40 / 80
キスの意味2
「知ってるかい? 香水は裾に吹きかけるのもいいらしいよ」
「え? あ、あの──!」
そっと足を持ち上げられ、手首にかけたようにシュッと裾に一吹きされる。良い香りが鼻をくすぐり、好きな香りだと思うが、今はそれどころではない。
アーサーが足に触れている。アーサーの膝に靴が乗っている。アーサーのズボンが汚れてしまう。早く足を下ろさなければと思うのに、足に触れるアーサーの手が熱くて、動けなくなってしまう。
まるでマリーの身体がその熱を求めているかのように。
「細い足だね」
「アーサー、様……」
心臓が速く動きすぎてマリーの口からは吐息交じりの声が漏れる。それがまたアーサーの暴走を加速させてしまうスイッチとなった。
ドレスの裾を捲り、触れていた白い脚が露になったことでアーサーも軽く吐息を漏らす。
「脛にキスする意味は──知らないだろうね」
知らないけど、キスしないでほしいと目で訴える。心臓がもたないと手で押さえるが、拒絶はしない。
期待しているのかもしれない。あのアーサー・アーチボルトが脚にキスをする姿を見てみたいと思っているのかもしれない。
令嬢の脚を見ることができるのは婚約者か遊び人だけ。遊び人が見られるのもその令嬢が緩くなければ見ることはできない。婚約者だったネイトさえ見たことはないだろうと思うとアーサーはこの脚が愛おしく感じてたまらなくなる。
「脛へのキスは相手への服従を意味するんだ」
「ふく、じゅう……なんて……」
服従してほしいなど望んだことはない。アーサー・アーチボルトが十七歳の少女に服従を誓って脛にキスをするなどあってはならないことだ。
二人きりの部屋でする行為。意味を教えるためにやっているだけだとわかっているのにマリーは今にも泣きだしそうだった。緊張と羞恥が一斉に襲いかかってくる経験がないだけにどうすればいいのかわからなくなっている。
脚を見られただけではなく、その大きな手に触れられ、キスまでされている異常な光景に頭が沸騰しそうだと思いながらも目が離せない。
おかしくなりそうだった。
「足の甲は脛にするより強い服従を表し、足の指は崇拝心を表している」
そんなマリーの心境などおかまいなしに脛から足の甲、足の指へと唇を下ろしていくアーサーは足の指に少し長めに口付けたあと、ゆっくり顔を上げてマリーを見つめた。
「意味は、自分にはもったいないぐらい素晴らしい人」
それは自分の台詞だと言いたいのに言葉が出てこない。顔は今までにないほど真っ赤になっており、言葉の代わりに涙が溢れる。
恥ずかしさが限界を超えたマリーは対処法がわからず、涙となって爆発した。その涙の意味が悲しみや拒絶ではないと理解しているアーサーは足をそっと下ろしてからソファーに肩膝を立ててマリーに迫る。
「マリー、君は私にはもったいないぐらい素晴らしい人だよ」
自分の血筋を残すために若い娘を嫁にして子を産ませる貴族は少なくない。しかし、少なくないといえど驚かれないわけではないし、陰口を叩かれないわけでもない。
それでも、そんなことはどうだっていいと思えるほどアーサーはマリーを愛している。今すぐ、この場で全てを手に入れたいと思ってしまうほど、心も身体も彼女を求めていた。
「好きだよ、マリー」
影を落とす相手が近くにいる。立って抱き合うときと変わらないはずなのに、自分の上にいるというだけでどうしてこんなにもおかしくなりそうなのかマリーは自分の感情が理解できなかった。
ボロボロと溢れる涙を唇で拭ってくれる相手にドキドキして、おかしくなりそうで、たまらずマリーは両手を伸ばしてアーサーの首にしがみついた。
「マリー?」
「私も大好きです」
蚊の鳴くような声だったが、アーサーにはちゃんと聞こえた。
まだ早い。まだ手を出すわけにはいかない。半年──あと半年我慢すればマリーの全てが手に入る。それまで我慢するぐらいなんでもないはずだと自分に言い聞かせてマリーの背に腕を回し、自分が起き上がるのに合わせてマリーも起き上がらせた。
「こ、これ以上は……」
「これ以上はしないよ。今はね」
〝今は〟を囁き声で伝えるとマリーの身体がビクッと大きく跳ねる。
自分に寄ってくる飢えた令嬢たちとは違う。
