ひこうき雲

みどり

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ゆいの帰国⑥もう離陸します

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しばらくして


ケーサツ官の前席に外国人の男性が2人やってきた。


ゆいが座席まで案内し

「お荷物、上にお入れしましょうか?」

と言うと

「女の子に荷物は持たせられないよ。」

男性の1人がゆいの手をギュッと握った。


ゆいは怪訝な顔をして、その男性の方を見た。


「客相手になんちゅー顔してんだ。」

ケーサツ官のひとりが小声で言った。


着席した外国人男性ふたりは、

新しい✖︎✖︎社の機体の風の抵抗が◉◉で、などと

おおよそケーサツ官たちには理解不能な話を

ゆいにしていた。

「今度一緒に見に行こうよ。」

とゆいを誘っていたが

「あっ、もう時間だ。」

ゆいはそっけなくその場を離れた。

外国人男性たちは笑っていた。



マダムKたちの話もまだ続いていた。


「中国のCEOの友人がフィンランドでホテルを経営してるから

しばらくこっちで休むといいよ、と言って、急遽、交換留学生の

措置が取られたみたいよ。向こうでホテルスタッフとして

接客を学ぶらしいわ。」


「帰るところがなくなっちゃたのね。」


ゆいが機内前方に歩いて行った。


「そろそろね。」

窓側席の女性が言った。


「さっき日本人スタッフが、今日はゆいに放送を任せて

お手並み拝見だって言ってたわ。

日本人はどうも彼女がひとりだけ中国に飛ばされたと思ってバカにしているのよ。

私は彼女がいる時が好きだわ。大きな鉄の塊が生き物のように飛ぶのが好きよ。」


ゆいは、日本語、中国語、英語でアナウンスした。

機内には、数名の中国人のツアー客がいた。

先ほど、ゆいと写真を撮っていた子どもたちも、である。

彼女たちは、写真撮影時にゆいの髪に自分の付けていたピン留めをつけてあげた。

ゆいは喜んで、かわいい?、と言っていた。

彼女たちの母は、ゆいにそのピン留めをあげると言った。

ゆいは機内でずっとそのピン留めを付けていた。



「今日、マンガの最終回みたいに知ってる人が多いんだけど。やりにくいなぁ。」

ゆいのひとりごとをよそに飛行機は定刻に離陸した。

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