223 / 247
第一部
★一線を越えて【3】
しおりを挟む
「これでもまだ自分を汚いと言いますか?」
「そ、それは……」
「次から自分を汚いと言ったら、お仕置きをしましょう。そうやって自分で自分自身を貶める行為は聞き捨てなりません」
「すみません……」
モニカが泣きそうな顔になって肩を落としていると、マキウスはフッと笑ったようだった。
「もっと自信を持って下さい。貴女は素晴らしい方です。そんな貴女じゃなければ、『モニカ』の身体は、綺麗で清らかではなかったでしょう」
「私じゃなくても、『モニカ』の身体は綺麗で、清らかです……」
「見た目がどんなに整っていても、中身が伴っていなければ、それは醜女でしかない。貴女もご存知ありませんか? 自分が美しいことを鼻にかけて傲慢な態度を取った末に、堕落し、破滅していった者たちの話を」
モニカも昔話や小説で読んだことがあった。
自分の容姿を自慢に、我が儘を繰り返し、周囲を傷つけた結果、孤立し、堕ちていった者たち。
自分よりも劣った容姿を持つ物語のヒロインばかり愛されることに嫉妬して、破滅していった麗しい悪女たち。
そんな者たちの末路は誰もが残酷で、自分が犯した罪に相応しい終焉を迎えていた。
「聞いたこと、あります……」
「でも貴女はそうならなかった。それは、貴女がその身体に相応しい人柄を持っているだからです。……そうじゃなければ、こうして私は貴女を愛さなかったでしょう」
腰を抱きしめていたマキウスの腕の力が、一際強くなる。
指先で腰を撫でられて、「あっ……」と声を漏らしてしまう。
そんなモニカの反応を楽しんでいるのか、鏡に映ったマキウスは口元を緩めていたのだった。
「貴女が綺麗なのは、綺麗な身体を持っているからではありません。貴女自身が美しいからです」
「そうでしょうか……?」
「そうです。……これまで、貴女に聞こうか迷って、聞けなかったことがあるんです。もしかしたら、貴女に辛い思いをさせてしまうかもしれないと……聞いてもいいですか?」
「な、何でしょうか?」
「貴女の名前を教えて下さい。異なる世界から、私の元に来てくれた『天使』さん」
そう言って、モニカの身体に顔を埋めたマキウスに、胸が激しく高鳴った。
「無論、答えられないなら、それでも……」
「御國。杜園御國って言います! 御國が名前です!」
マキウスの顔が晒した肩に当たってくすぐったかった。
緊張のあまり声が上ずってしまったが、マキウスは満足そうな笑みを浮かべたのだった。
「ミクニ。貴女はとても綺麗です。その『モニカ』の身体に相応しい人柄を持っています」
マキウスに本来の本名を呼ばれて、更に胸が激しく高鳴る。
モニカではなく、モニカの中にいる御國を見てもらえた様な、嬉しいような、くすぐったい気持ちになる。
声が出なくて、口を開閉していると、後ろから衣摺れの音が聞こえてきた。
「貴女こそ私の妻に相応しい。貴女は私に相応しい人になるまで待って欲しいと言っていましたが、今でも充分、相応しい女性です。貴女以上に愛せる人を私は知りません。貴女以上に麗しい人も……」
その時、マキウスが着ていたバスローブが落ちて、足元に落下した。
二人揃って、産まれた時の姿になると、マキウスは後ろから抱きしめてきたのだった。
「そ、それは……」
「次から自分を汚いと言ったら、お仕置きをしましょう。そうやって自分で自分自身を貶める行為は聞き捨てなりません」
「すみません……」
モニカが泣きそうな顔になって肩を落としていると、マキウスはフッと笑ったようだった。
「もっと自信を持って下さい。貴女は素晴らしい方です。そんな貴女じゃなければ、『モニカ』の身体は、綺麗で清らかではなかったでしょう」
「私じゃなくても、『モニカ』の身体は綺麗で、清らかです……」
「見た目がどんなに整っていても、中身が伴っていなければ、それは醜女でしかない。貴女もご存知ありませんか? 自分が美しいことを鼻にかけて傲慢な態度を取った末に、堕落し、破滅していった者たちの話を」
モニカも昔話や小説で読んだことがあった。
自分の容姿を自慢に、我が儘を繰り返し、周囲を傷つけた結果、孤立し、堕ちていった者たち。
自分よりも劣った容姿を持つ物語のヒロインばかり愛されることに嫉妬して、破滅していった麗しい悪女たち。
そんな者たちの末路は誰もが残酷で、自分が犯した罪に相応しい終焉を迎えていた。
「聞いたこと、あります……」
「でも貴女はそうならなかった。それは、貴女がその身体に相応しい人柄を持っているだからです。……そうじゃなければ、こうして私は貴女を愛さなかったでしょう」
腰を抱きしめていたマキウスの腕の力が、一際強くなる。
指先で腰を撫でられて、「あっ……」と声を漏らしてしまう。
そんなモニカの反応を楽しんでいるのか、鏡に映ったマキウスは口元を緩めていたのだった。
「貴女が綺麗なのは、綺麗な身体を持っているからではありません。貴女自身が美しいからです」
「そうでしょうか……?」
「そうです。……これまで、貴女に聞こうか迷って、聞けなかったことがあるんです。もしかしたら、貴女に辛い思いをさせてしまうかもしれないと……聞いてもいいですか?」
「な、何でしょうか?」
「貴女の名前を教えて下さい。異なる世界から、私の元に来てくれた『天使』さん」
そう言って、モニカの身体に顔を埋めたマキウスに、胸が激しく高鳴った。
「無論、答えられないなら、それでも……」
「御國。杜園御國って言います! 御國が名前です!」
マキウスの顔が晒した肩に当たってくすぐったかった。
緊張のあまり声が上ずってしまったが、マキウスは満足そうな笑みを浮かべたのだった。
「ミクニ。貴女はとても綺麗です。その『モニカ』の身体に相応しい人柄を持っています」
マキウスに本来の本名を呼ばれて、更に胸が激しく高鳴る。
モニカではなく、モニカの中にいる御國を見てもらえた様な、嬉しいような、くすぐったい気持ちになる。
声が出なくて、口を開閉していると、後ろから衣摺れの音が聞こえてきた。
「貴女こそ私の妻に相応しい。貴女は私に相応しい人になるまで待って欲しいと言っていましたが、今でも充分、相応しい女性です。貴女以上に愛せる人を私は知りません。貴女以上に麗しい人も……」
その時、マキウスが着ていたバスローブが落ちて、足元に落下した。
二人揃って、産まれた時の姿になると、マキウスは後ろから抱きしめてきたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる