ったある日、たまたまヴィオーラと「モニカ」について話す機会があったらしい。
その際に、「モニカが身篭った」とついでのように報告したところ、出産の準備や「モニカ」の様子について、つぶさに聞かれたそうだ。
その際に、何も準備していないどころか、久しく「モニカ」と口を利いていないことを話すと、ヴィオーラは烈火のごとく怒って、マキウスの顔に平手打ちをしたのだった。
「姉上に言われました。『女性にとって、子を産むことがどれほど命懸けの行為なのか、マキウスは母親の経験から、知っていると思っていました!』と。その言葉で霞がかかっていた視界が開けて、目が覚めた様な心地でした」
ヴィオーラの言葉を聞いて、ようやく気づいたらしい。
マキウスが今やるべきことは、「モニカ」をそっとしておくことでも、自らの失態を恥じることでも、犯した罪から目を逸らすことでもない。
夫として、産まれてくる子供の父親として、初めての妊娠と出産で、不安な気持ちになっている「モニカ」と向き合い、彼女を支えることだと。
「私の母上は、私の出産時に体調を大きく崩して、ほとんど寝たきりの生活を送っていました。元々、身体が丈夫な方ではなかったそうですが、私の出産の際に、身体に大きな負担を掛けてしまったのが原因らしいです。……姉上に言われるまで、私はこの話を忘れていました」
マキウスの母親がそうだったように、出産は母子の体調に大きな負担を掛けることになる。
マキウスは後から知ったらしいが、この国では出産時に体調が急変して、母子のどちらかが亡くなることは珍しくないらしい。
モニカが住んでいた元の世界は、医学が発達しており、体調が急変しても助かる可能性が高かったが、この世界ではそうではないのだろう。
この世界で目覚めたばかりの頃、モニカは何度か屋敷近くに住む医師の診察を受けたことがあるが、使用している道具も医師から見せられた薬も、どれも見たことも、聞いたこともないものばかりであった。
モニカが無知というのもあるが、医療水準が低く、元の世界では使われていない物もあるかもしれない。
「姉上に言われて、慌てて帰宅した時には、既に私たち姉弟の乳母だったペルラと、出産経験のあるペルラの娘のアマンテが屋敷に居ました。どうも、不甲斐ない私の代わりに、姉上が手配をしてくれたようです」
二人は「モニカ」を説得して、部屋から出そうとしていた。
マキウスも二人に協力して、「モニカ」を説得しようと試みたのだった。
説得を始めてしばらくすると、ようやく「モニカ」は部屋から出てきてくれた。
数ヶ月ぶりに見た「モニカ」はすっかり憔悴しており、そんな「モニカ」のお腹は大きく膨らんでいた。
いつ早産してもおかしくない状態だった。
「そこから、ペルラとアマンテは見事な手腕で出産の用意をしていきました。
『モニカ』が初めての妊娠と出産で心細くならないように、彼女と話もしてくれました」
その時になって、ようやくマキウスは自信が催淫効果のある香を吸ってしまったことや、香について何も知らなかった「モニカ」が部屋に焚きしめてしまったことが判明したらしい。
それまで、マキウスは何が原因で「モニカ」を抱いてしまったのか分からなかったそうだ。
その姉上は、話を聞くなり怒り狂って、私に平手打ちを食らわせました」
「大丈夫だったんですか……?」
「『モニカ』の苦痛に比べれば平気です。姉上に本気で怒られ、平手打ちもされたのは、子供の頃以来です。本気で叩かれたので、しばらくは腫れが引かず、使用人たちには何事かと怪しまれましたが」
「モニカ」から妊娠したと告げられてからしばらく経ったある日、たまたまヴィオーラと「モニカ」について話す機会があったらしい。
その際に、「モニカが身篭った」とついでのように報告したところ、出産の準備や「モニカ」の様子について、つぶさに聞かれたそうだ。
その際に、何も準備していないどころか、久しく「モニカ」と口を利いていないことを話すと、ヴィオーラは烈火のごとく怒って、マキウスの顔に平手打ちをしたのだった。
「姉上に言われました。『女性にとって、子を産むことがどれほど命懸けの行為なのか、マキウスは母親の経験から、知っていると思っていました!』と。その言葉で霞がかかっていた視界が開けて、目が覚めた様な心地でした」
ヴィオーラの言葉を聞いて、ようやく気づいたらしい。
マキウスが今やるべきことは、「モニカ」をそっとしておくことでも、自らの失態を恥じることでも、犯した罪から目を逸らすことでもない。
夫として、産まれてくる子供の父親として、初めての妊娠と出産で、不安な気持ちになっている「モニカ」と向き合い、彼女を支えることだと。
「私の母上は、私の出産時に体調を大きく崩して、ほとんど寝たきりの生活を送っていました。元々、身体が丈夫な方ではなかったそうですが、私の出産の際に、身体に大きな負担を掛けてしまったのが原因らしいです。……姉上に言われるまで、私はこの話を忘れていました」
マキウスの母親がそうだったように、出産は母子の体調に大きな負担を掛けることになる。
マキウスは後から知ったらしいが、この国では出産時に体調が急変して、母子のどちらかが亡くなることは珍しくないらしい。
モニカが住んでいた元の世界は、医学が発達しており、体調が急変しても助かる可能性が高かったが、この世界ではそうではないのだろう。
この世界で目覚めたばかりの頃、モニカは何度か屋敷近くに住む医師の診察を受けたことがあるが、使用している道具も医師から見せられた薬も、どれも見たことも、聞いたこともないものばかりであった。
モニカが無知というのもあるが、医療水準が低く、元の世界では使われていない物もあるかもしれない。
「姉上に言われて、慌てて帰宅した時には、既に私たち姉弟の乳母だったペルラと、出産経験のあるペルラの娘のアマンテが屋敷に居ました。どうも、不甲斐ない私の代わりに、姉上が手配をしてくれたようです」
二人は「モニカ」を説得して、部屋から出そうとしていた。
マキウスも二人に協力して、「モニカ」を説得しようと試みたのだった。
説得を始めてしばらくすると、ようやく「モニカ」は部屋から出てきてくれた。
数ヶ月ぶりに見た「モニカ」はすっかり憔悴しており、そんな「モニカ」のお腹は大きく膨らんでいた。
いつ早産してもおかしくない状態だった。
「そこから、ペルラとアマンテは見事な手腕で出産の用意をしていきました。
『モニカ』が初めての妊娠と出産で心細くならないように、彼女と話もしてくれました」
その時になって、ようやくマキウスは自信が催淫効果のある香を吸ってしまったことや、香について何も知らなかった「モニカ」が部屋に焚きしめてしまったことが判明したらしい。
それまで、マキウスは何が原因で「モニカ」を抱いてしまったのか分からなかったそうだ。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる