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6話 シオンが死んだ……?

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 ガタンガタンと馬車に揺られながら、僕達はゆっくりと王都までの帰路についていた。
 現在キースが御者をやってくれており、その他の6人は馬車の中だ。
 一人は気絶したままだが。

 移動を始めてから半日が経過している。現在はもう夜だ。
 そろそろ寝る準備をするところになる。

「じゃあ、そろそろご飯食べて寝ようか」

 僕がみんなに言う。

「やったぁ! 腹減ってたんだ~!」

「アンタ疲れること何にもしてないでしょ」

 妹のファラのつぶやきに、姉のメィラが指摘する。
 昼に森にきてくれた時も鱗集めしかしていないし、御者の役目もまだやっていない。
 だから疲れることはしていない。

「でも、お腹って時間が経てば空くもんでしょ?」

「確かにね。でも働かざるもの食うべからずってね!」

「じゃあ、グレン兄ぃにマッサージするーっ!!」

 仕事という仕事はないので、ファラは僕へのマッサージを仕事として考えたようだ。

「ちょっ! アンタそれ仕事じゃないでしょ!」

「知らないもーん!」

 僕の両肩は左右分かれて、姉と妹に揉まれた。

 その後、夕食を食べて、就寝時間になる。

 僕が一人で寝ようとした時、そこにメィラとファラがやってきて、両サイドを固める。
 この一人用のベッドで。

 姉妹は僕の方を向きながら、抱きしめるように寝る。
 ドでかい山脈に挟まれて押しつぶされそうになる。

「久々なんだがら、いいよね? グレン兄ぃ」

「そうそう。たまにはお姉ちゃんらしいことさせなさいね」

「……そうだね」

 可愛い姉妹を拒否することなんてできない。
 今日は精神的に疲れたおかげか、すぐに眠ることができた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 翌朝、4,5時間かけて馬車を動かし、やっと王都に戻ってくる。

「あぁ~~。やっと着いたぁ~!」

 僕は伸びをしながら、あくびをする。
 馬車って揺れるし、お尻痛いし、もうちょっと快適にしたいよね。
 ほかはいい道具揃ってるのに、移動だけは昔と変わらずだった。

 シオンはまだ気絶していた。
 キースに背負わせて、そのままギルドに報告へ向かう。

『バタンッ・・・』

 ギルドの大きな扉を開け放つと、こちらに視線が差さる。
 ここに来るのは久々だ。いつも報告とかは仲間に任せてるからね。
 今回は少人数で話を受けたし、しょうがないから、僕が報告しに行く。

「おいおい……なんかあいつ見たことないか?」

「ん? そうだな。特にあの少女背負ってる赤髪、どっかで……」

 そんな感じで、ギルド内にいた冒険者たちが僕らを見て何かぶつくさ言っていた。

 パーティーまとまってギルドに来ることはあまりないので、まだ王都ですら、僕らのことを知らない冒険者も多い。
 ギルドは他の国の冒険者もたくさんいるしね。

「マークさんいる~??」

 そのまま受付のところまで言って、マークさんを呼んでもらう。

「あっ、お久しぶりです! グレンさん。ちょっとお待ち下さいね!」

 僕の顔を覚えていた、僕と同じ黒髪、ボブヘアーでメガネをかけヘアバンドが特徴的な受付のマリアさん。
 マリアさんは、受付から出ると、横の階段を登っていき、ギルド長の執務室へ向かっていく。

