「脇役人生」の生活日記

わっしー

文字の大きさ
1 / 6

0.僕という存在

しおりを挟む
僕はゲームをする時、主人公が他にいるものを選ぶ。
例えば、TRPG(タクティクス・RPG)などでは自分の名前を主人公の方に入れずにあとで雇えるキャラ、メイキングキャラに自分の名前を入力してまるで主人公の仲間の一人のように物語を楽しむ。
そう、僕は主人公になりたいわけじゃない。主人公をどんな時でも最後に支える、メインキャラでも敵役でもないその他大勢になりたかった。僕はそんなスタンスで現実もやってきた。
僕の人生を簡単に説明しよう。
僕は中の上程度の家庭で次男として生まれてきた。小さい頃は一人で遊ぶことが多く人形を使って妄想の世界に浸っていた。それでも、時には友達と遊ぶこともありそれなりに上手く生きてきたと思う。小学校高学年になると妹が生まれた。その時はとてもうれしかったことを覚えている。中学に入ると兄がやっていた吹奏楽部に入部した。お世辞にもうまいというわけではなかったがそれでも、楽しくやっていけた。しかし、ここでは学校の成績が気になってきた。兄は5教科で150点前後取っていた(1教科50点満点)。しかし、僕は72点と低い数字だった。この頃から、僕は自分に自信が持てなくなっていた。結局僕が中学在学中でとれた成績は120点が最高だった。そんな中、兄は進学校に進みその中でもトップの成績を出していた。この時は初めて僕は自分が劣っている人間なのだと自覚した。
高校は僕にとっては居心地が良い場所だった。だって、自分と同じような成績の人しかいない。自分と同レベルの人間の中で、過ごしていく。僕は勉強が苦手だとわかったので部活を頑張った。下手は下手なりにでも中学で3年間やってきたこともありそれなりに上手く出来ていた。
そして、高校も卒業。成績は中の中程度だった。でも、学校のレベルとしては低かったので世間的に見れば下の中というところだろう。
高校卒業後の進路については親ともめた。僕は就職するのが嫌だったので大学に行きたかった。ちょうど私立だが指定校推薦をもらえた学校があった。なので、親に頼んだが、勉強が出来ない僕が行ったところでお金の無駄だと。高卒で働けと言われた。そして流されるままに父親の会社を受けたが結果は不合格。面接での対応がとても悪かったそうだ。それで諦めてくれたのか親は大学に通わせてくれることになった。
大学時代はほぼ資格試験と勉強の毎日だった。それからアルバイトに毎日精を出し休みなく働いた。そんな生活をしていたら2年生のクリスマスの時に過労で倒れた。その後はアルバイトの数を減らして勉強に精を出す。しかし、ここでも勉強の苦手な僕の悪いところが出てきた。普通の大学生は1・2年の時に大体の必修科目の単位を取っているところだが僕はアルバイトや資格試験に夢中で授業をサボったり寝ていたりとしていたため、単位を落としまくった。その結果4年生の頃は就活と並行して授業の単位を取ることとなる。しかし、人間ってやればできるもんで何とか卒業に必要な単位を修得した。そして、就職先もキャリア支援課の紹介で特別養護老人ホームに就職することが出来た。
しかし、就職後の僕を待っていたのは過酷な労働と孤独だった。仕事の憶えの悪い僕は上司にいつも怒られて、先輩にも怒られる毎日だった。同期はどんどん仕事を任されるようになったが僕はいつまでたっても新人のままだった。それを見た上司は僕を転属させた。その直後にまた、過労で倒れた。
