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5話 赤いスカーフとメガホン
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僕のメガホンの声を聞いた仲間たち。
ルゥルーとリタは木を伝って、キースは炎をはらったばかりなのに、炎の中を無理やり突っ切って。
僕とシオンの射線からいなくなるよう、左右に避けてくれる。
次は黒竜だ。
僕は心臓をバクバクさせながら、メガホンを空へと向ける。
先程と同じように大きく息を吸い込み、そして黒竜に向かって、思いっきり吐き出す。
「お前のかーちゃん・・・でーーーべそ!!!!!」
メガホンで拡声された声。メガホンで黒竜の言語に変換された声。
『グゴォォォォォォォ!!!!!!!!』
尾を切断された時より激昂したようだ。
空に逃げて、空から攻撃する予定だったはずの黒竜は一直線に向かってくる。
背の高い木々を硬い鱗でなぎ倒しながら、そのまま突っ込んでくる。
「ほら、弓矢構えて! 風魔法準備!!!」
「えっ、えぇぇぇぇ!!! 今ですか!?」
しくった。心の準備って大切だよね。でもやるしかない状況ってあるよね。
シオンはガクブルの手で弓矢を構える。
そして、風魔法を発動し、シオンの弓矢の先端に風のような何かが集まってくる。
『ハリケーン・バースト』。風魔法では中級クラスの魔法だったはずだ。
それを弓矢の先端に纏わせ威力を上げる。
しかし。
「あ、あれ? あれあれあれぇっ!?!?」
予想していた以上に風が集まってくる。マジ暴風。
しかも風だけじゃなく、雷のようなものも発生し始め、弓矢の先端には小さな竜巻が凝縮されていた。
「こういうスカーフなんだよね。初めて使ったけど」
鑑定で中身はわかっていた。勝手に自分の魔力の全てを一撃に込め、さらには周囲の魔素を吸い取って、魔力に変換し増大させる。
シオンは魔力量が元から多いが、さらにそれ以上の魔力がどんどん集まってきていた。
ここは森だ。なんやかんや魔素が多い場所なんだろう。そういえばさっきサイクロプスも倒したし、その残りカスの魔素も吸い取ってるのかもしれない。魔素は、はっきりと見えるものじゃないからわからないけどね。
『ギュイィィィィィィィィィン!!!!!!!』
どんどん集まって来る魔力。それを支えるのに精一杯になってくるシオン。
「こ、これいつ放てばっ!?」
シオンも少し気を緩ませば手を離してしまいそうな勢いだ。
しかしその時。
『グガァァァァァァ!!!!!!!!!!!』
想像以上にとんでもないスピードで黒竜が目の前にいた。怒らせすぎたのかもしれない。
大きな口を開けて、僕たちを飲み込まんとしてくる。
あ、やべ。タイミング。ミスったかも。
「キャァァァァァァ!!!!」
そんな時、ハラリと白い何かが落ちる。
すると、落ちたそれは、僕達を包むかのように急激に広がる。
『パッッ!!!』
開いた白い何かは、僕たちの視界を潰し、遮る。
『バフンッ・・・!!!!!』
目の前まで迫っていた黒竜は、白いなにかに激突すると、ぶつかりながら、軌道をずらされて上空へ舞い上がる。
あ、これ。ハンカチじゃん。僕がカフェで涙を拭く用にシオンに渡したやつ。
あれ、実は魔導具だったんだよね。窮地になった時に所持者をオートガードしてくれるハンカチ。
しかも完全に破れるまで使えるって凄いよね。
「わたしっ、、、死んだ???」
シオンはそう言いながらも、まだ弓をちゃんと握り続けていた。
その先端も永遠にどこからか魔力を集め続けていた。
大きく広がったハンカチは、役目を終えるとまた小さなサイズに戻っていった。
「シオン! 上に向けるんだ!」
僕はシオンに言う。上空に飛んでいった黒竜は再び、一直線に僕らに向かって隕石が墜落するかのように突撃してくる。
「いけえぇぇぇっ!!! 今だあぁぁ!!!!!」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
あまりにも強い暴風に晒されながら、今やとんでもなく制御に苦しい弓矢を必死に上に構え、放つ。
『スッ・・・・・・!!』
放った瞬間、音はしなかった。風と雷を纏ったその美しいシュートは空をまっすぐに駆け巡り、いつの間にかどこかに消える。
『ギュ、、、、ギュリュリュリュリュリュリュリュ!!!!!!!!!』
数秒遅れて、この世のものとは思えない回転音を空に轟かせた。
『ブォンッッッ!!!!』
その瞬間、僕たちの上空で横に衝撃波が広がる。
森の木々の一帯上部を広範囲で一気に刈り取り、雲掛かっていた空はパッと霧散し、青く澄んだ晴れになった。
『パラッ……』
空から何かがパラパラと落ちてくる。
ーーバラバラになった黒龍だった。
『ズドンッ……』
さらに色々落ちてくる。
あの弓矢の衝撃で尻もちをついていた僕とシオン。
「えっ、私が……? あれを? あの巨大な黒竜を?」
「シオン。よくやった。君のおかげで僕は生き残れたよ」
もう脇汗だけではなく、全身からおびただしい汗が噴出していた僕。苦し紛れにシオンに感謝を告げる。
「うっ、、うっ、、、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
緊張から開放され、感情が決壊したシオンは、大声で泣き出した。
「ぎゅ、ぎゅりぇんしゃあああああああああん!!!!」
また、僕の名前をちゃんと呼べていない。
「うっ……」
シオンが突如、地面に倒れる。突然の死。南無阿弥陀仏・・・
じゃなくて、そういうスカーフなので。一気に魔力を使った影響か、数日は気絶してるだろう。
僕はシオンを抱き上げる。
「よく頑張ったな、シオン」
僕は全然頑張ってないから、頑張ったはシオンにあげる言葉だ。人は褒めてこそだよね。
「お~~~い!!」
赤いやつの声が聞こえる。キースだ。
鎧がところどころ焦げている。
「グレンちゃ~~ん!!」
「リーダぁぁぁ~~!!」
それぞれちゃんと生きていたようだ。
実際これ並行に射ってたら、仲間たちも横に逃げていたとは言え、広範囲過ぎて結構ヤバかったかもしれない。
上に向かって射ってよかった。
「みんな、無事だったんだね。よかった」
「お前~~またなんかやらかしたな~~?? この光景!」
「グレンちゃん、とんでもない音したよ? 鼓膜破れるかと思ったもん」
「リーダぁ。また犠牲者が出たんですね……」
俺が何かしたと思って、一同感想を言い合う。一人、シオンを犠牲者だと言う。死んでないよ?
「グレンちゃん。それはそれとして……これ、どうするの?」
黒竜の息吹で、森は火事になっていた。そして、風魔法を使った広範囲の攻撃。
大きく空気に触れた炎は、より一層拡大し……
モルフォレの森は広範囲で大火事になっていた。
このままでは、シオンの為に黒竜の一部を持って帰ることもできないどころか、生きて帰れない可能性もある。
恐らく黒竜の鱗はとんでもない高値がつくだろう。そして、卒業試験としてもとんでもない成果となるだろう。
でも生きて帰れなければ意味がない。どうしよう?
『ヒーリング・レインッッ!!!』
そんな声が少し遠くから聞こえた。
すると、パラッ、パラッと何かが降ってくる。次第にそれは増えていき、優しく、そして僕らの傷を癒やすように包み込む。
雨粒だ。
降ってきた雨は、黒竜の炎を浄化するように消していく。
「グレンちゃ~~~~~ん!!!!」
「グレン兄ぃ~~~~~!!!!」
二人分の声がどこか遠くから聞こえてきた。小さな足音は、次第に大きくなり、目の前までくる。
僕の妹のファラと姉のメィラだった。
ファラは魔術師で、メィラは僧侶だ。今の雨は癒やしの雨<ヒーリング・レイン>。
通常の雨に加え、回復効果が付与された僧侶の水魔法だ。
「メィラ姉! ファラ! 来てたの?」
「来てたのじゃないわよ~き・た・の!!」
プンプン顔で豊満な胸を両腕に乗せながらメィラが言う。
彼女は、母親似でブロンドの髪を長く胸まで伸ばしている。
「グレン兄ぃ! なんかギルドに行ったらマークさんが森に行ったっていうから、後から行ったんだぁ!」