男慣れして身体を開いてくる令嬢とも違う。
たっぷりの愛情の中で大切に育てられてきたマリーはちゃんと思いやりの心を持っている。
ワガママを言えば両親が叶えてくれる家庭とは違う。暴れても使用人が宥めてくれる環境はない。自分のことは自分で、という貴族にはありえない環境下で育ってきた。今時の令嬢らしくないところもあるが、それが逆にアーサーを惹きつける理由でもある。
性知識もほとんど持っていないだろう相手になんの説明もしないまま進めるつもりはない。結婚前に事に及ぶつもりもない。
怖がらせたくないのだ。だが、意識はしていてほしい。
(子供はどっちだろうな)
自嘲してしまうほど貪欲な自分の全てを見せてもマリーは受け入れてくれるだろうか。それが彼の中の不安ではあった。
マリーが祖父母ではなく両親に育てられていれば、今時の令嬢になっていたのかもしれない。どこからともなく流れてくる話で性知識を得て、軽はずみに色々な経験をしてしまうという令嬢に。
一昔前、それこそカサンドラが若い頃は身体だけではなく心まで無垢でなければならない決まりがあった。親は溺愛ではなく厳格でなければならなかった。今はそれが変わって、親は溺愛主義となって子を甘やかし、娘が純潔を散らしているのを知っていても嘘をついて嫁に行かせる。
その点、マリーは身体も心も無垢そのもので、アーサーにとって眩しいほどの存在だ。
それが余計にアーサーに想像させてしまう。
「ハンネスから許可が出たらピアスが輝く耳にキスしてもいいかい?」
「も、もうその話はお許しください」
細菌が入っては困るからと触れることさえ禁止されているのではキスなど話題にさえするべきではないとお説教されるのは目に見えているため、触っていいと許可を得たらキスもいいか聞いてみようと考えて問いかけたのだが、頭がパンクしてしまいそうなマリーは耳にキスなど考えられない行為だった。
耳に触れられただけで全身が震える感覚があったのに、あの柔らかな唇が触れれば自分はどうなってしまうのか、想像するだけでもおかしくなりそうだとかぶりを振って懇願する。
「ふふっ、ダメかい?」
「その聞き方は意地悪です」
「あえてだよ。許可が出たときにすぐしたいからね」
くっついているマリーの身体が熱い。意地悪をしているのはわかっている。それでも意地悪してしまう。愛おしくてたまらないから。
「マリー、今日は一緒に寝ようか?」
「嫌です」
「えっ!?」
まさかの即答にマヌケな声を出すアーサーは予想外の返答にショックを受けたような顔をする。
「わ、私と寝るのは嫌……かい?」
なんとか絞りだした声で問いかけるとマリーはそうじゃないとかぶりを振る。
「こうしているだけでもおかしいくらいドキドキしているのに、一緒に寝るなんて……ドキドキしすぎてきっと眠れないと思うんです。だから……一緒には寝ません」
マリーの身体を強く抱きしめながらアーサーは強く目を閉じる。
(明日、目が覚めたら結婚式当日になってたりしないだろうか……)
結婚式まで、あと何回我慢することになるのだろう。我慢し続けると誓ったのだから我慢はするつもりだが、辛いものは辛い。
汚したくない。一生この清らかなままいてほしい。でも汚したい。哀れなほど左右する感情が爆発する前に結婚させてくれと祈り始めた。
「じゃあ、別々に寝ようか。明日は君が泊まる最後の日だし、一緒に寝たいな」
「は、はい」
困らせているとわかっている。こんなことは初夜まで望むべきではない。結婚すればいくらでも一緒に寝られるのだから、今こうして欲張って困らせる必要などないのに、欲張ってしまう。
「送るよ」
背中から足へと腕をズラしてお姫様抱っこへと変え、そのまま立ち上がるとマリーを部屋まで運んでいく。
マリーは相変わらずしがみついたままで顔を見せてはくれないが、マリーの真っ赤な耳を見れば不謹慎にも嬉しくなってしまう。
「マリー、着いたよ」
「ありがとうございまっ……!」
「っと……中まで運んだほうがいいかい?」
ドアの前でマリーを下ろすと一瞬、膝がカクッと折れて崩れ落ちそうになったのを慌てて支えて中のベッドまで運ぼうかと提案するもマリーはかぶりを振って拒否する。
