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第1章-第5社 進路雑談
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そして翌日。朝、学校に着いた秋葉は、鞄の中から進路希望用紙を取り出す。今日は終業式があるため、朝のうちに提出しなければならないのだ。
「その様子やと決まったようやな」
「あ、熾蓮」
後ろの席に座っていた熾蓮から声をかけられ、紙を裏返すと同時に身体を横に逸らせる。
「へぇ、どこにしたんだ? 秋葉」
前の席から声が掛かり、そっちに目を向ける。背もたれを前にして椅子に座った男口調の女子生徒は守咲結奈。
白メッシュの混じった黒髪ロングを高い位置でポニーテールにしている彼女は興味深そうな黒い瞳で秋葉を見てくる。
結奈の家は古くから呉服屋を営んでおり、縁があって秋葉とは幼いころから一緒の仲。絵が得意で、よく秋葉が創作したキャラクターのイラストを描いてもらっている。
「おーい早く教えろ~、じゃないと年末年始の手伝い行かないよ~」
「えぇ、それは困るな……」
机の下の方から聞こえた声に、秋葉は苦笑交じりに応える。前髪を上げた茶髪ショートに翠眼の眼鏡をかけた少女は堀部舞衣。
結奈と同じ秋葉の幼馴染で、生粋のオタクであり理系女子。家が科学技術研究所で、それの影響か機械やネットに強く、小5にして1つのサイトと掲示板を作り上げてしまった天才だ。
舞衣に急かされた秋葉は紙を表に向けて3人に見せる。
「えっとね、大神学園ってとこ」
「なんや、俺と同じところやん」
「あ、熾蓮もここなんだ。ってことはやっぱり?」
代報者の存在は世間一般的には知られてはいるものの、非常時以外は口外禁止となっているので、ぼかし気味に訊く。
「そうやな。元々、そこに行くつもりではあったし。そういう秋葉は?」
熾蓮に訊かれた秋葉は、一度進路希望用紙に目を向けてから喋り出す。
「んー、家を継ぐって意味もあるんだけど、金銭的にもそっちに進んだ方が稼ぎはあるかなって」
「まぁ、それはそうやな。知り合いから聞いたところによると、1回の任務につき3万から5万は貰えるゆう話やったし」
「そ、そんなに!?」
普通に1日バイトするだけでも時給1000円前後だというのに、1回の任務でそれだけ貰えるとは思わなかった。
神社の運営費と生活費を払わなければならない秋葉にとっては願ってもない好条件。これは尚更大神学園の入学を希望して正解だったかもしれない。
「そ・れ・で、こっちに志望校訊いてきたんだから2人もどこ行くか教えて貰えるんだろうね?」
「あぁ、勿論。学校自体は違うけど、あたしと舞衣も大神系列の専門に通う予定だぜ」
「えっ!? ってことは、結奈と舞衣も?」
「そういうこと~、学校は違うけど進む道はほぼ一緒ってね」
驚く秋葉に、舞衣が間延びしたように話しながら微笑む。
「熾蓮は家が神社だからともかくとして、2人に関しては知らなかったんだけど……」
結奈と舞衣も秋葉と熾蓮と同じく視える眼を持っている。専門学校に行くというところまでは前に聞いていたが、まさか同じ系列の学校だったとは。
更なる衝撃が秋葉を襲う中、結奈が話し出す。
「実はあたしの父方の実家が神社でな。機物神社ってところだ」
「自分のところはお母さんが近江神宮の神職やってるから、それの影響で」
「うぇ~、マジか……」
機物神社は大阪府にあり、織物の神を祀っている。一方、滋賀県にある近江神宮は百人一首の聖地として有名な神社だ。
秋葉は後ろの席に座っている熾蓮へ顔を向ける。
「え、ちなみに熾蓮は知ってた?」
「んー、前にちょろっとだけ聞いたことはあったな」
「ちょっと、知ってたんなら教えてよ~」
「すまんな」
毎年、年末年始になると結奈と舞衣が神社の手伝いに来てくれるのだが、やけに手際が良いなと思っていたらそういうことだったらしい。
新情報が多すぎて頭が混乱してくる秋葉。すると、結奈はつけ足すようにこう言った。
「秋葉と熾蓮とは離れる事にはなるけど、普通の高校通うより、そっちの方が専門的なこと学べるからさ」
