食堂のおばあちゃん物語

みどり

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思うツボ

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ゴトウは職場の小さな社員寮に住んでいた。


幽霊の出るホテルと言われた所だった。


3階に大浴場とトレーニングルームがあった。


いわく付の場所の器具は売れなかったらしく

仕方なく寮に残った。


事務員のみちよは福利厚生として

トレーニングルームと浴室を

無料で利用できるようにした。


指導員として

社長の孫娘・ゆいの友人が

アルバイトしていた。


ゴトウは筋トレに興味はなかったが無料で利用できるので

通っているうちにハマった。


もっと別の器具も入れて欲しくなった。

筋トレにハマった数名はみちよに頼んでみた。


「う~ん。でも、予算が限られているから。
 やっぱりみんなが使えるものが優先されるでしょ?」


みちよはすぐにうんとは言わなかった。


「オレたち頑張って働きますから!考えといてください。お願いします!」


数名の筋トレマニアが揃ってお願いした。






みちよは夫の杏(きょう)に筋トレマニアの話をした。


「買ってあげたいんだけどね。
 杏ちゃんも新しいの欲しいとか言ってたでしょ?何とかならない?」


「う~ん。まだ、スペース的には置けそうだとオレも思ってたんだよね。
 じーちゃんの許可取ってみるわ。」



数ヶ月後


杏が買った新しい器具設置。


筋トレマニアたち大喜び。


「みちよさんありがとうございます‼︎」


ますます仕事と筋トレに励む。



杏はミュージシャンだったので

小さな音楽事務所にはファンクラブもあり

杏の友人が事務所スタッフ件カメラマンも担当していた。


ファンクラブの特典として

毎年卓上カレンダーがあり

イケメン風写真タイプと

月ごとにメンバーが仮装したり

大浴場での写真等を使った

バラエティタイプからファンは選べた。

なぜか、イケメン風写真は人気がなかった。


みちよはカメラマンスタッフに頼んで

ついでに男性スタッフのカレンダーも

作ってもらった。

スタッフは恥ずかしそうに写るおじさんや

張り切って浴室で写る筋トレマニアたちなど。

みちよは田舎の親御さんに送ったり

商店街のスタンプラリーの景品にした。


スタンプラリーの景品としては意外と人気が出て

毎年商店街の年末の売上に貢献した。



田舎に住むゴトウの母も

カレンダーを楽しみにしているうちのひとりだった。

ゴトウは母がカレンダーを持っていることを知らなかった。


やんちゃな息子が東京に飛び出して行ってから連絡も無く

みちよからカレンダーが送られてきた時はびっくりした。

毎年それなりに成長している息子を見るのが楽しみになった。


母は東京に行くことにした。


田舎の町にある家を出て


夜行列車に乗って東京へやって来た。


まだ見ぬ東京とは一体どのような所なのか?


息子もこんな期待する気持ちで眠れなかったのか?


長い夜が明けると、東京とは騒々しい場所だった。


右も左もわからないゴトウの母はとりあえずタクシーに乗った。


そして、カレンダーが入っていた封筒をドライバーに見せた。


「わかりました。私、ここによくお客さまをお連れするんですよ。」


たまたま乗ったタクシーは女性ドライバーの個人タクシーで

ドライバーのトシコはこれから向かう息子の会社の面白話を色々としてくれた。



「ありがとうございました。では、よい一日を。」


タクシーを降りたゴトウの母は

さて、どこから入るのかわからなかった。


「母ちゃん⁉︎」


偶然外に出たゴトウと会った。


母は自然と涙が出てきた。

ゴトウは慌ててとりあえず食堂に母と入った。


ゴトウはこれから仕事に行くところだったので

帰ってきてからゆっくり話をすることになった。


日中、ゴトウの母は退屈することはなかった。


どこからともなくおばあちゃんたちがやってきて

話に花が咲いた。



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