居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。

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第3話 市場へ向かう馬車の中で

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王宮の裏門から、地味な外套をまとった二人の青年が馬車に乗り込んだ。
皇太子フェリクスと、その側近ルークである。

馬車は静かに動き出し、王宮の敷地を離れていく。

「ふぅ……やっと外に出られたな」

フェリクスは窓を少し開け、外の風を吸い込んだ。

「城の空気は重い。たまにはこうして外に出ないと、息が詰まる」

「……殿下は自由すぎます」

ルークは呆れたように言うが、声にはどこか慣れた響きがある。

「自由で何が悪い? 王族だって人間だぞ」

「王族だからこそ、慎重であるべきです」

「ルークは相変わらず堅いなぁ」

フェリクスは笑いながら、ルークの肩を軽く叩いた。


「ところで、殿下。市場に行きたいと言っていましたが……何か目的が?」

ルークが尋ねると、フェリクスは少しだけ真剣な表情になった。

「最近、平民街で“歌が人を癒す”って噂があるんだ」

「噂、ですか?」

「ああ。疲れた人が元気になったとか、病気が軽くなったとか……。
 もちろん、ただの作り話かもしれないけどな」

ルークは眉をひそめた。

「魔力を持たない平民が、人を癒す……?」

「不思議だろう? だから確かめてみたいんだ」

フェリクスは窓の外を見つめながら続けた。

「もし本当にそんな力を持つ者がいるなら……国にとっても大きな意味を持つ」

ルークは黙って頷いた。
だが胸の奥では、別のざわつきが広がっていた。

(……歌で癒す? まさか、そんな……)

十年前の記憶が、また浮かび上がる。
白い小花を髪に挿し、歌いながら花を配っていた少女。

(いや、偶然だ。あの子がそんな力を持っているはずがない)

そう思いながらも、胸のざわつきは消えなかった。


「ルーク、さっきから少し様子がおかしいぞ?」

フェリクスが覗き込むように言う。

「……別に、何も」

「嘘だな。お前は顔に出ないようで、実は出る」

「殿下ほどではありません」

「ははっ、それは否定しない」

フェリクスは笑ったが、すぐに真剣な声に戻った。

「……何か気になることがあるなら、言ってくれ」

ルークは少し迷ったが、結局首を振った。

「大したことではありません。ただ……昔のことを思い出しただけです」

「昔?」

「はい。平民街の祭りで……歌っていた少女がいて」

フェリクスは目を細めた。

「歌っていた少女、か」

「ええ。白い小花を髪に挿していて……」

そこまで言って、ルークは口を閉ざした。

フェリクスは何も言わず、ただ静かに頷いた。

「……なるほど。市場に行けば、何か思い出すかもしれないな」

ルークは返事をしなかった。
ただ、胸の奥が妙にざわついていた。



馬車は王都の中心を抜け、徐々に賑やかな通りへと入っていく。

子どもたちの笑い声、商人の呼び声、焼き菓子の甘い香り。
王宮とはまったく違う、温かい空気が広がっていた。

フェリクスは窓の外を見て微笑む。

「やっぱり、平民街はいいな。活気がある」

「……殿下、あまり身を乗り出さないでください」

「はいはい、わかってる」

ルークはため息をついたが、どこか安心したような表情も見せた。

馬車はゆっくりと市場へ向かう。

その先に、
十年前に出会った少女──リリアがいることを、
二人はまだ知らない。
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