「そうそう。普通の授業は肌に合わないっていうか、もうちょい自分のためになる授業の方が良いというか」
舞衣も結奈の意見に頷きながら話す。
中学の授業は覚えることが多いし、眠いし、話のつまらない先生に当たった時は地獄だ。それならば、より自分の興味のある方を選んだ方が自分の身につきやすくなる。
現に、秋葉も創作に役立つ情報が流れてきた際には集中して聞いていることの方が多い。
「確かそっちって学科ごとに分かれとったよな。何系に進むん?」
「あたしは総合デザインだな。ほら、うちんとこ呉服屋だろ? 最終的には後継がないとだし、自分もデザインには興味あるからさ」
「私は情報システム。元々、ネット関係のことに携わりたくて、ちょうど良さそうな学科があったからそこにしたって感じ」
結奈も舞衣も自分の特技や将来のことを踏まえて、進路を選んでいるようだ。みんなちゃんとした志望理由があって良いなと感じる秋葉。
昨日に急遽決まったとはいえ、家業を継ぐのはまだ良いとして、流石にお金儲けなのはどうなのだろうか。
自分の志望理由に肩を落としつつ、顔を上げる。と、不意に教室の前に飾ってあった時計が視界に入った。
「うわっ! そろそろ提出しないと時間ヤバい!」
秋葉は慌てて席から立ち上がる。
「どうせあたしら先に体育館行かなきゃだし、着いてくよ」
「賛成~」
「ほな、行こか」
教室を出て、職員室に向かった秋葉たち。職員会議まで残り3分のところで職員室へと駆け込んだ秋葉は、進路希望用紙を担任へ提出する。紙を受け取り、志望校の欄を眺めた男性教師は口を開いた。
「大神学園といえば、神道系の学校か。北桜は家が神社だし、ちょうど良いんじゃないの?」
「ありがとうございます!」
秋葉は満面の笑みを浮かべながらお礼を言う。
「それじゃあもう会議始まるからさっさと出てった出てった」
「はーい、では失礼します」
教員が職員室に続々と集まって来ているのを目にし、足早に職員室から出て行く秋葉。最後に扉の前で一礼して、待っていた熾蓮の元に向かうと、結奈と舞衣の姿が無くなっていた。
「あれ? 結奈と舞衣は?」
「もう先に行ったで」
「あー、そっか。後、10分ぐらいで終業式始まるもんね」
結奈と舞衣は終業式の手伝いで、一般生徒よりも早く呼ばれているので、先に体育館へと向かったのだろう。
進路希望用紙も提出し終わったところで、自分も体育館へ行こうと踵を返したその時、熾蓮から呼び止められる。
「秋葉、その脚どうしたんや?」
「……え?」
振り返って、首を傾げる秋葉。まさか気づかれた? そう内心、そわそわしていると熾蓮が再度口を開いた。
「左脚怪我しとるやろ」
(ば、バレてる……)
きっと昨日転んだ際に怪我をしたところのことを言っているのだろう。怪我をしたのは左足のふくらはぎ。ちょうど靴下で見えないはずなのにどうして分かったのだろうか。
「な、何で分かるの?」
「そんなん歩き方見とったら一目瞭然や」
「さ、流石は熾蓮……」
できるだけ心配をかけないように隠しているつもりではあったが、熾蓮の前では無意味だったらしい。流石、普段からよく見ているだけはある。
観念して息を吐いていたら、熾蓮が印を組んで、私と自身の周りに透明な結界を生成した。
「これで周りには見えへんし、聞こえへん」
どうやら結界に不可視と防音の術をかけたようだ。終業式へ向かう生徒たちは全くと言って良いほど、こちらを気にする素振りを見せずにいる。
「昨日別れてから何があった?」
これでもかというほど真剣な眼差しで見つめられ、逃げるに逃げれないと悟った秋葉は観念して話し出す。
「実は昨日家に帰る途中、祟魔に襲われて……」
「っ……それほんまか!?」
ぐいっと秋葉に詰め寄りながら声を上げる熾蓮。秋葉はその勢いに押されながら、首を縦に振り、事情を説明しようと口を開く。
「何とかエルと大神学園の代報者の人の助けもあって逃げ切れたんだけど、助けられる前に逃げてる途中で転んで怪我しちゃって……。黙っててごめん……」
秋葉は頭を下げて謝る。そして、頭を上げて熾蓮の目を見ながら続けて話す。