しかし、僕はそこから頭を切り替えて仕事を頑張った。その姿を見て、先輩たちは徐々に僕を認めてくれるようになり仕事を任せてくれるようになった。人間関係もそれによってよくなって現在に至る。はっきり言って仕事は大変だけどそれなりに人生を楽しんでいたんだと自覚している。
さて、話を戻そう。
現実では兄が主人公だった。そして、僕はその後をついていく。継承者になりたいわけではない。僕は兄のように勉強が出来るわけでもない。妹のようにこれといった特技もない。なので、僕はそこで思い知らされるのだ。「ああ・・・。やっぱり僕は脇役なんだ・・・。」と。
「人は人生という名の舞台では等しく主人公だ。」と嘯く奴がいる。まあ、正解だろう。ある面においては・・・。
例えば、俳優や女優、社長などといった人はそう言う風に考えるだろう。ああいう職業は少なからず自分が特別だと思わないとまず目指さないものだ。それが例え、卵や一生芽吹かない種だとしても・・・。そういう人たちは自分を主人公だと思っている。だから頑張れる。自分のために自分を支える周りのために・・・。
では、僕はどうか?僕は人生という舞台にはやはり役が決まっていると思っている。そして、僕の役は脇役だと認識している。主人公の兄の弟。主人公の妹の兄。そして、その両方を引き立てるだけの存在が僕だ。
一時、考えたこともあった「僕は脇役じゃない。主人公になるんだ!」・・・と。
そのために兄が持っていない資格を取った。兄が途中でやめたものを続けた。兄とは違う選択肢を選んだ。僕はそうやって足掻いていった。
でも、結局は何もかも無駄だと悟ることになる。
主人公だと思っていた兄も妹も世間的に見れば脇役だったのだ。
じゃあ、その脇役である脇役の自分は?その時、思い知らされたのだ。「人は人生という名の舞台では等しく主人公だ。」しかし、他の誰かの人生では脇役なんだ。
しかし、それを跳ね除けるほどの魅力がない限りそれには気が付かない。そして、世間という名の舞台では配役はきまっている。その中で「私は主人公だ!」と言える人はどれほどいるのだろうか?きっと一握りの人間だ。
だから、人は代替案を考える。「人生という名の舞台の主人公になれないなら妄想の中でだけでも主人公の気分を味わおう。」と・・・。
それは、人それぞれだろう。ドラマのヒーロー、ヒロインに自分を投影させる者。物語の主人公を自分に置き換える者。ゲームの主人公の名前を自分の名前にする者。そうして、自分を守る人もいる。そして、「世間」という舞台では脇役だが「空想」の世界では皆、主人公になれる。これを考えた人はきっと僕と同じような考えを持っていると思う。そして、満たされる人も大勢いるだろう。
でも、中には満たされない人もいる。僕のように・・・。僕はその空想の中でも主人公の名前を変えない。主人公が決まっていなければ空想の主人公を作って自分は脇役になる。それも出来なければ、自分とは違う名前で参加する。そうして、自分というものは必ず、脇役と位置付けてきた。それでよいと思っていた。今でも思っている。そうやって死んでいくのだと確信した。
そして、僕は今日この日、この世界を去った・・・。享年25歳。事故死だった・・・。

