185 / 247
第一部
天使・上【3】
しおりを挟む
リュドヴィックは驚いたように、モニカと同じ色の瞳を見開くと、モニカの話にじっと耳を傾けているようだった。
「『モニカ』さんには、好きな人がいたんです。本当は国を離れたく無かった」
「モニカ」には想い人が居た。
それは「モニカ」にとって、極身近な人ーーリュドヴィックだった。
リュドヴィックは「モニカ」の想いに気づいていたのだろうかと様子を伺うが、リュドヴィックは狼狽えているようだった。
狼狽えるということは、「モニカ」の想いに気づいていなかったのだろうか。
「けれども、リュドヴィックさんが喜んでいるから伝えなかったんです。自分のことを拾って、大切に育ててくれたお兄ちゃんが喜んでいたから」
リュドヴィックにモニカとしての想いを伝えた後、改めて「モニカ」の過去を振り返ってみると、そこには常にリュドヴィックの姿があった。
頼りになる兄、優しい兄、厳しい兄、「モニカ」が「花嫁」としてレコウユスに行くと聞いて喜ぶ兄、「モニカ」の大好きな兄。
「モニカ」はそんな兄がーーリュドヴィックが好きだった。
「それなら、全て私が悪いのか。私が『モニカ』の幸せを願って、『花嫁』に加えてもらったから……」
落胆するリュドヴィックの言葉に、モニカは首を振る。
「いいえ。『モニカ』さんは決して嫌々『花嫁』して国を出た訳ではないんです。
自分とリュドヴィックさんの為に、自ら『花嫁』として国を出たんです」
「私の為? どうして……」
「これは私の想像ですが、『モニカ』さんもどこかで気づいていたんです。自分が居ると、リュドヴィックさんが幸せになれないって」
「どうして、『モニカ』は私が幸せになれないと思ったんだ?」
怪訝な顔をしたリュドヴィックに、モニカは微笑を浮かべる。
「以前、二人で話した時にも言いましたが、リュドヴィックさんは自分の幸せよりも、『モニカ』さんの幸せを優先しがちです。国を救った自分に与えられるはずだった褒美を『モニカ』さんに使ってしまったように……」
ヴィオーラの屋敷でリュドヴィックと話した時、モニカはリュドヴィックに「これからは幸せになって」と話した。
もしかしたら、「モニカ」も同じ気持ちだったのかもしれない。
そう思ったからこそ、想いを伝えないまま、この地に来たとしたらーー。
「これまで『モニカ』さんはずっとリュドヴィックさんを頼ってきました。リュドヴィックさんは優しくて、強いから……。
でも、このままリュドヴィックさんの側にい続けたら、いつまでもリュドヴィックさんを頼ってばかりで、リュドヴィックさんを『モニカ』に縛り付けてしまう。リュドヴィックさんには、リュドヴィックさんだけの人生があるのに……」
そっとモニカは目を伏せる。
「それに気づいた『モニカ』さんは、自分の成長と、リュドヴィックさんの為に、誰にも自分の想いを告げずに、自ら国を出たんです。きっと、最初こそは国にいる想い人を忘れられなくて、苦しんだと思います。でも、この国に来て、マキウス様と出会って……」
モニカは顔を曇らせるマキウスに向かって微笑んだ。
「マキウス様と出会って、マキウス様が優しくしてくれて、甲斐甲斐しく世話も焼いてくれて……だんだんと、マキウス様のことも好きになっていったんです。
そして、マキウス様とその想い人、両者を愛する気持ちに板挟みになって……。そうしている内に、『モニカ』はニコラを身籠りました」
経緯はどうあれ、マキウスとの子供が嬉しくないわけではなかった。
「モニカ」がニコラを大切に想っていたのは、「モニカ備忘録」を見るまでもなく、ニコラを見ればすぐにわかった。
モニカが目覚めるまで時間が空いてしまったとはいえ、ニコラには見る限り虐待や育児放棄をされている様子がなかった。
本当にマキウスとの子供が嫌ならば、ニコラを妊娠している間に、堕ろすことも出来ただろう。
中絶もせず、虐待や育児放棄をしなかった以上、少なくとも「モニカ」はニコラに愛情を感じていたと考えられる。
「この国では、出産は命懸けだと聞きました。それなのに、『モニカ』さんはマキウス様との子供を産みました。それは『モニカ』さんが、リュドヴィックさんから離れて、大切な想い人への想いを封じ込めて、マキウス様を選んだということだと思います」