ベッドという存在だけでマリーのほうが色々想像してしまった。
「送ってくださってありがとうございました。素敵な贈り物もたくさん、ありがとうございました」
「私のほうこそ、贈らせてくれてありがとう」
プレゼントは香水とピアスだけ。そんなに大した額ではないが、マリーのために考えて作った物とマリーと一緒に開けたピアスはアーサーにとってもかけがえのない思い出となった。
まだ下を向いているマリーは今日はもう顔を上げてくれないかとアーサーは眉を下げながらも自分が大胆なことをしすぎた結果だと諦め、挨拶をして帰ろうと思っていたアーサーだが、マリーが両手で手を握ってきたことで言葉が疑問符付きに変わった。
「じゃあ、また明日。おやすみ、マ、リー……?」
握られた手は手のひらを上にしてマリーのほうへと引っ張られる。何をするつもりかと黙って見ていたが、すぐにわかった。
マリーの唇がアーサーの手首に触れた。柔らかな感触が手首にゆっくりと落ち、そしてゆっくりと離れていく。
「おやすみなさい、アーサー様」
顔を上げたマリーは真っ赤な顔のまま、少し悪戯めいて見える笑みを浮かべながらおやすみの挨拶をし、素早く部屋に入っていった。
ガチャンッとかけられた鍵のせいで中へ押し入ることもできない。そうしようにも、アーサーの身体が動かなかった。
手首へのキスの意味は知っている。マリーに教えたのは自分だ。
〝君が好きでたまらない〟
自分がする分にはなんともないのに、マリーからされると途端にダメになる。
ボッと火がついたように真っ赤になるアーサーはその場でしゃがみこんで片手で頭を抱えた。
「まいったな……」
手首へのキス──してやられた。
真っ赤な笑顔にもやられたと思うアーサーは暫くしてから立ち上がり部屋に戻ると、さっきまで香っていたマリーの香水を胸いっぱいに吸い込んでベッドに倒れる。
好きという想いが加速して止まらない。こんな感情は初めてで、なかなか心臓が落ち着いてくれないせいでアーサーはその日、マリーのことで頭がいっぱいでよく眠れないまま朝を迎えた。
「え? あ、あの──!」
そっと足を持ち上げられ、手首にかけたようにシュッと裾に一吹きされる。良い香りが鼻をくすぐり、好きな香りだと思うが、今はそれどころではない。
アーサーが足に触れている。アーサーの膝に靴が乗っている。アーサーのズボンが汚れてしまう。早く足を下ろさなければと思うのに、足に触れるアーサーの手が熱くて、動けなくなってしまう。
まるでマリーの身体がその熱を求めているかのように。
「細い足だね」
「アーサー、様……」
心臓が速く動きすぎてマリーの口からは吐息交じりの声が漏れる。それがまたアーサーの暴走を加速させてしまうスイッチとなった。
ドレスの裾を捲り、触れていた白い脚が露になったことでアーサーも軽く吐息を漏らす。
「脛にキスする意味は──知らないだろうね」
知らないけど、キスしないでほしいと目で訴える。心臓がもたないと手で押さえるが、拒絶はしない。
期待しているのかもしれない。あのアーサー・アーチボルトが脚にキスをする姿を見てみたいと思っているのかもしれない。
令嬢の脚を見ることができるのは婚約者か遊び人だけ。遊び人が見られるのもその令嬢が緩くなければ見ることはできない。婚約者だったネイトさえ見たことはないだろうと思うとアーサーはこの脚が愛おしく感じてたまらなくなる。
「脛へのキスは相手への服従を意味するんだ」
「ふく、じゅう……なんて……」
服従してほしいなど望んだことはない。アーサー・アーチボルトが十七歳の少女に服従を誓って脛にキスをするなどあってはならないことだ。
二人きりの部屋でする行為。意味を教えるためにやっているだけだとわかっているのにマリーは今にも泣きだしそうだった。緊張と羞恥が一斉に襲いかかってくる経験がないだけにどうすればいいのかわからなくなっている。
脚を見られただけではなく、その大きな手に触れられ、キスまでされている異常な光景に頭が沸騰しそうだと思いながらも目が離せない。
おかしくなりそうだった。
「足の甲は脛にするより強い服従を表し、足の指は崇拝心を表している」
