クズはウイスキーで火の鳥になった。

ねおきてる

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教祖様と太陽

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今から18年前、まだ俺が5歳の時。


じいちゃんと親父は縁を切った。


理由はじいちゃんの女遊び。


俺も小さい頃は知らんかったが俺が生まれる前ばあちゃんが死んでから、じいちゃんは途端にプレイボーイになったらしい。


ある日は編み物上手なトメさん
ゲートボール好きのスポーティなヨネさんに
ちょっと色っぽいウメ子さん。


大勢のガールフレンドと逢瀬を重ね一緒に住んどる息子夫婦の家に朝帰りなんて事は、しょっちゅうやったらしい。


それでも俺の親父は目をつぶり、じいちゃんの女遊びを黙認した。


が、運命の日は訪れる。


じいちゃんが、お袋に手を出そうとした。


幸い親父の帰宅により色々未遂で終わったそうだが、もう親子なんてあったもんやない。


実の親に嫁を寝取られ、あえなく離婚。


当たり前の展開で絶縁にまで至ったという。


そんな破天荒なじいちゃんやから、ある程度は覚悟もしたけれど教祖なんて予想外の言葉どうすればいいかわからない。



「その宗派って何や?脱一人っ子政策とか?」
 


朦朧とぼやく俺に、これです、と鶴子はスマホを差し出した。


安っぽい背景に「朝日教」と黄色の文字がでかでかと踊る。


「輝く明日、煌めく明後日!」


まるで中身のないスローガン。


ある意味情報が多すぎて頭を空っぽにしながらスクロールすると一枚の写真で指が止まった。


満面の笑みの老人。


その隣には家族やろうか、すごい美人の女の人と中学生くらいの女の子。


どう見ても幸せそうな家族写真。


けれど真ん中の老人は紛れもない、じいちゃんやった。



「朝日教っていうんですよ。」
 

微動だにしない俺を怪訝な表情で見て鶴子は言った。


「どんな悲しみ、苦しみも朝日に始まり朝日に終わる。そんな朝日を神とまつり・・・。」


「ごめん、鶴子ちゃん、もうええわ。」


 流れる説明を思わず止める。


写真の右端の女の子。


翼のようなまつ毛、涼しげな眼。


ふと顔を上げて確信に変わった。


やっぱりそうや。


吸い込まれそうな目でこっちを見つめる女の子、どう見ても鶴子に間違いなかった。


「で、なんやっけ。なんで俺の所に来たん?」


「え、ああ・・・。それが・・・。」


 さっきと違う空気を察して、鶴子はしどろもどろで話す。


「父・・・いえ、おじいさまの葬儀のミサが明後日にあるのですが・・・。」


「で、何?香典でも渡せばええんかな?」


「いえ・・・あの・・・。」


 翻すような返答に、目を泳がせ困ってる。


自分の身勝手さは分かる。


この子は何も悪くない。


じいちゃんと生き別れて十数年、時の進み方を一人認められんだけや。


鶴子は机の木目を2.3往復、目でたどって意を決したように、こっちを見た。そして、ゆっくり口を開く。


「父の葬儀に出席してほしいんです。」


「今さら他人に来られても、じいちゃん嬉しないと思うで。不愉快で生き返るわ。」


「そんな事ありません!」


 急に出た大きな声に店中が振り返る。


鉄仮面を貫くこの子に、どこにそんなパワーがあったか。


内心ビビりはしたけれど顔には出さんようにして、じっと鶴子を見つめ返す。


「うちは初めから仮面家族です。失礼ですが母が結婚した理由も本当は財産目当てですよ。父と知り合った時からずっと狙っていて金には困らないって私にはずっと言ってたんです。」


 ひび割れた三個の卵を今さら隠すようにして皿に戻して鶴子は続ける。


「血もつながらない人間より、家族に来てもらった方が父もきっと喜びます。それに・・・。」


「自分が壊した家に今さら家族面する気かよ。」


 ハッとして顔を上げる。


俺が口をついて出た言葉に鶴子は驚いたような顔をしていた。


不意に卵が一つ転がった。


どこが正面かわからんけれど無機質な表面が何だか顔を覗き込んどる気がした。


もう無理や。


財布と法被を手に立ち上がる。


「嬢ちゃん、俺もう出るから金払っとくわ。香典にしちゃ少ないけど持ち合わせあらへんから三千円渡しとくな。」


「え、あの、」


「今日東京まで帰るんやっけ、気いつけて。」


 追い付かれんよう会計を手早くすまして外に出る。


いつの間にか西日が射して夕方になっていた。


喫茶店で纏った冷気さえ湧き上がる熱に負けてじりじり汗がにじみだす。


これやから夏は嫌なんや。


夜も近いはずなのに沈みかけの太陽が呆けた頭を煮立たせる。


その時グラグラ歩く俺の背後で出鱈目に誰かが走ってくる音がした。


足の向くまま細い路地にひょいと入って身を潜める。


パタパタと音が近づいて路地の近くで立ち止まった。


案の定、鶴子やった。


喫茶店からすぐに出て俺を追いかけたんやろう。


鉄仮面の奥でもわかる驚きと焦りが混ざった表情で辺りを見回してそのまま真っすぐ走っていった。


路地から顔をのぞかせる。


鶴子は太陽が沈む方へと疑うことなく走っていった。


これでよかったんや。


遠ざかる背中を見つめながら俺はそう言い聞かせた。

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