天真爛漫な笑顔と豊満な胸を突き出し、僕に近寄って話すファラ。
彼女は、僕と同じ父親似で、黒髪ショートだ。
姉妹の共通点として言えることは、巨大な山脈を持っている、ということだ。
「そうなの? 王都にはいないって聞いてたからさ。でも助かったよ。焼き豚になるところだった」
「またまた~グレンちゃんったら、これだけの事をしておいて~」
「そうだよグレン兄ぃ! 私達の楽しみ奪っておいて~!」
木々に囲まれる森の、僕らがいる空間だけ、木の上部がぽっかりと空いていた。
それを見たメィラとファラが何かを察している。
このパーティーは強者相手にも逃げるという選択肢をしない戦闘狂が8割を締めている。
そして僕の姉妹は8割の方だ。
「とにかく今日は(精神的に)疲れちゃったから、もう帰るよ。みんなで、時空収納袋に黒竜の素材だけかき集めよう」
「「ええっ!? 黒竜!?」」
メィラとファラが同時に驚く。
「ほんっと、こっちは大変だったんだからぁ! ねぇリタ?」
「そ、そうなんですっ! キースさんもいきなり瞬光剣ぶっ放すし」
不満を漏らすルゥルーとリタ。いつもの仲間たちが戻ってきた。この感じが好きだ。
「あれは7つ星ランクだな。ものすごいでかかったし」
キースが言う。
今思えばキース一人でも、瞬光剣をちゃんと当てれていれば、あの時終わってたかもしれない。
仲間の実力の計り知れなさは、僕にもまだ把握しきれていない。
「それで? その子は? グレンちゃん。浮気かな?」
「何言ってるんだよメィラ姉。そもそも彼女いないし僕」
ジト目で見てくる姉。同じような視線を妹からも感じる。
「ちょっとね。説明は帰りに細かくするから。今回黒竜を倒したのだって、彼女なんだよ? 凄いよね」
「グ、グレンちゃん! それほんとに言ってる!?」
少し驚く姉。明らかに僕らより若い見た目。ハーフエルフであってもまだあどけなさが残る見た目だ。
と言ってもリタと1歳しか違わないんだけど。
「この子、学園の6年生で、ちょうど卒業試験があるんだって。たまたまカフェでその話聞いちゃってね。連れてきた」
「それ、答えになってな~~~い!」
姉が聞きたかったのは、なんでこんな子が黒竜を倒すことができたのかということだ。
細かい魔導具の説明は面倒くさい。今は精神的に疲れてるから、もう休みたい。
「まあまあ、とにかく今日は休ませてよ。ほら、みんな黒竜の素材集めて!はいっ!」
僕は手を叩いてみんなにお願いする。僕も散らばっている鱗とか拾い始める。
殆どがバラバラになってしまっていたが、黒竜の頭はぽっかりと残っていた。ラッキー♪
「お、お前ら。あの黒竜やっちまったのか……!?」
素材集めをしていると、途中、逃げていた冒険者達が戻ってくる。
一応被害はなさそうだ。この人達を助けるもの依頼の一つのようなものだったしね。
「あ、ああ。なんとかね。君たちも生きててよかったね」
みんな邪魔者を見るような目線で彼らを見るもんだから、僕が声をかける。
「お前ら、とんでもねえな。あれを倒すだなんて。さすがに驚いた」
「ちょっと~~アンタたち! 生きてるならもうどっか行って! 素材はあげないよ! グレン兄ぃの邪魔しないで!」
妹のファラが冷たく言い放つ。
「わ、わ~ったって! 追加の依頼かなんかで助けにきてくれたんだろ? 本当に助かった! って、グレン?」
「なに? グレン兄ぃになんか用?」
男の言葉にファラが言い返す。
「お、お前らのパーティー名って、何だ?」
「もう早くあっち行ってよ~! ライヴリー・グレイブだって!」
「えっ、はぁ? ま、マジかよっ!!! あのライグレ!?」
「だからそうだって言ってるの!」
「ってことは、、、グレンって。あの、死神グレンか!?」
やめてよ。ほんっと誰がつけたんだよその異名。その名前で僕が死にたいよ。
「お、お前まさか、その青髪の子……」
男は気絶しているシオンを見て言う。
「う、う、、うわあああああああ!!!!!!!」
殺してないよ! 気絶してるだけだよ!
