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7話 破魔魔法

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7話 破魔魔法
城に帰ってすぐに美沙姉さんを呼んでもらう。すると、すぐに美沙姉さんが現れた。
「正真が私を呼ぶなんて珍しいわね。」
そう言う美沙姉さんはとても眠そうだ。美沙姉さんはこの世界に来てからいつも研究室に籠っている。
この世界の魔法について強い関心を抱きその研究に没頭しているようだ。
「忙しいところゴメン。でも、彼を診て欲しいんだ。」
そう言って僕は背中に担いだ少年を見せる。すると、美沙姉さんの目の色が変わる。
「・・・わかったわ。城の医務室に運んで。」
そして、僕たちは城の医務室に向かった。
医務室に着くと彼をベッドに寝かせる。
「酷い怪我ね・・・。どうしてこんなことに?」
「それは・・・。」
僕は事の経緯を説明する。すると、美沙姉さんは苦い顔をする。
「そう・・・。話には聞いていたけれどそこまで酷いのね・・・。」
そして、美沙姉さんは少年の腹部を見る。
「傷は治せるのだけどこの奴隷紋というのは私にはどうしようも出来ないわ。」
「えっ!?」
「どうして?美沙は回復魔法が得意なんでしょ?」
美香姉さんが美沙姉さんに言うと美沙姉さんは首を振る。
「確かに水魔法の適性で傷を癒す魔法には高い適性があるわ。でも、解呪などはどちらかというと「聖魔法」の分野になるわ。」
聖魔法とは回復に特化した魔法で回復・解呪の魔法を得意とする。その適性を持つ者はほとんどいないという。
「それに、この奴隷紋は呪いとはまた違ったものだから解呪は無理。」
「じゃあ、どうしたら・・・。」
僕は少年を見る。その顔はとても苦しそうだ。
「方法がないわけではない。」
美沙姉さんが僕の方を向く。
「正真の魔法、破魔を使うの。」
「僕の魔法を?」
「ええ。文献で見た限り破魔魔法は全ての魔法の無効化が出来る。なら、魔法によって付与された奴隷紋も・・・。」
「無効化が可能ってことか・・・。」
美沙姉さんが頷く。
「私は反対よ。」
しかし、美香姉さんが首を振る。
「そんなことをすれば正真の力が知られる危険性があるわ。それは、正真に危険が及ぶということ・・・。」
「でも、彼に秘密にしてもらえば・・・。」
「駄目よ。この秘密は絶対にバレてはいけないもの。だから、非情だと言われても彼を助けることには反対よ。」
美香姉さんは僕の肩に手を置く。
「私だって彼を助けたい。でも、それによって正真が危険に晒されるのは嫌なの・・・。」
「美香姉さん・・・。」
そんな美香姉さんの手に自分の手を重ねる。
「それでも、僕は助けられる命があるのなら助けたい。」
「正真・・・。」
「ここで、何もしなければ僕が彼を殺したも同然だ。そんなことをすれば僕はいつまでも後悔することになる。」
そして、彼に近づく。
「無能を演じるのにはやぶさかではないけど本当に無能になるつもりはないよ。」
深呼吸を繰り返し僕は意識を集中させる。
(一度も発動したことはない・・・。でも、ここで成功しなければ彼を助けることは出来ない・・・。)
僕は込み上げる力を手にするイメージをする。
(集まれ・・・本当に力があるのなら答えろ・・・。)
すると、右手にぬくもりを感じた。目を開けると銀に輝く球体が僕の右手から浮かんでいる。
「正真、それを彼に・・・。」
美沙姉さんの言う通りにその球体を彼に近づけた。すると、その銀の球体は彼を包み込む。すると、奴隷紋は薄くなっていき最後には綺麗に消えた。
「・・・成功ね。お疲れ様、正真。」
そう言って美沙姉さんは僕の頭を撫でる。
「ありが・・とう・・・?」
次の瞬間目の前が暗くなり僕はそのまま倒れてしまう。

「正真!?」
私は正真の身体を受け止める。美沙もすぐに正真の様子を確認する。
「・・・大丈夫。初めての魔法で魔力を全部使って意識を失っただけみたい・・・。」
その言葉に安心する。
「・・・本当に無茶をするんだから。」
正真の頬を撫でる。困っている人がいると損得を考えずに助けようとする優しい弟。
「だから心配なのよね・・・。」
たぶん近いうちに戦争が起こる。例え、勇者の力があると言っても厳しい戦いになるだろう。その時、このやさしい弟が黙ってみているはずはない。
例え、その先の未来が悲惨なことになっても弟は私たちを助けるだろう。
「私たちがしっかりしないとね・・・。」
「そうね。」
美沙も頷く。
「じゃあ、私は彼の治療をするから美香姉さんは正真をお願い。」
「わかったわ。」
私は正真をおんぶする。正真は男の子のわりにあまり大きくない。
「お姉ちゃんが守ってあげるからね・・・。」
そして、私は部屋を出るのだった。
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