「目が覚めたか?」
僕が目を開けるとそこには少女がいた。髪は銀髪のロングヘア。整った顔立ちをしている。
「貴様は覚えておるのか?貴様の最後を?」
僕は少し考える。あれは原付に乗っていた時のことだ、信号無視をしたトラックに衝突してトラックの下敷きになって・・・。
「理解できたようだな。喜べ、貴様は最後の最後で悲劇の主人公になったぞ。ほれ?」
そう尊大な言葉遣いをする少女は新聞を渡す。僕はその新聞に目を落とす。その日の一面には総理大臣の写真が大きく報じられた。どうやらスキャンダルがあったようだ。僕は印のついている部分を見る。小さい欄に僕の名前と事故があったことが記されていた。僕は笑ってしまった。最後の最後まで、「世間」では僕は脇役のようだ。その様子を見て何かを思ったのだろう。少女は僕に声を掛ける。
「そう悲観するでない。お前はお前という「コミュニティ」の中では悲劇の主人公だぞ。今、葬式を行われておるぞ。ほれ。」
そう言って少女は何もない空間から映像を見せる。そこには僕の葬式の様子が映し出されている。親、兄妹、従兄妹、祖母、叔母、職場の上司や同僚、幼稚園からの幼馴染(男)。こうしてみると、僕は意外と人脈があったんだな・・・。
「ほれ、お前は最後の最後で主役になった。よかったな。自分では諦めていた主役というものに最後には成れたのだから喜べ。」
それが、自分の死というのは笑える。悲劇の主人公?本当に笑える。僕はこんなものになりたかったわけではない。こんな最後になるくらいなら主人公になんかならなければ良かった!!
「ふむ・・・。不満か?しかし、お主はまだ幸せな方じゃぞ?中には最後まで脇役として最後を終える者もいる。中には舞台に上がる前に退場させられる者も居るのだぞ?」
それがどうした!僕はこんな、最後を望んでいたのではない!!脇役でもよかった!細々と少しの幸せと少しのお金があればよかった。別に長生きをしたかったわけじゃない。ただ天命があるのならそれに従って死にたかった!!こんな幕引きはあんまりだ!!!
「ふむ・・・。お主も存外我侭じゃのう・・・。」
そう言ってその女の子は何事かを考えていた。次の瞬間何かを思いついたよう両手を打つ。
「あい、分かった。なら、お主にチャンスをやろう。この世界にはお主を戻すことは残念ながら出来ぬ。「真理」たる我は何事にも平等でなくてはの。」
「真理」?この子は何を言っているんだ?それよりチャンスとは何だ?
「喜べ、人間。お前には選択肢を与えよう。3つの選択肢じゃ。一つは王道に生きる主人公。一つは覇道に生きる覇王。そして最後に平凡だがとある事情で大きな騒乱に巻き込まれる一般庶民。さあ、選ぶがいい。」
そう言って少女は僕に選択肢を突きつけた。王道の主人公?覇道に生きる覇王?平凡だがとある事情で騒乱に巻き込まれる一般庶民?どう違うんだ?どれも等しく面倒くさそうなものばかりではないか?
「ふむ・・・。不満か?しかし、我はこれでも寛大なのだよ。本来なら、選択肢の有無を与えずにその「人生」に放り込むところを、選ばせてやっとるんだ。ほれ、さっさと選ばぬか?」
そうは言っても内容がわからないんじゃ・・・。概要くらい教えてくれないか?
「仕方ないの・・・。じゃあ、一回だけ大まかに説明してやる。」
そう言って少女は説明を始める。
「まずは、王道に生きる主人公。この「人生」ではとある農村で強大な魔力を宿した英雄が誕生する。そして、将来は覇王と世界を掛けて戦う。といったところかの?勝敗は言わぬぞ。そんなことしたら面白くないからの。」
少女の説明は続く。
「次に、覇道に生きる覇王。この「人生」はある王族に生まれた王女だ。その王女は武芸に秀でて強力なカリスマを持っている。そして将来は王道に生きる主人公と戦うことになる。」
つまりは、同じ世界。同じ世界軸に存在する者ということか?
「ほう。それくらい理解できる頭があるのか?」
ほっとけ!
「最後に、平凡だがとある事情で大きな騒乱に巻き込まれる一般庶民。ふむ、字数的には他の二つよりも多いの?」
そんなことはいいから説明をしてくれ!
「わかった、わかった。この「人生」ではとある農村で生まれたごく平凡なごく普通の村人じゃ。だが、あらゆるトラブルに巻き込まれる。しかし、この人生では前世の記憶が引き継がれる。そうじゃのう・・・。名前やお前が経験した物事については持ち越し不可だが経験は知識となってお主に引き継がれる。」
どれも、面倒くさい人生じゃないか!!なんなんだよ。このラインナップは!!
「お主は自分の最後に不満があるのじゃろ?我がわざわざ忙しい時間を割いて考えてやった「人生」なのじゃ。少しは我を楽しませてもらわないと面白くない。」
ふざけるな!僕はお前を楽しませるための道具じゃない!!
「はあ・・・。本当に我侭な人間じゃのう・・・。しかし、「真理」である我が下した結果じゃ。甘んじて受けるがよい。」
・・・変更は無理なのか?
「無理じゃ。ほれ、さっさと選べ。我は忙しいのじゃ。」
僕はため息を吐く。どの人生を選んでも面倒くさそうだ。しかも、その内の二択はとても「脇役人生」を生きてきた僕には荷が重そうだ。
なあ、3番目の選択肢を選ぶとどんな感じなんだ?
「それは、お主次第じゃな。お主が知識として受け継いだ記憶がその世界で役に立てばもしかしたら1番目と2番目より面白いことになるやもしれぬ。」
・・・わかった。僕は3番目の選択肢を選ぶよ。
「ほう、理由を聞かせてみよ?」
理由は、僕には1番目も2番目も荷が重すぎる。「脇役人生」を生きてきたからな。それなら、もしかしたら平凡な人生を送れるかもしれない3番目の人生を選ぶ。
「何故じゃ?お主は「主役」になりたくはないのか?」
ああ「主役」もいいかもしれない。でも、僕は「脇役人生」も意外と気に入っているんだ。
「ほう?なら、「脇役人生」を謳歌するがいい人間。」
ああ。じゃあ、手続きを頼む。
「うむ。心得た。では、その門をくぐるがいい。」
そう言って少女は一番右端の扉を指さす。僕はそこに向かって歩き出した。そして、門が開き僕は進む。新たな「人生」を歩む・・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...