ひこうき雲

みどり

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ゆいの帰国③マダムKの話・その1

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また、しばらくして


体格のいい白人の女性が後方に歩いて来て

ケーサツ官たちの後ろの席、最後尾H席に座った。


彼女は、先に窓側に座っていた外国人の女性に

日本語で話しかけた。


「今日はおもしろい人に会ったわね。」

「クレイジー・ゆい、ね!」

ふたりは声を合わせて言うと、笑った。


「何だ⁈何だ⁈アイツまた何かやらかしたのか?」

ホソカワが小さい声で言った。



通路側の女性は

「あの子に初めて会った時のことを思い出すわ。」

と言うと

「また、その話?」

と窓側の女性が笑った。



(ここからは、通路側席の女性の回想とおしゃべりです。)


あの子はスーツケースひとつで中国にやって来た。

日本人は年齢より若く見えるから、最初は高校生かと思ったわ。

中国語もほとんどできなかったし、英語もそんなに上手じゃなかったわ。

この子大丈夫かしら?、って思ったものよ。


彼女は「中国語を勉強中です。教えてください。話しかけてください」と言って

持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、中国語も英語もみるみる上達していったわ。

そんな彼女をお客さんたちは応援したのよ。


けれども、中国支部に来た時は、スタッフの誰からも相手にされなかったわ。

彼女がどうしてうちに入社できたのかしら?って皆悪口を言っていたのよ。


それから、社員寮の調理スタッフは、一部の人が食事を作らないし

食材を転売したりしてたらしいの。


ゆいは、食事の大切さを一生懸命に伝えたのよ。

自分のお金で料理長のチケットを買って、非番の時に一緒に飛行機に乗ったの。

自分たちの仕事はこういう仕事だから、気力も体力も使うし不規則な生活だから、

何よりお客さまに清潔なイメージを持ってもらうために、お肌や髪の毛にも食べものが

大切だということを。あなたの力が必要なのよ、と。


料理人はそのことをわかってくれて、腕を振うようになったそうよ。

彼女たちは食堂で世界の色々な話をして、調理スタッフに、いつもありがとう、と

世界各国のお土産を渡すようになったんですって。パクさんに聞いたの。


田舎から出てきた子には、同郷のセンパイの働く姿を見せて

お互いにいい関係になっているそうよ。


病院に入院している子どもたちの所へも

時々プレゼントを持って行ってるの、中国支部は。


年に一度、その年の優秀スタッフを表彰する機会があるんだけど

ゆいが3年目の時に、料理長と調理スタッフを表彰したのよ。

こっそり彼らの家族も招待して、花束贈呈してもらったの。

お父さんやお母さんが表彰される姿を見て、子どもたちも嬉しそうだったわ。

花束を抱えて家族で帰宅したら、近所の人に「どうしたの?」って聞かれて。

その話が口コミで広がって。

中国支部の売上はそれから右肩上がりよ。

今では東京本社を脅かす存在になった。

その頃、ゆいに機内で会ったことがあるの。

彼女は、最近なぜか忙しいと言ってたわ。でも、新人さんの研修にちょうどいいと。



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