溶け合った先に

永江寧々

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衝撃~執事side~

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「私……覚えてない……」
「当然だと思います」
「嘘よ……そんなのあなたの作り話でしょ……」
「……いえ、事実でございます」

彼女がそう言うのも当然だ。父親が居なくなったその後の記憶がないのだからそう言うしかない。
愛する父親が自分にも母親にも嘘をついてとんでもないことをしていた事実など誰が信じようか。

「お父様が私をそんな目に遭わせるはずがないじゃない……。ましてや伯父さまも加担してたなんて……ありえないっ」
「……事実でございます」
「私は……私は美しくなんてない! 周りが勝手に言ってるだけよ! 私は自分の顔なんか大嫌い! 永遠なんて欲しくない! 一人ぼっちになるのはもう嫌なのに……!」
「お嬢様!」

慕っていた伯父さえも共犯だと知った事実に彼女の顔が一層青くなった。大袈裟なぐらい震え始めたと思えばテーブルに並んだ食器の上に数時間前に食べた物を吐き出した。
慌てて駆けよれば「信じない」と吐き出される弱弱しい声。何の返事も出来なかった。
彼女が信じようが信じまいが事実は変えられない。

「少し休む……」
「お嬢様⁉」

テーブルに手をついて立ち上がった直後、彼女は意識を手放した。
ショックが大きかったのだろう。当然だ。

「……ハッ……」

こんな時でさえ彼女が私の腕の中にいることに感じる優越感はあの日、あの場所で彼女に出会った時のことを思い出してしまうから。
何の感情も持たない彼女と出会い、何の感情も持たない彼女と別れた。だが、その間に彼女と一度だけ目が合った。笑いも驚きも哀しみも怒りもなかったが、それでも確かにあの時ちゃんと目が合った。
そしてまた彼女と出会った。笑ったり驚いたり悲しんだり怒ったりする彼女と。
研究者と被験者ではなく、主と執事という立場で今ここに居るのだ。
彼女に触れ、抱きしめることができる今、この瞬間に表現し難い高揚を感じて、あの日感じた興奮と同じ感情をまだ持ち続けていることに自嘲した。

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