何を勘違いしたのか、そのまま男はどこかへ逃げ去ってしまった。
「お、おい! どうした! リーダー行っちまったぞ!」
近くにいたその男のパーティーメンバーは何がなんだかわからず、リーダーと言われている人物を追ってその場から離れる。
「なんか中途半端にうちのパーティーのこと知ってるみたいだな」
キースがつぶやく。確かに名前だけ知っているという感じだった。
王都の冒険者ではないのかもしれない。他国から旅してきて王都で依頼を受けたとかそんな感じかもしれない。
ともかく、最後の賑わいが過ぎ去り、素材集めを終わらせる。
ーー僕らは帰路についた。
ルゥルーとリタは木を伝って、キースは炎をはらったばかりなのに、炎の中を無理やり突っ切って。
僕とシオンの射線からいなくなるよう、左右に避けてくれる。
次は黒竜だ。
僕は心臓をバクバクさせながら、メガホンを空へと向ける。
先程と同じように大きく息を吸い込み、そして黒竜に向かって、思いっきり吐き出す。
「お前のかーちゃん・・・でーーーべそ!!!!!」
メガホンで拡声された声。メガホンで黒竜の言語に変換された声。
『グゴォォォォォォォ!!!!!!!!』
尾を切断された時より激昂したようだ。
空に逃げて、空から攻撃する予定だったはずの黒竜は一直線に向かってくる。
背の高い木々を硬い鱗でなぎ倒しながら、そのまま突っ込んでくる。
「ほら、弓矢構えて! 風魔法準備!!!」
「えっ、えぇぇぇぇ!!! 今ですか!?」
しくった。心の準備って大切だよね。でもやるしかない状況ってあるよね。
シオンはガクブルの手で弓矢を構える。
そして、風魔法を発動し、シオンの弓矢の先端に風のような何かが集まってくる。
『ハリケーン・バースト』。風魔法では中級クラスの魔法だったはずだ。
それを弓矢の先端に纏わせ威力を上げる。
しかし。
「あ、あれ? あれあれあれぇっ!?!?」
予想していた以上に風が集まってくる。マジ暴風。
しかも風だけじゃなく、雷のようなものも発生し始め、弓矢の先端には小さな竜巻が凝縮されていた。
「こういうスカーフなんだよね。初めて使ったけど」
鑑定で中身はわかっていた。勝手に自分の魔力の全てを一撃に込め、さらには周囲の魔素を吸い取って、魔力に変換し増大させる。
シオンは魔力量が元から多いが、さらにそれ以上の魔力がどんどん集まってきていた。
ここは森だ。なんやかんや魔素が多い場所なんだろう。そういえばさっきサイクロプスも倒したし、その残りカスの魔素も吸い取ってるのかもしれない。魔素は、はっきりと見えるものじゃないからわからないけどね。
『ギュイィィィィィィィィィン!!!!!!!』
どんどん集まって来る魔力。それを支えるのに精一杯になってくるシオン。
「こ、これいつ放てばっ!?」
シオンも少し気を緩ませば手を離してしまいそうな勢いだ。
しかしその時。
『グガァァァァァァ!!!!!!!!!!!』
想像以上にとんでもないスピードで黒竜が目の前にいた。怒らせすぎたのかもしれない。
大きな口を開けて、僕たちを飲み込まんとしてくる。
あ、やべ。タイミング。ミスったかも。
「キャァァァァァァ!!!!」
そんな時、ハラリと白い何かが落ちる。
すると、落ちたそれは、僕達を包むかのように急激に広がる。
『パッッ!!!』
開いた白い何かは、僕たちの視界を潰し、遮る。
『バフンッ・・・!!!!!』
目の前まで迫っていた黒竜は、白いなにかに激突すると、ぶつかりながら、軌道をずらされて上空へ舞い上がる。
あ、これ。ハンカチじゃん。僕がカフェで涙を拭く用にシオンに渡したやつ。
あれ、実は魔導具だったんだよね。窮地になった時に所持者をオートガードしてくれるハンカチ。
しかも完全に破れるまで使えるって凄いよね。
「わたしっ、、、死んだ???」
シオンはそう言いながらも、まだ弓をちゃんと握り続けていた。
その先端も永遠にどこからか魔力を集め続けていた。
大きく広がったハンカチは、役目を終えるとまた小さなサイズに戻っていった。
「シオン! 上に向けるんだ!」
僕はシオンに言う。上空に飛んでいった黒竜は再び、一直線に僕らに向かって隕石が墜落するかのように突撃してくる。
「いけえぇぇぇっ!!! 今だあぁぁ!!!!!」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
