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大地の神 カウイル
大地の神カウイル
しおりを挟む激しい戦いが終わり、ジル王子は腕を切り落とされたアランの治療に専念していた。
(なんて綺麗な切り口なんだ……これだけ綺麗なら、もしかして……)
アランの止血が終わると、切り離された腕を拾いあげ、ジル王子は接合を試みた。接合といっても現代のような専門的な知識は必要ない、切断面に腕をピッタリくっつけ、光の魔力を結合するまで当て続ける。簡単な作業だが時間がかかる。
普通なら数人がかりで三日はかかる治療を、ジル王子は三時間で終わらせた。普通なら不可能な速度だったが、木のツルから与えられた魔力が回復を促進し、それを可能にしていた。
「父さん!」
結合が終わる頃には、体の自由が効かなかったコナーたちも動けるようになっており、アランの元にコナーたちが駆け寄った。
「もう大丈夫。今は回復するのに体力を使い果たして寝ているけどそのうち目を覚ますよ。そんなことよりコナーくん、君にはやらないといけないことがあるんじゃないかな。」
「え?」
ジル王子がそう言うと、先程まで生い茂っていた草木に一本の道ができた。
「クロエくんと二人この先に進むんだ。本当はあと数人付き添わせたいのだが、私やエリック、アランが戦えない以上、こちらの人数を増やさざるおえない……。」
「父さんとエリックさんを頼みます。」
コナーはジル王子に向かい笑ってみせ、クロエを連れ先へと向かった。
「コナー……私たち何もできなかったね……。」
「あぁ……」
先へ向かう中、コナーとクロエは、ファウストとの戦闘の役に立てなかったどころか足を引っ張ってしまったことに自身の無力さを再び感じていた。
「……決めた!私ももっと!も~と!強くなる!私ね、正直コナーとヤン旅の中で凄く強くなってるのを見て二人が何とかしてくれるって考えてた。でも、それじゃダメだって気づいた!だから強くなる!」
「……具体的にどうやって強くなるんだ?」
「…………それはまだ考え中。」
そんなことを話していると道が開け、広い空間に一人の男が横たわっていた。
「ようやく来たか……待ちくたびれたわい。」
老人は起き上がりコナーたちを手招いた。
「儂の名はカウイル。眷属から話は聞いておる。ほれ、これを食え。」
カウイルは赤くみずみずしい果実をコナーに一つ投げて渡した。
「その実には雷の魔力が込められておる。食べればまた一つ雷の魔力を宿すことになるが……コナー・エイベルよ本当によいのか?」
「?」
カウイルの質問に、クロエは首を傾け、コナーは返答の代わりに果実に齧り付いた。
「そうか……」
カウイルは迷わずに齧り付いたコナーを少し悲しそうな表情を浮かべ見守った。
「うっ!」
果実を食べきったコナーは、炎の神アハウから雷の魔力を受け取った時のように、全身に痛みが駆け巡りうずくまった。
「コナー!大丈夫!?」
「大丈夫……大丈夫……」
「コナー!?額のそれ、なに!」
クロエの言葉で額を確認すると額にできていたコブが成長していた。
「なんだ、お主。仲間に伝えていないのか?」
「コナー……どういうこと?」
「…………」
コナーは隠し通すことが難しいことを悟り、クロエに全てを打ち明けた。
「それってつまり……コナーが雷の魔力を集めきったらコナーがコナーじゃなくなるってこと!?」
「そういうことじゃ。雷の魔力を集め終わればコナー・エイベルの自我は喪失し、代わりにチャクがコナー・エイベルの体に宿る。」
「……コナーはこのこと知ってたの?」
「……アハウ様に会った時に聞かされた。」
「なんで教えてくれなかったの!コナーがいなくなっちゃうなら、こんな旅なんの意味もない!」
「だったらクロは帰ればいい。」
「え?」
コナーは振り返り来た道へ足を向けた。
「ねぇ……待ってよコナー……一緒に帰ってアランおじさんとネリーおばさんと皆で水族館作ろうよ……コナーがいなくなっちゃやだよ……」
コナーは足を止めクロエに言葉を投げつけた。
「それじゃダメなんだよ!もうフェルメの攻撃は始まってるんだ!今帰って一時的に幸せな暮らしができたとしても長くは続かない。俺がやるしかないんだよ!」
「クロ……他の人には言わないでくれ……心配かけたくないんだ。頼む……。」
コナーは振り返りクロエに頭を下げた。
「…………」
クロエは震えながら頭を下げるコナーにかける言葉がみつからなかった。
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