居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。

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第7話 歌声の主は、あの居酒屋に

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市場で薬草を買い終えたリリアは、籠を抱えて《風車亭》へ戻ってきた。
昼の市場は賑やかだったが、店の前はまだ静かだ。

「ただいま、お父さん。薬草、買ってきたよ」

奥からトマスの咳が聞こえる。

「……助かるよ、リリア。少し休んだら、開店の準備をしよう」

「うん。お湯、沸かしてくるね」

リリアは薬草を煎じる準備をしながら、
店の掃除、テーブルの拭き上げ、ランプの芯の調整をしていく。

夕方の開店に向けて、いつもの流れだ。


準備がひと段落すると、リリアは店の中央に立ち、
小さく息を吸った。

(……今日も、歌えるといいな)

店が混み始めると、誰かが必ず「歌って」と言ってくれる。
それが嬉しくて、リリアはそっと声を出してみた。

最初は囁くような小さな声。
店の木の壁に、柔らかい旋律が溶けていく。

(お父さんの咳が、少しでも楽になりますように)

祈るように歌うその声は、
店の外へ、風に乗ってほんの少しだけ漏れ出した。



市場の奥を歩いていたフェリクスとルークは、
露店の間で立ち話をしている人々の声を耳にした。

「今日も《風車亭》のリリアちゃん、歌うかなぁ」
「歌うと元気になるんだよな。不思議だよ」
「病気のじいさんが、あの歌で少し歩けるようになったって話だぞ」

フェリクスが目を輝かせる。

「……来たな、噂の“歌姉ちゃん”」

ルークは胸の奥がざわつくのを感じた。

(風車亭……? あの辺りは……)

十年前、祭りで出会った少女がいた場所に近い。

フェリクスがルークの顔を覗き込む。

「どうした? また何か思い出したのか?」

「……いえ。ただ、気になるだけです」

「なら行こう。確かめてみる価値はある」

フェリクスは迷いなく歩き出す。

ルークは一瞬だけ立ち止まり、
風に乗って流れてくる微かな歌声に耳を澄ませた。

(……この声……)

胸が、強く締めつけられる。

(まさか……)

ルークは歩き出した。
足が自然と《風車亭》の方へ向かう。



夕日が街を染め始める頃、
フェリクスとルークは《風車亭》の前に立っていた。

木製の看板が揺れ、
店の中からは、柔らかい歌声が漏れている。

フェリクスが小さく笑う。

「……どうやら、ここみたいだな」

ルークは扉を見つめたまま、息を呑んだ。

(……本当に……?)

十年前の記憶と、今の歌声が重なっていく。


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