「それと昨日、エルから自分が命狙われてること聞いてさ。私そのこと全然知らずに過ごしてたんだけど、熾蓮が今まで守ってくれてたんだね。ありがとう」
何も知らなかったとはいえ、守って貰ったお礼は言っておかなければ。そう思いながら話した秋葉は最後に微笑む。 対する熾蓮は一瞬、目を見開いたかと思えば、こう言った。
「まぁ護衛対象を守るんは、任務を受けた忍びとしては当然やさかいな」
熾蓮は笑みを浮かべながら話したかと思えば、ふと溜息を漏らし、こう続けた。
「にしても、あんの野郎こっちの許可なしにべらべら喋りよって……。どうせそこにおるんやろ? お喋りマスコット!」
熾蓮は呆れた表情でエルを呼ぶ。すると、すぐに白い光が現れ、そこからエルが出てきた。
「もぉ~、君までマスコット呼ばわりなんて酷いなぁ」
「おい、一体どういうつもりやねんエル。黙っとくゆう約束はどないしたんや?」
出て早々エルに対して、真っ先に詰め寄る熾蓮。エルはそろーっと視線を横に逸らすが、熾蓮に容赦なくむぎゅっと顎を掴まれてビビった表情を浮かべる。
「い、いや~、祟魔に襲われた件もあったし、大神学園に入学するにあたって、秋葉にもそろそろ伝えとかないといけないかなって。ほらだって、何も知らないままって言うのはねぇ? 今のうちに言っとかないと、後々更にややこしいことになるだろうし」
「……まぁ、そうやな」
エルの顎から手を離し、渋々同意する熾蓮。一方、熾蓮の手から解放されたエルは、自らの頬を擦り始める。
「それに事情を聞いて守られるばっかってのもね。せめて自分の身ぐらいは守れるようにならないとだし、それもあって大神学園の入学を決めたの」
秋葉はもう1つの入学動機を熾蓮へ話した。
「……ほうか。まぁ、俺とエルがいつも一緒に入れるとは限らへんし、秋葉がそう決めたんならこっちに止める権利はないわ」
納得したようで、微笑を浮かべながら話す熾蓮。と、何かを思い出したのか、一瞬目を見開いた熾蓮は秋葉の方を向いた。
「ちなみに、エルからどこまで聞いたんや?」
「えっとね、熾蓮が密命で動いてるってことと、狙われてる理由と予言の内容まで、ほとんど聞いたんじゃないかな」
秋葉からの話を聞いた熾蓮は、顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「分かった。なら上にもこのこと報告しとくわ」
「よろしくね~」
軽く手を振りながら話すエルに、熾蓮は睨みを利かせながらこう話す。
「ほんま、誰のせいや思とんねん」
「ごめんって」
熾蓮に叱られ、軽く謝るエル。その様子に苦笑を浮かべていると、不意に周囲に貼られた結界が目に入り、熾蓮へ声を掛ける。
「それであの、1つ質問なんだけど」
「おん、なんや?」
「学校全体に貼られてる結界って、熾蓮が貼ったの?」
秋葉の入学当初から貼られているので、ずっと誰が貼った結界なのだろうかと疑問に思っていたのだ。
「いや、あれは御守家が貼ったもんや。流石にこの規模の結界を貼る力はまだ俺にはあらへんよ」
「そ、そうなんだ」
「まぁ、あの結界も俺らが卒業するころには解除されるやろうな」
その言葉で、やはり自分を守るために貼られたものなのだと秋葉は納得する。3年間も結界を維持できるなんて何者なのだろうかと思っていたのだが、そういうことなら十分有り得るだろう。
すると、終業式がもうすぐ始まることを知らせる校内放送が流れた。熾蓮が両手をパンッと合わせれば、辺りに貼られていた結界が解除される。
「そろそろ始まるし、行こか」
「そうだね」
終業式の会場である体育館へ向かうため、廊下を歩き出す2人。ここで、秋葉がエルに向けて念話を飛ばした。
『あ、エルは頼むから余計なちょっかい出さないでよ?』
『分かってるって、ボクを何だと思ってるのさ』
『『何しでかすか分からない(分からへん)マスコット』』
『2人揃って酷いなぁ!?』
念話で嘆くエルに、秋葉と熾蓮は笑いを溢す。今年度最後の行事となる終業式が終われば待ちに待った冬休み。抱えていた疑問が無事に晴れた秋葉は、満足した表情で校舎を出るのだった。
