死女神キルコの推しごと

鈴奈(SSS+)

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14話 映画の後でお仕事

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 放心しながら劇場を出る。

 よすぎた…………。

 幸せ。幸せの極み。
 ああ…………。
 緋王様こそ私の幸せ……。
 緋王様を推していてよかった……。
 まさかこんな近い距離で、こちらを見てくださる日がくるなんて……。
 我が2000年の人生で、今日が最高に幸せな日かもしれない……。

 あぁ、おなかいっぱい……。
 酒も何もとらなくていい。この幸せな気持ちのまま眠りたい。
 だが、そうもいかないのが私の仕事のつらいところだ。
 
 ビル風に吹かれながら、人の多い光の街を、皇に導かれるままゆらゆらと歩く。
「このまま死んでしまいたい……」と呟くと、皇が私の顔を覗き込んだ。

「キルコさんの幸福度はとても高いように見えますが」

 うん、目の前に好きな顔もあるし幸福度は最高だ。

「だからこそ死にたいのです。最高に幸せな瞬間に死んでしまえば、その幸せは永遠のものになりますから」

 皇は、ほぅ、と息をついた。
 
 到着したのは和風のカフェだった。
 半個室のような空間に入る。座ると、一気に脱力した。
 皇が開いたメニューをちらりと覗くと、茶のメニューが多いようだった。ちょっとした食事もデザートもある。
 皇は茶蕎麦を、私は抹茶のミニパフェを頼んだ。

「今日はありがとうございました。はじめて映画をみました」

「はじめて?」

「はい。あまり興味がなく」

「それはもったいないです! 緋王様の出ている映画のDVD、今度貸すので観てください! 緋王様、すごかったでしょう? 登壇した時と演技の時の差……! 同じ人なのに、違う人のようで! 表情一つ、息づかい一つで感情を表現して……まさにプロです!」

「すみません、そこまで注目していませんでした。キルコさんを見ることを優先していて」

「もったいない! 今回の映画もDVDになったら手に入れるので、貸したら観てください!」

「分かりました」

 皇の前に、蕎麦が運ばれてきた。
 おお……これが、ジャパニーズ・蕎麦……。
 緋王様が長野県に行った時に食べていたものだ。あの時の蕎麦と違って緑色なのは、茶が練り込まれているかららしい。

「食べてみますか?」

 皇が箸とつゆを差し出してきた。
 3本ほど箸で取り、持ち上げる。たしか、つゆにつけて、すするのだ。
 しゅるっと口の中に入れると、ふわっと茶の香りと、違う香ばしさが口の中に広がった。つるつるで噛みごたえもいい。つゆのしょっぱさもちょうどいい。
 もう少し……と箸を伸ばすと、皇が店員につゆが入ったカップをもう一つ頼んでいた。

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