包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜

藤白ぺるか

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93話 決断の結果

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 冬矢から衝撃的な決断を聞いた夜。

 俺は練習曲を何にしようか悩んでいた。

 するなら好きな曲が良いとは思っていた。
 ただ最初から難しい曲はどうだろうとも思っている。

「んん~。バルボッサ、STREETJON、マッシヴマウンテン、Mr.Olderen……」

 自分の好きなロックバンドの名前を挙げていく。

「――Mr.Olderenの名がない詩にしようかな」

『Mr.Olderen』とはどの世代でも知っているバンド。
 この曲は古い時代に生まれた曲だが、カラオケでもいつもランキング上位にある有名曲だ。

「よし、透柳さんに連絡してみよう」

 その後、透柳さんに連絡すると、家にタブ譜があるから次に来た時に渡すとのことだった。

 とりあえず、土日は家で自主練をして、月曜からまたしずはの家に行こうと考えた。
 その時に冬矢のことを透柳さんに相談しようと思った。



 ◇ ◇ ◇



 そして月曜日の放課後、俺はしずはの家に向かった。

「光柳くんおつかれ~」

 いつも通りにのんびり出迎えてくれた透柳さん。
 ギター部屋まで通されると、タブ譜を渡してくれた。

 ちなみにMr.Olderenの曲のタブ譜は一通りあるとのことだった。

 そして、相談したいことを先に話ししようと思った。

「すみません。しずはとも友達の冬矢という人がいるんですけど、実はベースをやりたいと言ってまして……」

 俺は透柳さんに経緯を話した。
 今までずっとサッカーをしていたけど重い怪我をしてしまったこと、俺がギターを始めると言ったことで、バンドを組もうと言ってきたことなどだ。

「いいじゃないか。光流くんも一緒にやれる子がいたほうが楽しいと思うぞ」

 透柳さん的には賛成とのことだった。
 俺的には、もうちょっと考えてほしかったのだが。

「夕花里のベースも多分余ってるだろ。OKもらえたらそれ貸してあげるよ」
「ええ!? 夕花里さんのですか!? ちょっと色々してもらえすぎというか……」

 何から何まで……。

 冬矢が聞いたら大喜びしそうだ。
 なんとなく喜ばせたくない。俺としてはもう少しサッカーを頑張ってほしいのだが、それは俺のエゴ。
 冬矢がちゃんと吹っ切れているなら、問題ない。

「中学生に楽器は高いだろ。高校生ならバイトとかできるだろうけど、中学生は基本的にバイトできないからな」
「そうですね、かなり助かります」

 うんうんと頷きながら、透柳さんは今日やることを話していく。

「今日はタブ譜の読み方を教えるね」

 そうして、透柳さんからタブ譜の読み方から、実際に弾いてもらったりして、練習方法を教えてもらった。

 まずは一曲全部弾けるようにして、最終的にはタブ譜を見ずとも弾けるようにならなくてはいけない。
 練習途中で透柳さんに聞きたいことがなければ、また二週間後の集合ということになった。




 ◇ ◇ ◇



 ――そして一週間後。

 俺は、再び冬矢が入院している病院に向かった。

 手術が終わりもうすぐ退院するが、病院にいるうちにもう一度確認したかった。
 
 受付で面会の申請を済ませて冬矢の病室に向かうと、そこには前よりも明らかに元気になっていた冬矢がいた。

「よおー光流! 元気してたか?」

 まだ足は痛々しく包帯が巻かれていたが、その表情は全くそれを感じさせないものだった。

「元気にはしてたけど、お前元気すぎだろ」
「そりゃそうだろ! 新しい目標ができたんだからな!」
「目標って?」

 これはつまり、そういうことだろう。

「中学最後の文化祭でバンドやることだよ!」
「やっぱり……」
「やっぱりってなんだよ!」

 一週間も時間を置いたが冬矢はそれを一時の迷いとは思わなかったようだ。
 完全にサッカーを辞めてバンドをするような考えだ。

「ほら、これやるよ」

 ぽんっと手元に何かが投げられたので、それをキャッチした。

「――絆創膏?」

 冬矢から投げられたのは一箱二十枚入りの絆創膏だった。

「光流明後日誕生日だろ? 俺からのプレゼントだ」

 一応覚えていたのか。
 特に今までは祝われなかったが、気持ちだけでも嬉しい。ただ、絆創膏か。

「ギターたくさんやったら指痛めるだろ? ほらお前の指、ちょっと怪我っぽいのしてるじゃん」

 これは透柳さんにも言われていた。ギター初心者は指が柔らかいために最初のうちは指が弦によって切れて血が出てしまうとか。
 俺は既にそのような現象になっていて、度々絆創膏をしていた。よく見てるなこいつと思った。

「まぁ……ありがと」
「今何練習してんだよ?」

 冬矢はバンドの話に興味津々のようだった。

「Mr.Olderenの名がない詩ってやつ」
「おおー! 超有名なやつじゃん! すげぇな。めっちゃ楽しそう」

 さすがに冬矢でも知っている有名曲。

「そんなことないぞ。練習は凄く地味なんだから」
「とか言って、前より楽しそうな顔してるぞ」

 そうなのか。俺楽しそうな顔してるのか。
 確かにギターをやり始めてから、結構のめり込んでいる。楽しいかもしれない。

「――本当にベース、やるの?」

 俺はもう一度問いただす。

「あぁ、やるよ。親にも話したからな。まぁ親的にはそっちの方が安全だからって意見だけど」

 親もサッカーで何度も足をいじめて、ボロボロになっていく子供を見たくはないか。
 応援する方も大変だな。

 今になってやっとわかってくる。
 俺がルーシーに腎臓をあげると言った時の両親や姉の心境。
 事故でボロボロになっている体にさらにメスを入れて臓器を一つ摘出するんだもんな。
 そんな相手が生きて帰ってきてくれただけで、そりゃあ嬉しくもなる。

 あれから家族皆がとことん優しくなったことにも頷けるというものだ。

「親にも承諾もらってるのか。なら、俺も反対する理由はないな……」
「だろ? だからさ、これからはよろしくなっ!」

 冬矢が右手の拳を俺に向けてくる。
 本気で決めたのなら、俺もこれ以上グチグチ言う必要はないか。

「わかったよ。じゃあ、これからよろしくな冬矢!」

 俺はいつぞやの時と同じく、冬矢の拳に自分の拳をコツンと当てた。

 俺はまだギターをやり始めたばかり、冬矢に至っては楽器すらまだ手にしていない。
 しかしこの日、俺達はバンドメンバーとなったのだ。


「一つ連絡事項がある」
「なんだ?」

 なんとなく冬矢を安易に喜ばせたくはないのだが。

「しずはのお父さんの透柳さんの話。しずはのお姉さんである夕花里さんからOKがもらえれば、ベースとか貸してもらえるって」
「はぁ!? マジかよ! 最高じゃねえか! 俺、お姉さんに教えてもらえるってことか!?」
「いや、そこまで言ってないよ。そもそもまだOKもらえてないし」

 と、そんな時だった。スマホがブルブルと震えた。

 ポケットから取り出して、メッセージを見てみると透柳さんからだった。

「ええと、夕花里さんからOKがもらえたらしい……」
「よっしゃあっ!!」
「ベースを借りることだけね!?」

 夕花里さんは今は二十六歳くらい。一方俺達は十四歳になる年。
 でも冬矢ならすぐに懐に入って仲良くなりそうなんだよな。
 そう言えば夕花里さんは彼氏とかいないんだろうか、結婚はしないんだろうか。

 いつもだらけたような姿しか見ていないからか、夕花里さんにはしっかり者の男性が似合うような気もするが。

「教えてもらえるかどうかはまた透柳さんに会った時に聞いておくよ」
「サンキューな!」
「あと、冬矢が退院して、歩けるようになったらしずはの家に行って、どのギター貸してもらえるか聞きにいこう」
「何から何まで悪いな!」
「いや、それは透柳さんに言ってくれ。俺があの人にそうしてもらってるんだから」

 冬矢は終始笑顔だった。
 病院というのはどこか暗い印象があるのだが、冬矢のようなヤツがいれば、場も明るくなるだろう。
 その影響はこの病室にも出ていて――、

「先週までサッカーで悩んでたガキがもうバンドか。若ぇもんは何でもできて羨ましい限りじゃな!」

 腰を痛めたおじいさんがまだ冬矢の向かいのベッドにいて、話しかけてきた。

「わりいかよジジイ。俺は青春を楽しむぜ」
「はっ! ワシもまだまだ現役で青春しとるわい! 来週にはサッカーの練習を再開じゃ!」

 先週は冬矢が一方的に口が悪かったが、今ではおじいさんも口が悪くなっていた。

「おいおい。腰がワリーくせによく言うぜ。いっつも看護師さんにデレデレしやがって。ばあさん悲しむぞ」
「目の前に可愛い子がいたら誰でもそうなるもんじゃ。お前さんもよく喋ってたじゃねぇか」

 ベッドを挟んでレベルの低い舌戦が繰り広げられる。
 俺はただ静観していた。

「そりゃ俺は若いからな。今のうちにできることをしてるんだ。そんなのどうでもいいから、昨日ばあさんが持ってきた和菓子俺にもくれよ」
「はんっ! ワシは甘いもんは食えねえってのに、ばあさんが無理やり持ってきて大変じゃ。食えんからくれてやる!」

 すると、和菓子の箱ごと冬矢のベッドの方に投げてきた。
 しかし、力が弱いのでそれが地面に向かって投げられた。俺はそれをギリギリでキャッチ。
 和菓子がぶちまけられるのを回避した。

「あー、君悪いね。良かったら食べてやってくれ」
「あ、はい……」

 俺はそれを拾うと冬矢に渡した。

 これは仲良くなっていると思って良いのかどうかわからないが、なんとなくこの二人は似ているような気がした。
 似た者同士というのは喧嘩はよくするらしいからな。


 今日は冬矢の今後が色々と決まってしまった。
 本当にバンドをすることになり、ベースも借りれることになった。
 
 一応冬矢の意見を尊重はしているが、俺はまだ心の奥で冬矢のサッカー熱がまだ残っているのではと思っていた。

 本気でしていたことを簡単に吹っ切れるわけがないのだ。
 いくら割り切ることがうまい人でも、絶対に心に残るはずだ。

 だから、友達として、親友として。
 冬矢の影を見落とさないようにしようと思った。


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