ひこうき雲

みどり

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無くした貝殻

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ある年の夏休みのこと。


東京に住んでいる

杏(きょう)と拓兄弟は

両親と一緒に旅行へ行きました。


いつも忙しく働いている

両親との夏休みの旅行は

これが最初で最後だった気がします。


幼なじみのユウキ、マサキ兄弟も一緒に

叔父の家に遊びに行きました。


当時、叔父が住んでいたのは

岡山県でした。


叔父が連れて行ってくれたのは

牛窓町の海水浴場でした。


父と叔父

それから叔父のひとり娘のゆいと一緒に

杏たちは思いっきり

海での遊びを楽しみました。

海以外にも

叔父は色々な所へ

子どもたちを

連れて行ってくれました。


父のカイと叔父のレンは双子です。

知らない人が見たら

そっくりで見分けがつきません。


それに、ふたりはコワモテで

身長も高く体格もよかったので


いつのまにか

近くで遊んでいた人たちは

砂浜にあがったり

少し遠くで遊ぶようになっていました。


砂浜では、どこかの奥さま方が

「ヤクザかしら?人さらい?あの子どもたちはあの人たちの子どもかしら?」

波打ち際で遊ぶ杏たちを心配しています。


「パパ~」

海からあがったレンを目がけて

ゆいが砂浜を駆けていき

肩車されました。


喜んでいるゆい見て

「いいお父さんね。」

先程の奥さま方も微笑みます。


ユウキは波打ち際で拾った綺麗な貝殻を

ゆいにプレゼントします。

「わぁ。ゆうちゃんありがとう!ゆうちゃん大好き!」


小さいゆいは、その辺に貝殻を置いて

ほかの遊びに夢中になっていると

波がその貝殻を持って行ってしまいます。


ゆいは貝殻のことなど

忘れてしまいます。


帰りの車の中では

小さいゆいとマサキは

眠ってしまいます。

右から左から

ユウキにもたれて。


みんなで旅館に泊まって

美味しいものを食べ

夜はなかなか眠れず


楽しいひとときは

あっという間に

過ぎてしまいます。


東京に帰る時間に

なってしまいました。


杏たちの乗った車を

見送るゆいの家族。


ユウキはゆいに

ピンク色の貝殻を

渡します。


「これ、新しいプレゼント。」


小さなゆいは

前にもらった

貝殻のことは

覚えていません。


この貝殻だけは

家に帰ると

宝物箱に入れました。


夏休みが終わる頃

杏の母のカエデから

たくさんの写真が

送られてきました。

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