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第6話 幽現界二日目
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幽現界二日目。遅刻ギリギリに出勤して書類整理をしていた照真は薙華に仕入れ作業の手伝いを頼まれて、トラックの後部座席に座っていた。
運転席には薙華が、助手席には仕事の息抜きと称して同伴することになった豊命がいる。
斎綾も息抜きに行きたがっていたが、「上三人が一気に抜けたら部下が困るでしょ」と薙華に断られ、管理室で留守番をしながら書類を捌いている。
薙華が運搬トラックを走らせること十分。悠楽にある書店の前までやってきた照真たちはトラックの荷台からダンボールを持って、書店の仕入れ業者専用の裏口へと入る。
冥路閣には幽現界の住民が来るだけではなく、仕入れ用の荷物も運ばれてくるのだ。細い通路を歩いた先にある在庫室へ着き、空いている床へダンボールを積み上げて置いていく。
すると、奥の方で作業をしていた女性の書店員がやってきた。
「他の業務で忙しいでしょうに。いつも助かります」
「良いのよ。悠楽の商業をサポートするのもあたしたち調冥者の仕事なんだから」
薙華はにこやかな笑みを浮かべながら言った。
冥路閣はいわゆる何でも屋のようなもので、幽現界の暮らしのサポートだけではなく、昨日、斎綾と行った発電所などの各主要施設との連携はもちろん、今回のように悠楽に入っている商業施設に仕入れをしたりなどの手伝いもこなしている。
本の在庫の入ったダンボールを運び終わり、ついでだからと開封作業も手伝っていると、開封したダンボールの中から見覚えのある漫画が出てきた。
「あ、この漫画見たことあるっすね」
「あー、それ今、悠楽の方で人気なんですよ~」
書店員はダンボールの中身を覗き込むようにして見ると、言葉を発した。
「へぇ、そうなんすね」
「はい、現界の漫画はどれも質がよくて目新しい物ばかりで売れに売れるので、書店としては大助かりなんです」
両手を合わせながら嬉しそうに語る書店員。照真自身、よく義妹に布教されて漫画を読むことがあるが、どれも面白いものばかりでジャンルも多岐にわたっている。
「では、私は本棚の準備があるのでこれで失礼します」
書店員は頭を下げると、店内に繋がる扉を潜って出て行った。彼女を見送った三人は、開封作業をテキパキ終わらせていく。一通り終わったところで、照真は先ほどの漫画に目を向ける。
「この漫画もそうっすけど、悠楽には現界で見かけたものがちらほらありますね。パソコンも置いてあるし、車も走ってるし現界と変わらないってことには驚いたっす」
まだここに来て二日目だが、食べ物も纏っている服もどれもどこかで見たことのあるものばかりで、住民が死者だということ以外、現界とは何ら変わりない世界だ。
「悠楽は現界の文化レベルに合わせてその都度進化していて、今回みたいに現界にあるものを仕入れることもあるの」
(だから現界にいたときに見たものと同じものがあるのか……)
豊命の説明を受け、照真は納得する。
きっと管理室のデスクに設置されているパソコンは勿論、初日に見た発電所の設備や監視カメラ、先ほど乗ってきたトラックもそのうちの一つなのだろう。
幽現界の人たちが快適に暮らせるようサポートする。そのためには現界と変わらない技術力が欠かせないのかもしれない。
「けど本当、昔に比べたら随分過ごしやすくなったものよ。ほんの百年前までは書類とかは全部手書きでやってたんだから」
「うわ~、大変そうっすね」
不満そうな口ぶりで話す豊命に、同情する。
今でさえあの量の書類を捌くのにみんな必死だというのに、手書きになったらその倍以上は時間が掛かるだろう。現代に生まれて良かった。
そう照真は密かに思う。
「てか、ほんの百年って。あんたらどんだけ生きてんすか」
「女子に年齢聞くとは常識ってもんがないわね。あんた」