そんなマリーの心境などおかまいなしに脛から足の甲、足の指へと唇を下ろしていくアーサーは足の指に少し長めに口付けたあと、ゆっくり顔を上げてマリーを見つめた。
「意味は、自分にはもったいないぐらい素晴らしい人」
それは自分の台詞だと言いたいのに言葉が出てこない。顔は今までにないほど真っ赤になっており、言葉の代わりに涙が溢れる。
恥ずかしさが限界を超えたマリーは対処法がわからず、涙となって爆発した。その涙の意味が悲しみや拒絶ではないと理解しているアーサーは足をそっと下ろしてからソファーに肩膝を立ててマリーに迫る。
「マリー、君は私にはもったいないぐらい素晴らしい人だよ」
自分の血筋を残すために若い娘を嫁にして子を産ませる貴族は少なくない。しかし、少なくないといえど驚かれないわけではないし、陰口を叩かれないわけでもない。
それでも、そんなことはどうだっていいと思えるほどアーサーはマリーを愛している。今すぐ、この場で全てを手に入れたいと思ってしまうほど、心も身体も彼女を求めていた。
「好きだよ、マリー」
影を落とす相手が近くにいる。立って抱き合うときと変わらないはずなのに、自分の上にいるというだけでどうしてこんなにもおかしくなりそうなのかマリーは自分の感情が理解できなかった。
ボロボロと溢れる涙を唇で拭ってくれる相手にドキドキして、おかしくなりそうで、たまらずマリーは両手を伸ばしてアーサーの首にしがみついた。
「マリー?」
「私も大好きです」
蚊の鳴くような声だったが、アーサーにはちゃんと聞こえた。
まだ早い。まだ手を出すわけにはいかない。半年──あと半年我慢すればマリーの全てが手に入る。それまで我慢するぐらいなんでもないはずだと自分に言い聞かせてマリーの背に腕を回し、自分が起き上がるのに合わせてマリーも起き上がらせた。
「こ、これ以上は……」
「これ以上はしないよ。今はね」
〝今は〟を囁き声で伝えるとマリーの身体がビクッと大きく跳ねる。
自分に寄ってくる飢えた令嬢たちとは違う。
男慣れして身体を開いてくる令嬢とも違う。
たっぷりの愛情の中で大切に育てられてきたマリーはちゃんと思いやりの心を持っている。
ワガママを言えば両親が叶えてくれる家庭とは違う。暴れても使用人が宥めてくれる環境はない。自分のことは自分で、という貴族にはありえない環境下で育ってきた。今時の令嬢らしくないところもあるが、それが逆にアーサーを惹きつける理由でもある。
性知識もほとんど持っていないだろう相手になんの説明もしないまま進めるつもりはない。結婚前に事に及ぶつもりもない。
怖がらせたくないのだ。だが、意識はしていてほしい。
(子供はどっちだろうな)
自嘲してしまうほど貪欲な自分の全てを見せてもマリーは受け入れてくれるだろうか。それが彼の中の不安ではあった。
マリーが祖父母ではなく両親に育てられていれば、今時の令嬢になっていたのかもしれない。どこからともなく流れてくる話で性知識を得て、軽はずみに色々な経験をしてしまうという令嬢に。
一昔前、それこそカサンドラが若い頃は身体だけではなく心まで無垢でなければならない決まりがあった。親は溺愛ではなく厳格でなければならなかった。今はそれが変わって、親は溺愛主義となって子を甘やかし、娘が純潔を散らしているのを知っていても嘘をついて嫁に行かせる。
その点、マリーは身体も心も無垢そのもので、アーサーにとって眩しいほどの存在だ。
それが余計にアーサーに想像させてしまう。
「ハンネスから許可が出たらピアスが輝く耳にキスしてもいいかい?」
「も、もうその話はお許しください」
細菌が入っては困るからと触れることさえ禁止されているのではキスなど話題にさえするべきではないとお説教されるのは目に見えているため、触っていいと許可を得たらキスもいいか聞いてみようと考えて問いかけたのだが、頭がパンクしてしまいそうなマリーは耳にキスなど考えられない行為だった。
耳に触れられただけで全身が震える感覚があったのに、あの柔らかな唇が触れれば自分はどうなってしまうのか、想像するだけでもおかしくなりそうだとかぶりを振って懇願する。
「ふふっ、ダメかい?」
「その聞き方は意地悪です」