あまりにも強い暴風に晒されながら、今やとんでもなく制御に苦しい弓矢を必死に上に構え、放つ。
『スッ・・・・・・!!』
放った瞬間、音はしなかった。風と雷を纏ったその美しいシュートは空をまっすぐに駆け巡り、いつの間にかどこかに消える。
『ギュ、、、、ギュリュリュリュリュリュリュリュ!!!!!!!!!』
数秒遅れて、この世のものとは思えない回転音を空に轟かせた。
『ブォンッッッ!!!!』
その瞬間、僕たちの上空で横に衝撃波が広がる。
森の木々の一帯上部を広範囲で一気に刈り取り、雲掛かっていた空はパッと霧散し、青く澄んだ晴れになった。
『パラッ……』
空から何かがパラパラと落ちてくる。
ーーバラバラになった黒龍だった。
『ズドンッ……』
さらに色々落ちてくる。
あの弓矢の衝撃で尻もちをついていた僕とシオン。
「えっ、私が……? あれを? あの巨大な黒竜を?」
「シオン。よくやった。君のおかげで僕は生き残れたよ」
もう脇汗だけではなく、全身からおびただしい汗が噴出していた僕。苦し紛れにシオンに感謝を告げる。
「うっ、、うっ、、、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
緊張から開放され、感情が決壊したシオンは、大声で泣き出した。
「ぎゅ、ぎゅりぇんしゃあああああああああん!!!!」
また、僕の名前をちゃんと呼べていない。
「うっ……」
シオンが突如、地面に倒れる。突然の死。南無阿弥陀仏・・・
じゃなくて、そういうスカーフなので。一気に魔力を使った影響か、数日は気絶してるだろう。
僕はシオンを抱き上げる。
「よく頑張ったな、シオン」
僕は全然頑張ってないから、頑張ったはシオンにあげる言葉だ。人は褒めてこそだよね。
「お~~~い!!」
赤いやつの声が聞こえる。キースだ。
鎧がところどころ焦げている。
「グレンちゃ~~ん!!」
「リーダぁぁぁ~~!!」
それぞれちゃんと生きていたようだ。
実際これ並行に射ってたら、仲間たちも横に逃げていたとは言え、広範囲過ぎて結構ヤバかったかもしれない。
上に向かって射ってよかった。
「みんな、無事だったんだね。よかった」
「お前~~またなんかやらかしたな~~?? この光景!」
「グレンちゃん、とんでもない音したよ? 鼓膜破れるかと思ったもん」
「リーダぁ。また犠牲者が出たんですね……」
俺が何かしたと思って、一同感想を言い合う。一人、シオンを犠牲者だと言う。死んでないよ?
「グレンちゃん。それはそれとして……これ、どうするの?」
黒竜の息吹で、森は火事になっていた。そして、風魔法を使った広範囲の攻撃。
大きく空気に触れた炎は、より一層拡大し……
モルフォレの森は広範囲で大火事になっていた。
このままでは、シオンの為に黒竜の一部を持って帰ることもできないどころか、生きて帰れない可能性もある。
恐らく黒竜の鱗はとんでもない高値がつくだろう。そして、卒業試験としてもとんでもない成果となるだろう。
でも生きて帰れなければ意味がない。どうしよう?
『ヒーリング・レインッッ!!!』
そんな声が少し遠くから聞こえた。
すると、パラッ、パラッと何かが降ってくる。次第にそれは増えていき、優しく、そして僕らの傷を癒やすように包み込む。
雨粒だ。
降ってきた雨は、黒竜の炎を浄化するように消していく。
「グレンちゃ~~~~~ん!!!!」
「グレン兄ぃ~~~~~!!!!」
二人分の声がどこか遠くから聞こえてきた。小さな足音は、次第に大きくなり、目の前までくる。
僕の妹のファラと姉のメィラだった。
ファラは魔術師で、メィラは僧侶だ。今の雨は癒やしの雨<ヒーリング・レイン>。
通常の雨に加え、回復効果が付与された僧侶の水魔法だ。
「メィラ姉! ファラ! 来てたの?」
「来てたのじゃないわよ~き・た・の!!」
プンプン顔で豊満な胸を両腕に乗せながらメィラが言う。
彼女は、母親似でブロンドの髪を長く胸まで伸ばしている。
「グレン兄ぃ! なんかギルドに行ったらマークさんが森に行ったっていうから、後から行ったんだぁ!」
天真爛漫な笑顔と豊満な胸を突き出し、僕に近寄って話すファラ。
彼女は、僕と同じ父親似で、黒髪ショートだ。
姉妹の共通点として言えることは、巨大な山脈を持っている、ということだ。
「そうなの? 王都にはいないって聞いてたからさ。でも助かったよ。焼き豚になるところだった」
「またまた~グレンちゃんったら、これだけの事をしておいて~」