 数分すると、マリアさんが戻ってくる。

「執務室でお話したいそうなので、上まで来てほしいそうです!」

「あっの、、、ハゲ親父……! 上まで私達を登らせる気?」

 ルゥルーからの心無い声が降りかかる。

「そうですよねー! ルゥルーさんっ! こっちは疲れてるっていうのに」

「アンタは疲れてないでしょ……」

 姉妹の漫才が繰り広げられたところで、その様子を見た僕が提案。

「まあまあ、僕一人で行って来るからさ。みんなクラン戻ってていいよ! キースはクランの客室のベッドにシオンを寝かせておいてよ!」

「へいへい~。じゃあ先戻ってるぜ~」

 キースが僕のお願いを聞いてくれるようだ。

「リーダぁ! 今日の夜は打ち上げしましょうね! 一応依頼達成したんですから!」

 リタはいつも依頼達成後には打ち上げを楽しみにしている陽キャだ。
 まぁ僕も仲間との打ち上げは嫌いじゃない。

「グレンちゃん、ごめんねぇ~!」

 ルゥルーが両手を重ねてお願いポーズで感謝する。

「じゃあ、あとは任せたから!」

 そう言って、僕は一人で階段を登っていく。
 執務室の部屋まで到着すると、コンコンとドアを鳴らして呼びかける。

「マークさん~? きたよ~」

「ああ、グレンか。入ってくれ」

 キィ~っとドアを開けると、2日振りに見た、大柄の褐色ハゲ。もといマークさん。

「座ってくれ」

 僕の執務室と同じように向かい合わせのソファの空いている方に誘導する。

「グレンさん、お疲れ様でした」

 ウインクをしながら、自然とお茶を用意してくれたフィーナさん。
 お茶をローテーブルの上に置く時に、ふわっと香る甘い匂いが、僕の鼻をくすぐる。

「早速だが、依頼お疲れ様だ」

「そうそう、ほんっと大変な目に遭ったよ~。サイクロプスだけだと思ったのに」

「あぁ、一足先に戻ってきたパーティーから話を少し話を聞いた。他のパーティーは全滅したと聞いている」

 そうなのか。じゃあ僕らが見たあのパーティーだけが生き残りだったわけだ。
 あの時点で既に……ってことか。

「ふむふむ」

「それで、出たらしいな。黒竜」

 褐色の禿頭からじとっと汗が滲み落ちる。

「ほんと、ヤバかったよ~。死ぬかと思った」

「まあ、お前がいるなら大丈夫だとは思ったが、黒竜の名前を聞いた時は、背筋が凍ったよ。しかも7つ星ランクだっていうじゃないか」

「僕たちなんて、竜の指サイズだったからね」

「それで、聞きたいのが、どうやって倒したんだ?」

 僕らは7つ星ランクのパーティーだ。しかしマークさんに依頼された時に出発したのは4人だ。
 パーティーの半分ほどのメンバー数で戦うには普通なら7つ星はヤバいと思っていたようだ。
 僕も同じ意見だ。

「僕から説明できるのは、キースが一発やってくれたのと、あとは青髪の学園の子がトドメを刺してくれたってことだよ」

「はっ!? 学園の子だと!? 正気か? そんなのがなんでいるんだ?」

 机越しに身を乗り出してマークさんが突っかかってくる。

「僕も驚いたね。メンバーとカフェで待ち合わせしてたら、なんか泣いててさ。声かけてみたら、その流れで依頼についてくることになってさ」

 そうそう。シオンの卒業試験の為に誘ったんだけど、まさか黒竜なんてね。酷いことしたよね。ごめんね。でも生きてるから許してね。

「ちょっと話の流れがまだ掴めないんだが……」

「その子が弓使いでね。魔力量が凄い多かったんだ。まぁそれだけじゃなかったんだけど、それでズドンッ! とね。そしたら黒竜がバラバラになった」

 マークさんは、まだ混乱している様子だ。これ黒竜倒したってこと嘘だと思ってる?
 しょうがないな~。

 俺は時空収納袋に手を突っ込んで黒竜の鱗を取り出す。

「ほら、これ証拠! 色々拾ってきたよ。あと頭部はそのまま残ったからね。後で裏の解体屋に持ってくよ」

「これは、、、オリハルコン級か? とてつもない硬度だぞこれ」

「そうなんだよ。最初キースの剣も全然通らなくてね」

「そういうことを聞きたいんじゃない。どうやって倒したんだ?」

 マークさんはしつこい。

「だから、弓の子が矢をズドンと射ったら終わったんだって!」

 まあ、魔導具の事はあんまり周囲に話したくないから、いつも省略するんだけど。

「はぁ……じゃあその弓の子の名前はなんて言うんだ?」

「シオンだよ」

「は? グレン、お前…… なんて?」

「シ・オ・ン! シオン・エッセン!」

 自分で名前を言っておいてなんだが、前々から聞いたことがあるような名前なんだよな。。

「お、お前ぇぇぇぇぇ!!!!!」

 突然、マークさんが机を叩いて立ち上がり、発狂した。。。脳梗塞なるよ?