「あえてだよ。許可が出たときにすぐしたいからね」
くっついているマリーの身体が熱い。意地悪をしているのはわかっている。それでも意地悪してしまう。愛おしくてたまらないから。
「マリー、今日は一緒に寝ようか?」
「嫌です」
「えっ!?」
まさかの即答にマヌケな声を出すアーサーは予想外の返答にショックを受けたような顔をする。
「わ、私と寝るのは嫌……かい?」
なんとか絞りだした声で問いかけるとマリーはそうじゃないとかぶりを振る。
「こうしているだけでもおかしいくらいドキドキしているのに、一緒に寝るなんて……ドキドキしすぎてきっと眠れないと思うんです。だから……一緒には寝ません」
マリーの身体を強く抱きしめながらアーサーは強く目を閉じる。
(明日、目が覚めたら結婚式当日になってたりしないだろうか……)
結婚式まで、あと何回我慢することになるのだろう。我慢し続けると誓ったのだから我慢はするつもりだが、辛いものは辛い。
汚したくない。一生この清らかなままいてほしい。でも汚したい。哀れなほど左右する感情が爆発する前に結婚させてくれと祈り始めた。
「じゃあ、別々に寝ようか。明日は君が泊まる最後の日だし、一緒に寝たいな」
「は、はい」
困らせているとわかっている。こんなことは初夜まで望むべきではない。結婚すればいくらでも一緒に寝られるのだから、今こうして欲張って困らせる必要などないのに、欲張ってしまう。
「送るよ」
背中から足へと腕をズラしてお姫様抱っこへと変え、そのまま立ち上がるとマリーを部屋まで運んでいく。
マリーは相変わらずしがみついたままで顔を見せてはくれないが、マリーの真っ赤な耳を見れば不謹慎にも嬉しくなってしまう。
「マリー、着いたよ」
「ありがとうございまっ……!」
「っと……中まで運んだほうがいいかい?」
ドアの前でマリーを下ろすと一瞬、膝がカクッと折れて崩れ落ちそうになったのを慌てて支えて中のベッドまで運ぼうかと提案するもマリーはかぶりを振って拒否する。
ベッドという存在だけでマリーのほうが色々想像してしまった。
「送ってくださってありがとうございました。素敵な贈り物もたくさん、ありがとうございました」
「私のほうこそ、贈らせてくれてありがとう」
プレゼントは香水とピアスだけ。そんなに大した額ではないが、マリーのために考えて作った物とマリーと一緒に開けたピアスはアーサーにとってもかけがえのない思い出となった。
まだ下を向いているマリーは今日はもう顔を上げてくれないかとアーサーは眉を下げながらも自分が大胆なことをしすぎた結果だと諦め、挨拶をして帰ろうと思っていたアーサーだが、マリーが両手で手を握ってきたことで言葉が疑問符付きに変わった。
「じゃあ、また明日。おやすみ、マ、リー……?」
握られた手は手のひらを上にしてマリーのほうへと引っ張られる。何をするつもりかと黙って見ていたが、すぐにわかった。
マリーの唇がアーサーの手首に触れた。柔らかな感触が手首にゆっくりと落ち、そしてゆっくりと離れていく。
「おやすみなさい、アーサー様」
顔を上げたマリーは真っ赤な顔のまま、少し悪戯めいて見える笑みを浮かべながらおやすみの挨拶をし、素早く部屋に入っていった。
ガチャンッとかけられた鍵のせいで中へ押し入ることもできない。そうしようにも、アーサーの身体が動かなかった。
手首へのキスの意味は知っている。マリーに教えたのは自分だ。
〝君が好きでたまらない〟
自分がする分にはなんともないのに、マリーからされると途端にダメになる。
ボッと火がついたように真っ赤になるアーサーはその場でしゃがみこんで片手で頭を抱えた。
「まいったな……」
手首へのキス──してやられた。
真っ赤な笑顔にもやられたと思うアーサーは暫くしてから立ち上がり部屋に戻ると、さっきまで香っていたマリーの香水を胸いっぱいに吸い込んでベッドに倒れる。
好きという想いが加速して止まらない。こんな感情は初めてで、なかなか心臓が落ち着いてくれないせいでアーサーはその日、マリーのことで頭がいっぱいでよく眠れないまま朝を迎えた。
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。