「あー、すいません……」
薙華に呆れられ、照真は気まずそうに目を逸らしながら謝る。
「まぁ別に教えたくないって訳でもないから言うけど、あたしと豊命、斎綾の三人は、とうに千歳は超えてるわよ」
「え、マジすか……。全然見えないっすね。お二人とも綺麗ですし」
薙華の答えに、照真は目を見開き、唖然とした表情を浮かべる。
スタイルがいいのはもちろん、顔もこの上なく整っており、肌も傷一つなくツヤがある。見た目だけで言えば二十代、三十代と認識されてもおかしくないぐらいだ。
「あら、たまにはいいこと言うじゃない。ほら、もっと褒めなさい!」
「あー、遠慮しとくっす」
豊命がニヤついた目で見てくると、照真は視線を横に逸らしながら抑揚のない声で言った。
「ちょっと! せっかく人がいい気になってるってのに遠慮するとはどういうつもりよ!」
「だって褒めたらすぐ調子乗るじゃないすか」
ムキになって詰め寄ってくる豊命に、照真は面倒くさそうに呟く。
例えば昨日、冥路閣に帰って来てから豊命と受付の手伝いをしている最中に何気なく褒めたら、調子に乗っていつもの文言を忘れたり、お客さんに持ってくる書類を間違えたりなどミスを連発していた。
速攻で豊命が謝罪したが、知らず知らずのうちに上目遣いになっていたようで、それを見た来客が昏倒。照真が救護室まで運ぶ羽目になったのだ。
ふと豊命を見てみると、一応、自覚はあるのか図星を突かれたように顔を歪めていた。
「二人ともー、次の仕入れ先もあるんだからじゃれあってないで早く出るわよ」
部屋の出入り口に立っていた薙華がトラックの鍵を人差し指で回しながら呼びかけてくる。
「はぁ? 別にそんなんじゃないわよ」
「そうっすよ。この人が突っかかって来たんで対応してるだけっす」
「はいはい、なんでも良いから早くするー」
薙華はそう言うと、部屋から出てトラックの方へと向かう。照真と豊命は気に食わないと互いに顔を見合わせてから、先に行った薙華の後を追うのだった。
―――――――
【次回予告】
幽現界六日目。五日間朝から夜まで働きづめで疲労困憊の照真たち。ひょんなことから照真の幼少の頃の話をすることになる。
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運転席には薙華が、助手席には仕事の息抜きと称して同伴することになった豊命がいる。
斎綾も息抜きに行きたがっていたが、「上三人が一気に抜けたら部下が困るでしょ」と薙華に断られ、管理室で留守番をしながら書類を捌いている。
薙華が運搬トラックを走らせること十分。悠楽にある書店の前までやってきた照真たちはトラックの荷台からダンボールを持って、書店の仕入れ業者専用の裏口へと入る。
冥路閣には幽現界の住民が来るだけではなく、仕入れ用の荷物も運ばれてくるのだ。細い通路を歩いた先にある在庫室へ着き、空いている床へダンボールを積み上げて置いていく。
すると、奥の方で作業をしていた女性の書店員がやってきた。
「他の業務で忙しいでしょうに。いつも助かります」
「良いのよ。悠楽の商業をサポートするのもあたしたち調冥者の仕事なんだから」
薙華はにこやかな笑みを浮かべながら言った。
冥路閣はいわゆる何でも屋のようなもので、幽現界の暮らしのサポートだけではなく、昨日、斎綾と行った発電所などの各主要施設との連携はもちろん、今回のように悠楽に入っている商業施設に仕入れをしたりなどの手伝いもこなしている。
本の在庫の入ったダンボールを運び終わり、ついでだからと開封作業も手伝っていると、開封したダンボールの中から見覚えのある漫画が出てきた。
「あ、この漫画見たことあるっすね」
「あー、それ今、悠楽の方で人気なんですよ~」
書店員はダンボールの中身を覗き込むようにして見ると、言葉を発した。
「へぇ、そうなんすね」
「はい、現界の漫画はどれも質がよくて目新しい物ばかりで売れに売れるので、書店としては大助かりなんです」
両手を合わせながら嬉しそうに語る書店員。照真自身、よく義妹に布教されて漫画を読むことがあるが、どれも面白いものばかりでジャンルも多岐にわたっている。
「では、私は本棚の準備があるのでこれで失礼します」
書店員は頭を下げると、店内に繋がる扉を潜って出て行った。彼女を見送った三人は、開封作業をテキパキ終わらせていく。一通り終わったところで、照真は先ほどの漫画に目を向ける。
「この漫画もそうっすけど、悠楽には現界で見かけたものがちらほらありますね。パソコンも置いてあるし、車も走ってるし現界と変わらないってことには驚いたっす」
まだここに来て二日目だが、食べ物も纏っている服もどれもどこかで見たことのあるものばかりで、住民が死者だということ以外、現界とは何ら変わりない世界だ。
「悠楽は現界の文化レベルに合わせてその都度進化していて、今回みたいに現界にあるものを仕入れることもあるの」
(だから現界にいたときに見たものと同じものがあるのか……)
豊命の説明を受け、照真は納得する。
きっと管理室のデスクに設置されているパソコンは勿論、初日に見た発電所の設備や監視カメラ、先ほど乗ってきたトラックもそのうちの一つなのだろう。
幽現界の人たちが快適に暮らせるようサポートする。そのためには現界と変わらない技術力が欠かせないのかもしれない。
「けど本当、昔に比べたら随分過ごしやすくなったものよ。ほんの百年前までは書類とかは全部手書きでやってたんだから」
「うわ~、大変そうっすね」
不満そうな口ぶりで話す豊命に、同情する。
今でさえあの量の書類を捌くのにみんな必死だというのに、手書きになったらその倍以上は時間が掛かるだろう。現代に生まれて良かった。
そう照真は密かに思う。
「てか、ほんの百年って。あんたらどんだけ生きてんすか」
「女子に年齢聞くとは常識ってもんがないわね。あんた」
「あー、すいません……」
薙華に呆れられ、照真は気まずそうに目を逸らしながら謝る。
「まぁ別に教えたくないって訳でもないから言うけど、あたしと豊命、斎綾の三人は、とうに千歳は超えてるわよ」
「え、マジすか……。全然見えないっすね。お二人とも綺麗ですし」
薙華の答えに、照真は目を見開き、唖然とした表情を浮かべる。
スタイルがいいのはもちろん、顔もこの上なく整っており、肌も傷一つなくツヤがある。見た目だけで言えば二十代、三十代と認識されてもおかしくないぐらいだ。
「あら、たまにはいいこと言うじゃない。ほら、もっと褒めなさい!」
「あー、遠慮しとくっす」
豊命がニヤついた目で見てくると、照真は視線を横に逸らしながら抑揚のない声で言った。
「ちょっと! せっかく人がいい気になってるってのに遠慮するとはどういうつもりよ!」
「だって褒めたらすぐ調子乗るじゃないすか」
ムキになって詰め寄ってくる豊命に、照真は面倒くさそうに呟く。
例えば昨日、冥路閣に帰って来てから豊命と受付の手伝いをしている最中に何気なく褒めたら、調子に乗っていつもの文言を忘れたり、お客さんに持ってくる書類を間違えたりなどミスを連発していた。
速攻で豊命が謝罪したが、知らず知らずのうちに上目遣いになっていたようで、それを見た来客が昏倒。照真が救護室まで運ぶ羽目になったのだ。
ふと豊命を見てみると、一応、自覚はあるのか図星を突かれたように顔を歪めていた。
「二人ともー、次の仕入れ先もあるんだからじゃれあってないで早く出るわよ」
部屋の出入り口に立っていた薙華がトラックの鍵を人差し指で回しながら呼びかけてくる。
「はぁ? 別にそんなんじゃないわよ」
「そうっすよ。この人が突っかかって来たんで対応してるだけっす」
「はいはい、なんでも良いから早くするー」
薙華はそう言うと、部屋から出てトラックの方へと向かう。照真と豊命は気に食わないと互いに顔を見合わせてから、先に行った薙華の後を追うのだった。
―――――――
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