―――――――
【次回予告】
入学式を終え、結奈と舞衣と別れた秋葉は、熾蓮に大神学園に入学する前のやるべきことを尋ねるのだが――。
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「その様子やと決まったようやな」
「あ、熾蓮」
後ろの席に座っていた熾蓮から声をかけられ、紙を裏返すと同時に身体を横に逸らせる。
「へぇ、どこにしたんだ? 秋葉」
前の席から声が掛かり、そっちに目を向ける。背もたれを前にして椅子に座った男口調の女子生徒は守咲結奈。
白メッシュの混じった黒髪ロングを高い位置でポニーテールにしている彼女は興味深そうな黒い瞳で秋葉を見てくる。
結奈の家は古くから呉服屋を営んでおり、縁があって秋葉とは幼いころから一緒の仲。絵が得意で、よく秋葉が創作したキャラクターのイラストを描いてもらっている。
「おーい早く教えろ~、じゃないと年末年始の手伝い行かないよ~」
「えぇ、それは困るな……」
机の下の方から聞こえた声に、秋葉は苦笑交じりに応える。前髪を上げた茶髪ショートに翠眼の眼鏡をかけた少女は堀部舞衣。
結奈と同じ秋葉の幼馴染で、生粋のオタクであり理系女子。家が科学技術研究所で、それの影響か機械やネットに強く、小5にして1つのサイトと掲示板を作り上げてしまった天才だ。
舞衣に急かされた秋葉は紙を表に向けて3人に見せる。
「えっとね、大神学園ってとこ」
「なんや、俺と同じところやん」
「あ、熾蓮もここなんだ。ってことはやっぱり?」
代報者の存在は世間一般的には知られてはいるものの、非常時以外は口外禁止となっているので、ぼかし気味に訊く。
「そうやな。元々、そこに行くつもりではあったし。そういう秋葉は?」
熾蓮に訊かれた秋葉は、一度進路希望用紙に目を向けてから喋り出す。
「んー、家を継ぐって意味もあるんだけど、金銭的にもそっちに進んだ方が稼ぎはあるかなって」
「まぁ、それはそうやな。知り合いから聞いたところによると、1回の任務につき3万から5万は貰えるゆう話やったし」
「そ、そんなに!?」
普通に1日バイトするだけでも時給1000円前後だというのに、1回の任務でそれだけ貰えるとは思わなかった。
神社の運営費と生活費を払わなければならない秋葉にとっては願ってもない好条件。これは尚更大神学園の入学を希望して正解だったかもしれない。
「そ・れ・で、こっちに志望校訊いてきたんだから2人もどこ行くか教えて貰えるんだろうね?」
「あぁ、勿論。学校自体は違うけど、あたしと舞衣も大神系列の専門に通う予定だぜ」
「えっ!? ってことは、結奈と舞衣も?」
「そういうこと~、学校は違うけど進む道はほぼ一緒ってね」
驚く秋葉に、舞衣が間延びしたように話しながら微笑む。
「熾蓮は家が神社だからともかくとして、2人に関しては知らなかったんだけど……」
結奈と舞衣も秋葉と熾蓮と同じく視える眼を持っている。専門学校に行くというところまでは前に聞いていたが、まさか同じ系列の学校だったとは。
更なる衝撃が秋葉を襲う中、結奈が話し出す。
「実はあたしの父方の実家が神社でな。機物神社ってところだ」
「自分のところはお母さんが近江神宮の神職やってるから、それの影響で」
「うぇ~、マジか……」
機物神社は大阪府にあり、織物の神を祀っている。一方、滋賀県にある近江神宮は百人一首の聖地として有名な神社だ。
秋葉は後ろの席に座っている熾蓮へ顔を向ける。
「え、ちなみに熾蓮は知ってた?」
「んー、前にちょろっとだけ聞いたことはあったな」
「ちょっと、知ってたんなら教えてよ~」
「すまんな」
毎年、年末年始になると結奈と舞衣が神社の手伝いに来てくれるのだが、やけに手際が良いなと思っていたらそういうことだったらしい。
新情報が多すぎて頭が混乱してくる秋葉。すると、結奈はつけ足すようにこう言った。
「秋葉と熾蓮とは離れる事にはなるけど、普通の高校通うより、そっちの方が専門的なこと学べるからさ」
「そうそう。普通の授業は肌に合わないっていうか、もうちょい自分のためになる授業の方が良いというか」