「『モニカ』さんには、好きな人がいたんです。本当は国を離れたく無かった」
「モニカ」には想い人が居た。
それは「モニカ」にとって、極身近な人ーーリュドヴィックだった。
リュドヴィックは「モニカ」の想いに気づいていたのだろうかと様子を伺うが、リュドヴィックは狼狽えているようだった。
狼狽えるということは、「モニカ」の想いに気づいていなかったのだろうか。
「けれども、リュドヴィックさんが喜んでいるから伝えなかったんです。自分のことを拾って、大切に育ててくれたお兄ちゃんが喜んでいたから」
リュドヴィックにモニカとしての想いを伝えた後、改めて「モニカ」の過去を振り返ってみると、そこには常にリュドヴィックの姿があった。
頼りになる兄、優しい兄、厳しい兄、「モニカ」が「花嫁」としてレコウユスに行くと聞いて喜ぶ兄、「モニカ」の大好きな兄。
「モニカ」はそんな兄がーーリュドヴィックが好きだった。
「それなら、全て私が悪いのか。私が『モニカ』の幸せを願って、『花嫁』に加えてもらったから……」
落胆するリュドヴィックの言葉に、モニカは首を振る。
「いいえ。『モニカ』さんは決して嫌々『花嫁』して国を出た訳ではないんです。
自分とリュドヴィックさんの為に、自ら『花嫁』として国を出たんです」
「私の為? どうして……」
「これは私の想像ですが、『モニカ』さんもどこかで気づいていたんです。自分が居ると、リュドヴィックさんが幸せになれないって」
「どうして、『モニカ』は私が幸せになれないと思ったんだ?」
怪訝な顔をしたリュドヴィックに、モニカは微笑を浮かべる。
「以前、二人で話した時にも言いましたが、リュドヴィックさんは自分の幸せよりも、『モニカ』さんの幸せを優先しがちです。国を救った自分に与えられるはずだった褒美を『モニカ』さんに使ってしまったように……」
ヴィオーラの屋敷でリュドヴィックと話した時、モニカはリュドヴィックに「これからは幸せになって」と話した。
もしかしたら、「モニカ」も同じ気持ちだったのかもしれない。
そう思ったからこそ、想いを伝えないまま、この地に来たとしたらーー。
「これまで『モニカ』さんはずっとリュドヴィックさんを頼ってきました。リュドヴィックさんは優しくて、強いから……。
でも、このままリュドヴィックさんの側にい続けたら、いつまでもリュドヴィックさんを頼ってばかりで、リュドヴィックさんを『モニカ』に縛り付けてしまう。リュドヴィックさんには、リュドヴィックさんだけの人生があるのに……」
そっとモニカは目を伏せる。
「それに気づいた『モニカ』さんは、自分の成長と、リュドヴィックさんの為に、誰にも自分の想いを告げずに、自ら国を出たんです。きっと、最初こそは国にいる想い人を忘れられなくて、苦しんだと思います。でも、この国に来て、マキウス様と出会って……」
モニカは顔を曇らせるマキウスに向かって微笑んだ。
「マキウス様と出会って、マキウス様が優しくしてくれて、甲斐甲斐しく世話も焼いてくれて……だんだんと、マキウス様のことも好きになっていったんです。
そして、マキウス様とその想い人、両者を愛する気持ちに板挟みになって……。そうしている内に、『モニカ』はニコラを身籠りました」
経緯はどうあれ、マキウスとの子供が嬉しくないわけではなかった。
「モニカ」がニコラを大切に想っていたのは、「モニカ備忘録」を見るまでもなく、ニコラを見ればすぐにわかった。
モニカが目覚めるまで時間が空いてしまったとはいえ、ニコラには見る限り虐待や育児放棄をされている様子がなかった。
本当にマキウスとの子供が嫌ならば、ニコラを妊娠している間に、堕ろすことも出来ただろう。
中絶もせず、虐待や育児放棄をしなかった以上、少なくとも「モニカ」はニコラに愛情を感じていたと考えられる。
「この国では、出産は命懸けだと聞きました。それなのに、『モニカ』さんはマキウス様との子供を産みました。それは『モニカ』さんが、リュドヴィックさんから離れて、大切な想い人への想いを封じ込めて、マキウス様を選んだということだと思います」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる