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恋しい気持ち
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「あ~~~~~~~」
アルキュミアに帰ってからアーサーはずっと同じ声を漏らす。一応、仕事は真面目にこなすため支障が出ているわけではないのだが、休憩時間になるとこうして声を上げる。
「マリーに会いたい」
「彼女にも都合がありますから、ご主人様の都合にばかり合わせてはいられません」
「マリーがここに住んでくれればいいのになぁ……」
最低でも一日十回以上は聞くマリーに会いたい欲求。どんな令嬢に会おうと心一つ動かなかったアーサーの心はマリーでいっぱいになっているらしく、毎日マリーの名前を呼んでいる。
それほど近い国でもないため頻繁に会いに行くことができないのが悔やまれると何度も同じことを口にしてはハンネスを呆れさせるていた。
「アップルパイが美味しかったんだよ、ハンネス」
「二十三回聞きました」
「バニラアイスと相性が良いなんて誰が考えたんだ?」
「アップルパイはお嫌いでしょう? 果物をクタクタに煮るなんて果物への冒涜だと言ってジャムも食べず、口の中に残るアイスもお嫌いだったはずですが?」
アーサーは果物に火を通して食感が柔らかくなってしまうのが嫌いで、アップルパイもコンポートもジャムも嫌い。女性が好んで食べるアイスやスイーツも好きではなかった。だから食後にスイーツを出すことはなかった。それなのにアップルパイを『美味しかった』と言い、その上、バニラアイスについても嫌いなはずのアップルパイと『相性が良い』と言う。
マリーと出会ってからのアーサーは双子の兄弟でもいたのかと疑いたくなるほど別人と思わせる発言を繰り返している。
愛を知ったからと言って人は味覚まで変わることはないとハンネスは思っているが、考えを訂正せざるを得ないほど彼の発言は驚きを隠せない。見送りに来てくれた三人に美味しかったと言うのはマナーであるためわかるのだが、こうして家に帰ってからも思い出に浸っているのではあり得ないとも言えない。
「あの家で食べるとなんでも美味しく感じたんだ。あの家には魔法がかかっているようだ」
アーサーの言葉にハンネスは黙って頷く。
この家では、アーサーは一人で食事をする。主人と使用人しかいない屋敷の中で、アーサーと食事を共にする者はいないのだ。出来立ての料理も一人では味気ない。わからないではない。
アーサーは幼い頃から一人での食事を嫌った。だからといって家族と食事をするのはもっと嫌がった。アーサーにとって食事は楽しむものでも、その美味を共有するものでもなく、生きるためのものになった。それが、アーネット邸では嘘のように食事が美味しく感じられた。まるで味覚というものを初めて感じたように。
「マリーはアイスが好きなんだ。それが彼女にとって素晴らしい贅沢らしい。アップルパイだけでも立派なデザートなのに、同じデザートであるアイスを合体させてしまうのは贅沢すぎるって喜んでたんだ。可愛すぎないか? アップルパイとアイスを一緒に食べるのが贅沢ってなんだ? 二つとも簡単に店で買える物だ。それなのに贅沢って……可愛い……」
溶けたアイスのように仕事机に頬を置いて呟くアーサーを今更だらしないと注意はしない。四十二歳の男が恋する乙女のように毎日好きな相手の名前を口にしては『会いたい』と呟く。可愛らしいとは到底思えはしないが、ハンネスはその姿を微笑ましく受けとめていた。
「ハンネス、マリーが来る前にやっておこうか迷っていることがいくつかあるんだ」
「なんでしょう?」
「敷地内に別宅を建てようかと思っている」
「は?」
間髪入れずに声を出すハンネスの反応は予想どおりすぎてアーサーは苦笑するが、立ち上がって振り返り窓に近付き、外を見つめる。
「マリーはきっと、この屋敷に住むのは居心地が悪いと思うんだ。この屋敷は広すぎる。だから、二人で暮らせる小さな家を建てようかなって思ってるんだ。ここは僕が仕事をする場所にする。マリーは料理もできるし、洗濯だってできる。カサンドラと一緒に花も育てているし、針と糸も扱える。紅茶だって美味しく淹れられるんだから二人で暮らすのは問題ないだろう?」
言っている意味はわかる。わかるが、わからないこともあった。
マリー・アーネットは男爵令嬢だが、貧乏男爵令嬢ではない。アーネット家はベンジャミンの功績もあって、男爵家の中では裕福だ。しかし、貴族らしい贅沢な暮らしをしない祖父母のもとで育ったマリーにとってその生活は当たり前のもの。自分のことは自分でする。それが当たり前のマリーにとっては二人で暮らすほうがいいだろうと笑顔で語るアーサーにハンネスは首を傾げる。
「あなた様が何もできないのに、ですか?」
アーサーが笑顔で固まる。
「いいですか? マリー様はご主人様の母となるために結婚なさるわけではございません」
「ハンネス、お前が言いたいことはわかってる。僕が何もできない男だから二人で暮らせば彼女にだけ負担がかかると言いたいんだろう?」
「そこまでわかってらっしゃるのであれば、私が言いたいこともおわかりですね?」
「二人での暮らしは反対、だろう?」
「安心しました」
アーサーも自覚がある。生家のアーチボルト家を出たと言っても新しい国でも結局は使用人に囲まれて何一つ不自由しない生活を送ってきた。シャツ一枚、皿一枚だって自分で洗ったことがない。シーツすら自分で換えたことがない男と暮らせば家事は全てマリーがすることになる。見知らぬ国に嫁いでくるだけでも大変なのに、使用人のように働かされるマリーの気持ちを考えるとハンネスが反対する気持ちもわかる。
だが、それでもアーサーは素直に納得はしない。
「マリーに聞いてみる」
「お手紙でお願いしますね。」
先手を打ったことで恨めし気な視線を向けてくるアーサーの考えなどハンネスにはお見通し。『話し合いに行く』という建前でマリーに会いに行きたいだけ。別宅を建てることについて聞くだけなら手紙で充分だ。
「マリーの顔が見たいんだ。声が聞きたい。あの柔らかな髪に触れたいし、柔らかな頬に手を添えて唇を……あー……ダメだ……」
帰ってから何度思い出したかわからないマリーとのキス。キスだけで目を回し、頬を染め、蕩けた顔はアーサー・アーチボルトから集中力を奪う。
「ハンネス、結婚したらいつから一緒に風呂に入ってもいいんだろうか?」
「清々しいほどに欲望全開ですね」
「そもそも、一緒に入ってもいいものか?」
「マリー様の許可があればよろしいかと。夫婦であろうと許可なしでは自由にできませんからね」
「ハンネスならいつ許可を取る?」
「初夜に」
「初夜に!? そ、それは早すぎるんじゃないか? 彼女にも心の準備というものがあるだろう? そ、そんな早くはちょっと……横暴、では……?」
四十二歳になるまで女性と風呂どころか、満足に触れ合ってこなかったせいで手の出し方どころか誘うタイミングすらわからないアーサーにはもう一度、一から性教育をしておくべきなのかもしれないとハンネスは考える。
アーサ・アーチボルトという男は今の若者より経験がないため、抱えている欲望は大きい。しかし、中年と呼ばれる年齢であるが故に自分の気持ちではなく相手の気持ちを優先的に考えることで奥手になってしまう。まだ婚約しかしていないというのに一人悩んで焦っている姿は異様なまでに滑稽ではあるが、愉快なのでハンネスはそれ以上の助言はしないでおいた。
「朝はマリーより先に起きてマリーの寝顔を見る」
「寝癖姿を見られるわけにはいかないですしね」
「あー! 忘れてた!」
アーサーの寝癖は酷く、家以外で寝るときは身体が無意識に緊張しているせいかそれほど酷くないのだが、自分のベッドだと寝癖が酷い。あちこち跳ね回ったみっともない姿をそれを見たハンネスはいつも『ボッッッッサボサ』と言う。『ボサボサ』と言われるより突き刺さる言い方。
完璧にセットされた自分しか見せたことがないアーサーにとって、マリーには絶対に見せたくない姿。
「寝起きが悪いのにマリー様より先に起きられる自信が?」
「うっ……」
「寝癖一つ自分で直せないのに、二人で暮らすのは問題ないなどとよく言えましたね?」
「うぐっ……」
「そういうのは、自分のことは自分でできる男が言うものです」
「ぐうッ」
ハンネスの言葉が一つ一つ槍のように尖って、窓の外を眺めるアーサーの背中に刺さっていく。返す言葉もないアーサーは窓に〝ハンネス〟と残らない文字を書いて床に倒れた。
これでも一国を背負う大公。顔が良い。スタイルが良い。性格が良い。完璧な男であることは間違いないのに、恋愛においてはそこら辺の若者より下手。
自分の娘でもおかしくない年齢の少女を妻に迎えようとしている男にしてはあまりにも頼りない。そんな調子で二人暮らしなどマリーが苦労するのは目に見えている。
せっかくアーサーが本気になった恋の相手。嫁いだばかりで苦労して嫌な思いはしてほしくないとハンネスは思う。離婚したいと思ってもマリーは絶対に口にしないだろう。彼女は祖父母を悲しませるぐらいなら自分が我慢するタイプ。
アーサーに暴走させることだけは避けなければならない。
「家はすぐに建ちませんし、二人で暮らす件はここで暮らされてみて、マリー様が居心地が悪そうであれば考えることにしてはいかがですか?」
「んー……でもなぁ……使用人のいない生活をしていたマリーが使用人になんでもしてもらう生活は考えるまでもなく居心地悪いだろう」
「彼女が妊娠したとき、否が応でも頼らなければならないのですよ?」
「妊娠……」
しまったと思ったときには既に遅く、アーサーの頭の中にはマリーの妊婦姿が浮かんでいる。大きなお腹をしたマリーが洗濯物を干して、自分はそれを慌てて手伝う。大丈夫だと笑うマリーを庭に置いているロッキングチェアに座らせて最後まで干す。もうすぐ生まれると笑い合う自分たちの姿に緩む表情を床の上で浮かべるアーサーにハンネスが咳払いをする。慌てて起き上がったアーサーだが、すぐにその場にしゃがみこんだ。
アルキュミアに帰ってからアーサーはずっと同じ声を漏らす。一応、仕事は真面目にこなすため支障が出ているわけではないのだが、休憩時間になるとこうして声を上げる。
「マリーに会いたい」
「彼女にも都合がありますから、ご主人様の都合にばかり合わせてはいられません」
「マリーがここに住んでくれればいいのになぁ……」
最低でも一日十回以上は聞くマリーに会いたい欲求。どんな令嬢に会おうと心一つ動かなかったアーサーの心はマリーでいっぱいになっているらしく、毎日マリーの名前を呼んでいる。
それほど近い国でもないため頻繁に会いに行くことができないのが悔やまれると何度も同じことを口にしてはハンネスを呆れさせるていた。
「アップルパイが美味しかったんだよ、ハンネス」
「二十三回聞きました」
「バニラアイスと相性が良いなんて誰が考えたんだ?」
「アップルパイはお嫌いでしょう? 果物をクタクタに煮るなんて果物への冒涜だと言ってジャムも食べず、口の中に残るアイスもお嫌いだったはずですが?」
アーサーは果物に火を通して食感が柔らかくなってしまうのが嫌いで、アップルパイもコンポートもジャムも嫌い。女性が好んで食べるアイスやスイーツも好きではなかった。だから食後にスイーツを出すことはなかった。それなのにアップルパイを『美味しかった』と言い、その上、バニラアイスについても嫌いなはずのアップルパイと『相性が良い』と言う。
マリーと出会ってからのアーサーは双子の兄弟でもいたのかと疑いたくなるほど別人と思わせる発言を繰り返している。
愛を知ったからと言って人は味覚まで変わることはないとハンネスは思っているが、考えを訂正せざるを得ないほど彼の発言は驚きを隠せない。見送りに来てくれた三人に美味しかったと言うのはマナーであるためわかるのだが、こうして家に帰ってからも思い出に浸っているのではあり得ないとも言えない。
「あの家で食べるとなんでも美味しく感じたんだ。あの家には魔法がかかっているようだ」
アーサーの言葉にハンネスは黙って頷く。
この家では、アーサーは一人で食事をする。主人と使用人しかいない屋敷の中で、アーサーと食事を共にする者はいないのだ。出来立ての料理も一人では味気ない。わからないではない。
アーサーは幼い頃から一人での食事を嫌った。だからといって家族と食事をするのはもっと嫌がった。アーサーにとって食事は楽しむものでも、その美味を共有するものでもなく、生きるためのものになった。それが、アーネット邸では嘘のように食事が美味しく感じられた。まるで味覚というものを初めて感じたように。
「マリーはアイスが好きなんだ。それが彼女にとって素晴らしい贅沢らしい。アップルパイだけでも立派なデザートなのに、同じデザートであるアイスを合体させてしまうのは贅沢すぎるって喜んでたんだ。可愛すぎないか? アップルパイとアイスを一緒に食べるのが贅沢ってなんだ? 二つとも簡単に店で買える物だ。それなのに贅沢って……可愛い……」
溶けたアイスのように仕事机に頬を置いて呟くアーサーを今更だらしないと注意はしない。四十二歳の男が恋する乙女のように毎日好きな相手の名前を口にしては『会いたい』と呟く。可愛らしいとは到底思えはしないが、ハンネスはその姿を微笑ましく受けとめていた。
「ハンネス、マリーが来る前にやっておこうか迷っていることがいくつかあるんだ」
「なんでしょう?」
「敷地内に別宅を建てようかと思っている」
「は?」
間髪入れずに声を出すハンネスの反応は予想どおりすぎてアーサーは苦笑するが、立ち上がって振り返り窓に近付き、外を見つめる。
「マリーはきっと、この屋敷に住むのは居心地が悪いと思うんだ。この屋敷は広すぎる。だから、二人で暮らせる小さな家を建てようかなって思ってるんだ。ここは僕が仕事をする場所にする。マリーは料理もできるし、洗濯だってできる。カサンドラと一緒に花も育てているし、針と糸も扱える。紅茶だって美味しく淹れられるんだから二人で暮らすのは問題ないだろう?」
言っている意味はわかる。わかるが、わからないこともあった。
マリー・アーネットは男爵令嬢だが、貧乏男爵令嬢ではない。アーネット家はベンジャミンの功績もあって、男爵家の中では裕福だ。しかし、貴族らしい贅沢な暮らしをしない祖父母のもとで育ったマリーにとってその生活は当たり前のもの。自分のことは自分でする。それが当たり前のマリーにとっては二人で暮らすほうがいいだろうと笑顔で語るアーサーにハンネスは首を傾げる。
「あなた様が何もできないのに、ですか?」
アーサーが笑顔で固まる。
「いいですか? マリー様はご主人様の母となるために結婚なさるわけではございません」
「ハンネス、お前が言いたいことはわかってる。僕が何もできない男だから二人で暮らせば彼女にだけ負担がかかると言いたいんだろう?」
「そこまでわかってらっしゃるのであれば、私が言いたいこともおわかりですね?」
「二人での暮らしは反対、だろう?」
「安心しました」
アーサーも自覚がある。生家のアーチボルト家を出たと言っても新しい国でも結局は使用人に囲まれて何一つ不自由しない生活を送ってきた。シャツ一枚、皿一枚だって自分で洗ったことがない。シーツすら自分で換えたことがない男と暮らせば家事は全てマリーがすることになる。見知らぬ国に嫁いでくるだけでも大変なのに、使用人のように働かされるマリーの気持ちを考えるとハンネスが反対する気持ちもわかる。
だが、それでもアーサーは素直に納得はしない。
「マリーに聞いてみる」
「お手紙でお願いしますね。」
先手を打ったことで恨めし気な視線を向けてくるアーサーの考えなどハンネスにはお見通し。『話し合いに行く』という建前でマリーに会いに行きたいだけ。別宅を建てることについて聞くだけなら手紙で充分だ。
「マリーの顔が見たいんだ。声が聞きたい。あの柔らかな髪に触れたいし、柔らかな頬に手を添えて唇を……あー……ダメだ……」
帰ってから何度思い出したかわからないマリーとのキス。キスだけで目を回し、頬を染め、蕩けた顔はアーサー・アーチボルトから集中力を奪う。
「ハンネス、結婚したらいつから一緒に風呂に入ってもいいんだろうか?」
「清々しいほどに欲望全開ですね」
「そもそも、一緒に入ってもいいものか?」
「マリー様の許可があればよろしいかと。夫婦であろうと許可なしでは自由にできませんからね」
「ハンネスならいつ許可を取る?」
「初夜に」
「初夜に!? そ、それは早すぎるんじゃないか? 彼女にも心の準備というものがあるだろう? そ、そんな早くはちょっと……横暴、では……?」
四十二歳になるまで女性と風呂どころか、満足に触れ合ってこなかったせいで手の出し方どころか誘うタイミングすらわからないアーサーにはもう一度、一から性教育をしておくべきなのかもしれないとハンネスは考える。
アーサ・アーチボルトという男は今の若者より経験がないため、抱えている欲望は大きい。しかし、中年と呼ばれる年齢であるが故に自分の気持ちではなく相手の気持ちを優先的に考えることで奥手になってしまう。まだ婚約しかしていないというのに一人悩んで焦っている姿は異様なまでに滑稽ではあるが、愉快なのでハンネスはそれ以上の助言はしないでおいた。
「朝はマリーより先に起きてマリーの寝顔を見る」
「寝癖姿を見られるわけにはいかないですしね」
「あー! 忘れてた!」
アーサーの寝癖は酷く、家以外で寝るときは身体が無意識に緊張しているせいかそれほど酷くないのだが、自分のベッドだと寝癖が酷い。あちこち跳ね回ったみっともない姿をそれを見たハンネスはいつも『ボッッッッサボサ』と言う。『ボサボサ』と言われるより突き刺さる言い方。
完璧にセットされた自分しか見せたことがないアーサーにとって、マリーには絶対に見せたくない姿。
「寝起きが悪いのにマリー様より先に起きられる自信が?」
「うっ……」
「寝癖一つ自分で直せないのに、二人で暮らすのは問題ないなどとよく言えましたね?」
「うぐっ……」
「そういうのは、自分のことは自分でできる男が言うものです」
「ぐうッ」
ハンネスの言葉が一つ一つ槍のように尖って、窓の外を眺めるアーサーの背中に刺さっていく。返す言葉もないアーサーは窓に〝ハンネス〟と残らない文字を書いて床に倒れた。
これでも一国を背負う大公。顔が良い。スタイルが良い。性格が良い。完璧な男であることは間違いないのに、恋愛においてはそこら辺の若者より下手。
自分の娘でもおかしくない年齢の少女を妻に迎えようとしている男にしてはあまりにも頼りない。そんな調子で二人暮らしなどマリーが苦労するのは目に見えている。
せっかくアーサーが本気になった恋の相手。嫁いだばかりで苦労して嫌な思いはしてほしくないとハンネスは思う。離婚したいと思ってもマリーは絶対に口にしないだろう。彼女は祖父母を悲しませるぐらいなら自分が我慢するタイプ。
アーサーに暴走させることだけは避けなければならない。
「家はすぐに建ちませんし、二人で暮らす件はここで暮らされてみて、マリー様が居心地が悪そうであれば考えることにしてはいかがですか?」
「んー……でもなぁ……使用人のいない生活をしていたマリーが使用人になんでもしてもらう生活は考えるまでもなく居心地悪いだろう」
「彼女が妊娠したとき、否が応でも頼らなければならないのですよ?」
「妊娠……」
しまったと思ったときには既に遅く、アーサーの頭の中にはマリーの妊婦姿が浮かんでいる。大きなお腹をしたマリーが洗濯物を干して、自分はそれを慌てて手伝う。大丈夫だと笑うマリーを庭に置いているロッキングチェアに座らせて最後まで干す。もうすぐ生まれると笑い合う自分たちの姿に緩む表情を床の上で浮かべるアーサーにハンネスが咳払いをする。慌てて起き上がったアーサーだが、すぐにその場にしゃがみこんだ。
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