舞衣も結奈の意見に頷きながら話す。
中学の授業は覚えることが多いし、眠いし、話のつまらない先生に当たった時は地獄だ。それならば、より自分の興味のある方を選んだ方が自分の身につきやすくなる。
現に、秋葉も創作に役立つ情報が流れてきた際には集中して聞いていることの方が多い。
「確かそっちって学科ごとに分かれとったよな。何系に進むん?」
「あたしは総合デザインだな。ほら、うちんとこ呉服屋だろ? 最終的には後継がないとだし、自分もデザインには興味あるからさ」
「私は情報システム。元々、ネット関係のことに携わりたくて、ちょうど良さそうな学科があったからそこにしたって感じ」
結奈も舞衣も自分の特技や将来のことを踏まえて、進路を選んでいるようだ。みんなちゃんとした志望理由があって良いなと感じる秋葉。
昨日に急遽決まったとはいえ、家業を継ぐのはまだ良いとして、流石にお金儲けなのはどうなのだろうか。
自分の志望理由に肩を落としつつ、顔を上げる。と、不意に教室の前に飾ってあった時計が視界に入った。
「うわっ! そろそろ提出しないと時間ヤバい!」
秋葉は慌てて席から立ち上がる。
「どうせあたしら先に体育館行かなきゃだし、着いてくよ」
「賛成~」
「ほな、行こか」
教室を出て、職員室に向かった秋葉たち。職員会議まで残り3分のところで職員室へと駆け込んだ秋葉は、進路希望用紙を担任へ提出する。紙を受け取り、志望校の欄を眺めた男性教師は口を開いた。
「大神学園といえば、神道系の学校か。北桜は家が神社だし、ちょうど良いんじゃないの?」
「ありがとうございます!」
秋葉は満面の笑みを浮かべながらお礼を言う。
「それじゃあもう会議始まるからさっさと出てった出てった」
「はーい、では失礼します」
教員が職員室に続々と集まって来ているのを目にし、足早に職員室から出て行く秋葉。最後に扉の前で一礼して、待っていた熾蓮の元に向かうと、結奈と舞衣の姿が無くなっていた。
「あれ? 結奈と舞衣は?」
「もう先に行ったで」
「あー、そっか。後、10分ぐらいで終業式始まるもんね」
結奈と舞衣は終業式の手伝いで、一般生徒よりも早く呼ばれているので、先に体育館へと向かったのだろう。
進路希望用紙も提出し終わったところで、自分も体育館へ行こうと踵を返したその時、熾蓮から呼び止められる。
「秋葉、その脚どうしたんや?」
「……え?」
振り返って、首を傾げる秋葉。まさか気づかれた? そう内心、そわそわしていると熾蓮が再度口を開いた。
「左脚怪我しとるやろ」
(ば、バレてる……)
きっと昨日転んだ際に怪我をしたところのことを言っているのだろう。怪我をしたのは左足のふくらはぎ。ちょうど靴下で見えないはずなのにどうして分かったのだろうか。
「な、何で分かるの?」
「そんなん歩き方見とったら一目瞭然や」
「さ、流石は熾蓮……」
できるだけ心配をかけないように隠しているつもりではあったが、熾蓮の前では無意味だったらしい。流石、普段からよく見ているだけはある。
観念して息を吐いていたら、熾蓮が印を組んで、私と自身の周りに透明な結界を生成した。
「これで周りには見えへんし、聞こえへん」
どうやら結界に不可視と防音の術をかけたようだ。終業式へ向かう生徒たちは全くと言って良いほど、こちらを気にする素振りを見せずにいる。
「昨日別れてから何があった?」
これでもかというほど真剣な眼差しで見つめられ、逃げるに逃げれないと悟った秋葉は観念して話し出す。
「実は昨日家に帰る途中、祟魔に襲われて……」
「っ……それほんまか!?」
ぐいっと秋葉に詰め寄りながら声を上げる熾蓮。秋葉はその勢いに押されながら、首を縦に振り、事情を説明しようと口を開く。
「何とかエルと大神学園の代報者の人の助けもあって逃げ切れたんだけど、助けられる前に逃げてる途中で転んで怪我しちゃって……。黙っててごめん……」
秋葉は頭を下げて謝る。そして、頭を上げて熾蓮の目を見ながら続けて話す。
「それと昨日、エルから自分が命狙われてること聞いてさ。私そのこと全然知らずに過ごしてたんだけど、熾蓮が今まで守ってくれてたんだね。ありがとう」
