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追加エピソード:王太子レオンハルト視点
リリアの甘い声が、
まるで蜜のように耳に絡みついていた。
「殿下ぁ~♡
わたしぃ……こわかったんですぅ……
エリシア様がぁ……」
その声を聞くたびに、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
守らなければ。
彼女を。
そう思うのは自然なことだと、
ずっと信じていた。
……だが、今思えば違う。
あれは“温かさ”ではなく、
魔力を吸われたあとの虚ろな快感だった。
エリシアが静かに言葉を発した瞬間、
胸の奥がざわついた。
「私は聖女を攻撃していません」
その声は、
リリアの甘声とは違う。
冷静で、澄んでいて、
まるで霧を晴らす風のようだった。
なぜだろう。
その声を聞いた瞬間、
胸が痛んだ。
(……エリシア……)
彼女はいつも、
私の隣で静かに微笑んでいた。
だが私は、
その微笑みを一度も“見よう”としなかった。
リリアの甘声に溺れ、
エリシアの言葉を聞こうとしなかった。
「あなた、嘘をつくと語尾が伸びますよね?」
エリシアの言葉に、
リリアの顔が引きつる。
その瞬間、
胸の奥で何かが崩れた。
(……嘘……?)
リリアの甘声が、
急に薄っぺらく聞こえた。
「殿下ぁ~♡
わたしぃ……そんなつもりじゃぁ……」
語尾が震えている。
甘さが崩れている。
私は初めて、
リリアの声が“作り物”だと気づいた。
だが遅かった。
「リリア様は聖女ではありません。
“魔力吸収の禁術師”です」
エリシアの言葉が落ちた瞬間、
世界がひっくり返った。
頭が痛い。
胸が苦しい。
呼吸が乱れる。
(……私は……操られていた……?)
だが、
それでもエリシアを断罪しようとしたのは、
私自身だ。
魔力を吸われていたとはいえ、
判断を放棄したのは私だ。
「婚約破棄は、こちらから願い下げです」
その言葉は、
刃より鋭く胸に突き刺さった。
(……嫌だ……)
エリシアがいなくなる。
その未来が、
恐ろしくてたまらなかった。
だが――
彼女はもう、私を見ていなかった。
私の隣に立つ資格など、
最初からなかったのだ。
私は崩れ落ちた。
「……すまなかった……
すまなかった……エリシア……」
謝罪は届かない。
届くはずがない。
私は、
彼女の人生を奪おうとしたのだから。
そして、
黒髪の公爵が現れた瞬間、
私は悟った。
(……ああ。
彼女は、もう私のものではない)
エリシアは、
私が一度も守れなかった女性だ。
だが公爵は違う。
彼は、彼女を守るだろう。
私にはできなかったことを。
私はただ、
崩れ落ちたまま、
彼女の背中を見送るしかなかった。
まるで蜜のように耳に絡みついていた。
「殿下ぁ~♡
わたしぃ……こわかったんですぅ……
エリシア様がぁ……」
その声を聞くたびに、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
守らなければ。
彼女を。
そう思うのは自然なことだと、
ずっと信じていた。
……だが、今思えば違う。
あれは“温かさ”ではなく、
魔力を吸われたあとの虚ろな快感だった。
エリシアが静かに言葉を発した瞬間、
胸の奥がざわついた。
「私は聖女を攻撃していません」
その声は、
リリアの甘声とは違う。
冷静で、澄んでいて、
まるで霧を晴らす風のようだった。
なぜだろう。
その声を聞いた瞬間、
胸が痛んだ。
(……エリシア……)
彼女はいつも、
私の隣で静かに微笑んでいた。
だが私は、
その微笑みを一度も“見よう”としなかった。
リリアの甘声に溺れ、
エリシアの言葉を聞こうとしなかった。
「あなた、嘘をつくと語尾が伸びますよね?」
エリシアの言葉に、
リリアの顔が引きつる。
その瞬間、
胸の奥で何かが崩れた。
(……嘘……?)
リリアの甘声が、
急に薄っぺらく聞こえた。
「殿下ぁ~♡
わたしぃ……そんなつもりじゃぁ……」
語尾が震えている。
甘さが崩れている。
私は初めて、
リリアの声が“作り物”だと気づいた。
だが遅かった。
「リリア様は聖女ではありません。
“魔力吸収の禁術師”です」
エリシアの言葉が落ちた瞬間、
世界がひっくり返った。
頭が痛い。
胸が苦しい。
呼吸が乱れる。
(……私は……操られていた……?)
だが、
それでもエリシアを断罪しようとしたのは、
私自身だ。
魔力を吸われていたとはいえ、
判断を放棄したのは私だ。
「婚約破棄は、こちらから願い下げです」
その言葉は、
刃より鋭く胸に突き刺さった。
(……嫌だ……)
エリシアがいなくなる。
その未来が、
恐ろしくてたまらなかった。
だが――
彼女はもう、私を見ていなかった。
私の隣に立つ資格など、
最初からなかったのだ。
私は崩れ落ちた。
「……すまなかった……
すまなかった……エリシア……」
謝罪は届かない。
届くはずがない。
私は、
彼女の人生を奪おうとしたのだから。
そして、
黒髪の公爵が現れた瞬間、
私は悟った。
(……ああ。
彼女は、もう私のものではない)
エリシアは、
私が一度も守れなかった女性だ。
だが公爵は違う。
彼は、彼女を守るだろう。
私にはできなかったことを。
私はただ、
崩れ落ちたまま、
彼女の背中を見送るしかなかった。
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