「そうだよグレン兄ぃ! 私達の楽しみ奪っておいて~!」
木々に囲まれる森の、僕らがいる空間だけ、木の上部がぽっかりと空いていた。
それを見たメィラとファラが何かを察している。
このパーティーは強者相手にも逃げるという選択肢をしない戦闘狂が8割を締めている。
そして僕の姉妹は8割の方だ。
「とにかく今日は(精神的に)疲れちゃったから、もう帰るよ。みんなで、時空収納袋に黒竜の素材だけかき集めよう」
「「ええっ!? 黒竜!?」」
メィラとファラが同時に驚く。
「ほんっと、こっちは大変だったんだからぁ! ねぇリタ?」
「そ、そうなんですっ! キースさんもいきなり瞬光剣ぶっ放すし」
不満を漏らすルゥルーとリタ。いつもの仲間たちが戻ってきた。この感じが好きだ。
「あれは7つ星ランクだな。ものすごいでかかったし」
キースが言う。
今思えばキース一人でも、瞬光剣をちゃんと当てれていれば、あの時終わってたかもしれない。
仲間の実力の計り知れなさは、僕にもまだ把握しきれていない。
「それで? その子は? グレンちゃん。浮気かな?」
「何言ってるんだよメィラ姉。そもそも彼女いないし僕」
ジト目で見てくる姉。同じような視線を妹からも感じる。
「ちょっとね。説明は帰りに細かくするから。今回黒竜を倒したのだって、彼女なんだよ? 凄いよね」
「グ、グレンちゃん! それほんとに言ってる!?」
少し驚く姉。明らかに僕らより若い見た目。ハーフエルフであってもまだあどけなさが残る見た目だ。
と言ってもリタと1歳しか違わないんだけど。
「この子、学園の6年生で、ちょうど卒業試験があるんだって。たまたまカフェでその話聞いちゃってね。連れてきた」
「それ、答えになってな~~~い!」
姉が聞きたかったのは、なんでこんな子が黒竜を倒すことができたのかということだ。
細かい魔導具の説明は面倒くさい。今は精神的に疲れてるから、もう休みたい。
「まあまあ、とにかく今日は休ませてよ。ほら、みんな黒竜の素材集めて!はいっ!」
僕は手を叩いてみんなにお願いする。僕も散らばっている鱗とか拾い始める。
殆どがバラバラになってしまっていたが、黒竜の頭はぽっかりと残っていた。ラッキー♪
「お、お前ら。あの黒竜やっちまったのか……!?」
素材集めをしていると、途中、逃げていた冒険者達が戻ってくる。
一応被害はなさそうだ。この人達を助けるもの依頼の一つのようなものだったしね。
「あ、ああ。なんとかね。君たちも生きててよかったね」
みんな邪魔者を見るような目線で彼らを見るもんだから、僕が声をかける。
「お前ら、とんでもねえな。あれを倒すだなんて。さすがに驚いた」
「ちょっと~~アンタたち! 生きてるならもうどっか行って! 素材はあげないよ! グレン兄ぃの邪魔しないで!」
妹のファラが冷たく言い放つ。
「わ、わ~ったって! 追加の依頼かなんかで助けにきてくれたんだろ? 本当に助かった! って、グレン?」
「なに? グレン兄ぃになんか用?」
男の言葉にファラが言い返す。
「お、お前らのパーティー名って、何だ?」
「もう早くあっち行ってよ~! ライヴリー・グレイブだって!」
「えっ、はぁ? ま、マジかよっ!!! あのライグレ!?」
「だからそうだって言ってるの!」
「ってことは、、、グレンって。あの、死神グレンか!?」
やめてよ。ほんっと誰がつけたんだよその異名。その名前で僕が死にたいよ。
「お、お前まさか、その青髪の子……」
男は気絶しているシオンを見て言う。
「う、う、、うわあああああああ!!!!!!!」
殺してないよ! 気絶してるだけだよ!
何を勘違いしたのか、そのまま男はどこかへ逃げ去ってしまった。
「お、おい! どうした! リーダー行っちまったぞ!」
近くにいたその男のパーティーメンバーは何がなんだかわからず、リーダーと言われている人物を追ってその場から離れる。
「なんか中途半端にうちのパーティーのこと知ってるみたいだな」
キースがつぶやく。確かに名前だけ知っているという感じだった。
王都の冒険者ではないのかもしれない。他国から旅してきて王都で依頼を受けたとかそんな感じかもしれない。
ともかく、最後の賑わいが過ぎ去り、素材集めを終わらせる。
ーー僕らは帰路についた。
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