何も知らなかったとはいえ、守って貰ったお礼は言っておかなければ。そう思いながら話した秋葉は最後に微笑む。 対する熾蓮は一瞬、目を見開いたかと思えば、こう言った。
「まぁ護衛対象を守るんは、任務を受けた忍びとしては当然やさかいな」
熾蓮は笑みを浮かべながら話したかと思えば、ふと溜息を漏らし、こう続けた。
「にしても、あんの野郎こっちの許可なしにべらべら喋りよって……。どうせそこにおるんやろ? お喋りマスコット!」
熾蓮は呆れた表情でエルを呼ぶ。すると、すぐに白い光が現れ、そこからエルが出てきた。
「もぉ~、君までマスコット呼ばわりなんて酷いなぁ」
「おい、一体どういうつもりやねんエル。黙っとくゆう約束はどないしたんや?」
出て早々エルに対して、真っ先に詰め寄る熾蓮。エルはそろーっと視線を横に逸らすが、熾蓮に容赦なくむぎゅっと顎を掴まれてビビった表情を浮かべる。
「い、いや~、祟魔に襲われた件もあったし、大神学園に入学するにあたって、秋葉にもそろそろ伝えとかないといけないかなって。ほらだって、何も知らないままって言うのはねぇ? 今のうちに言っとかないと、後々更にややこしいことになるだろうし」
「……まぁ、そうやな」
エルの顎から手を離し、渋々同意する熾蓮。一方、熾蓮の手から解放されたエルは、自らの頬を擦り始める。
「それに事情を聞いて守られるばっかってのもね。せめて自分の身ぐらいは守れるようにならないとだし、それもあって大神学園の入学を決めたの」
秋葉はもう1つの入学動機を熾蓮へ話した。
「……ほうか。まぁ、俺とエルがいつも一緒に入れるとは限らへんし、秋葉がそう決めたんならこっちに止める権利はないわ」
納得したようで、微笑を浮かべながら話す熾蓮。と、何かを思い出したのか、一瞬目を見開いた熾蓮は秋葉の方を向いた。
「ちなみに、エルからどこまで聞いたんや?」
「えっとね、熾蓮が密命で動いてるってことと、狙われてる理由と予言の内容まで、ほとんど聞いたんじゃないかな」
秋葉からの話を聞いた熾蓮は、顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「分かった。なら上にもこのこと報告しとくわ」
「よろしくね~」
軽く手を振りながら話すエルに、熾蓮は睨みを利かせながらこう話す。
「ほんま、誰のせいや思とんねん」
「ごめんって」
熾蓮に叱られ、軽く謝るエル。その様子に苦笑を浮かべていると、不意に周囲に貼られた結界が目に入り、熾蓮へ声を掛ける。
「それであの、1つ質問なんだけど」
「おん、なんや?」
「学校全体に貼られてる結界って、熾蓮が貼ったの?」
秋葉の入学当初から貼られているので、ずっと誰が貼った結界なのだろうかと疑問に思っていたのだ。
「いや、あれは御守家が貼ったもんや。流石にこの規模の結界を貼る力はまだ俺にはあらへんよ」
「そ、そうなんだ」
「まぁ、あの結界も俺らが卒業するころには解除されるやろうな」
その言葉で、やはり自分を守るために貼られたものなのだと秋葉は納得する。3年間も結界を維持できるなんて何者なのだろうかと思っていたのだが、そういうことなら十分有り得るだろう。
すると、終業式がもうすぐ始まることを知らせる校内放送が流れた。熾蓮が両手をパンッと合わせれば、辺りに貼られていた結界が解除される。
「そろそろ始まるし、行こか」
「そうだね」
終業式の会場である体育館へ向かうため、廊下を歩き出す2人。ここで、秋葉がエルに向けて念話を飛ばした。
『あ、エルは頼むから余計なちょっかい出さないでよ?』
『分かってるって、ボクを何だと思ってるのさ』
『『何しでかすか分からない(分からへん)マスコット』』
『2人揃って酷いなぁ!?』
念話で嘆くエルに、秋葉と熾蓮は笑いを溢す。今年度最後の行事となる終業式が終われば待ちに待った冬休み。抱えていた疑問が無事に晴れた秋葉は、満足した表情で校舎を出るのだった。
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