「ど、どうしたのさ、いきなり立って……」

「ま、まさか、そのシオンは、もしかして、森で……」

 何を心配したのか、大体想像できる。相手は黒竜だからね。

「あぁ。彼女は黒竜を討伐したあと、倒れちゃってね……」

「きさまぁぁぁぁぁ!!!!!」

 マークさんは、そのまま俺の胸ぐらを掴んで殴ろうとする。

『バシャァァンッ!!!』

 何かに弾かれたようにマークさんの拳が跳ね返され、その衝撃のまま、後ろのソファに倒れ込む。
 僕が右腕につけている腕輪<防魔鈴>の効果だ。腕輪に装飾されている5つの宝石の数だけどんな攻撃からも守ってくれる効果がある。
 毎回魔力チャージしなければいけないのが面倒くさい。
 今回一度攻撃されたので、残機は4だ。宝石の一つから輝きが消える。

「マークさん! 急にどうしたんですか!?」

 呆然としていた僕より先にフィーナさんが聞いてくれる。

「うっ、、シオンは、シオンはなぁ……俺の娘だ」

 ソファに叩きつけられたマークさんは、体勢を戻しながらそう言った。

 状況が飲み込めない。あの、サラサラ青髪のシオンが? マークさんの?
 似てなさすぎる。しかもマークさんエルフじゃないし。
 ってことは奥さんがエルフなのか。

 あ、思い出した。マークさんのフルネームは、マーク・エッセンだった。
 だから聞き覚えがあったのか。

「あいつはな。俺とサラが昔に冒険者をやってたことを聞いて、冒険者になりたいって言って学園に行ったんだ…なのにっ、なのにっ、俺が知らないところで、こんなことってあるかよ……」

 ついには、自分の膝に拳を叩きつけて、涙を流し始めた。
 あれ? なんかおかしいぞ。なんで泣いてるの?

「え、えーと~マークさん?」

「おい、グレン。あいつの最後はどうだった? どんな顔してた? やりきった顔してたか?」

 僕は思い出す。シオンの最後の言葉。

『ぎゅ、ぎゅりぇんしゃあああああああああん!!!!』

「大声で泣いてたような……?」

「そ、そうか……泣いてたのか。亡骸はどうした? 持って帰ってきてくれたのか?」

 この人何言ってるんだ?

「……なんか勘違いしてるけど、、、シオンは死んでないよ?」

「・・・へ?」

 目が点になるとはこのことだ。しばらく静止する空間。
 怒りからの涙。そして安堵の表情。この数秒で色々な感情を見せる大変な人だ。

『ドサッ・・・』

 マークさんは、ソファの後ろにドサっと寄りかかり、右手を頭にかざす。

「そ、そうだったのか。良かった。良かった……」

「いや、倒れたとは言ったけど、死んだとは一度も言ってなかったからね?」

「このっ! 紛らわしいんだよグレンッ!! 最初からちゃんと言ってくれ!!」

 細かいこと言う前に発狂したのはそっちじゃん。
 防魔鈴のストックも減らされたし。僕、悪くないよね?

「さっきまでギルドの下まで連れてきてたよ。体は問題ないけど、今は気絶してるから、目覚めるまでうちのクランで寝かせようと思ってキース達に運ばせたよ」

「そうか、それは助かる。さっきは殴ろうとして悪かったな」

 いや、殴ってたじゃん。振り抜いてたじゃん。止まる気配なかったよ?

「どうする? 目覚めたら教えようか?」

「あ、いや。元気ならいい。冒険者になるなら、俺の助けは使わないって約束だったからな」

 それなら別に顔見せるくらいはいいじゃん。変に意固地になってない?

「……ちょっと待てよ。ってことは、俺の娘が黒竜を倒したってことか?」

 改めて質問してくる

「……そうなるね」

「一体どういうことなんだよ……」

 最初に話が戻る。

 冒険者学園6年生が、プロの冒険者になる前に7つ星ランクの黒竜を討伐する。
 ルーキーどころか学園イチのスターになれるくらいの偉業だ。

「まぁまぁ。それは起きた娘さんから、聞いてみなよ。僕から言えることはもうないね」

 じゃあねっ、とここから去るジェスチャーをして、僕はソファから立ち上がり、部屋を出ていく。

「おいっ、グレンちょっと待て。ほらっ」

 ドアの前までくると、呼ばれたので振り返る。すると手元に何かが投げ込まれたので、キャッチする。

「うおっ、、、てこれ魔導具?」

「そうだ。今回の依頼の報酬以外にもって話してただろ? あとは黒竜の件もある。計算後に報酬も追加して渡す」

 律儀に約束を果たしてくれたマークさん。

「マークさんありがと! それじゃあね! フィーナさんもまたっ!」

「グレンさんっ!!」

 去り際、また止められた。

『あ・と・ほ・う・しゅ・う』

 声を発さずに口だけ動かして言ってくる。それを汲み取って理解する。前報酬のキス。そして後報酬は何があるのかわからないが、デートすると決めていた。

「じゃ、じゃあっ! またフィーナさんに連絡するね! その時また話そうっ!!」

 僕は執務室の扉を出ると、その足でギルド裏にある解体場へ向かう。


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