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大地の神 カウイル
森の小さな番人
しおりを挟む「それにしても驚いた。まさかエルフの魔法を防ぎながら辿り着くとは……おっとそういえば妻の自己紹介がまだった。彼女の名前はローサ、五十年前に病で亡くなった私の妻だ。」
「自分の嫁の体に魔法をかけたのか……!!」
ファウストは腕を失ったアランのことを見下ろしながら話した。
「あぁ、ローサもそれを望んでいた。彼女は生前、私と共に世界を回る旅をしていてね。当時、千年に一人の天才剣士と言われていた彼女の腕に何度も命を救われたものさ。」
アランに対し自分語りをすることに夢中になり、ファウストは危険な存在が背後に回っていることに気づかなかった。
「!?」
背後からエリックがファウストに斬りかかった。だが、またしてもローサにより攻撃は防がれてしまった。
「おっと!エルフの魔法や獣に襲われてまだ生きてるとは、流石はS級冒険者といったところか。だけど残念だったな。最後のチャンスもローサに防がれ、頼りになる仲間は片や片腕を失い、もう一方は獣の餌。戦わずに逃げていれば何人かは無駄に死なずに済んだものを。」
絶望的な状況な上、仲間の犠牲を無駄と言われたエリックだったが、その瞳から戦う意思は消えていなかった。
「彼女たちの死は無駄なんかじゃないさ!」
意識外からの声にファウストが振り向くと、そこにはドニと大量の妖精が集まっていた。
「彼らが死を恐れずに立ち向かってくれたおかげで僕たちは数を揃えることが出来た。」
「何かと思えば……妖精が集まったところで何ができる。」
ファウストは支配下にある屍のエルフたちに魔法で攻撃するよう指示を送った。
「無駄だよ。僕たちの体は魔力体なんだ、この姿は魔力を使って形を作ってるだけで実体はないから、いくら攻撃しても当たらないよ。」
木々から大量の棘がマシンガンのように妖精を襲うが、妖精たちに当たることはなく後方へと飛んでいった。
「ごめんねエリック、アラン。二人の仲間が殺されるところを見ていることしかできなかった。その代わり……こいつは僕が殺す。」
「殺す?お前のような羽虫に私が殺せるとでも?」
「殺せるさ。」
綺麗に光る無数の妖精たちが、ドニの元に集まり一つになった。
「言っただろ、僕たちは魔力体。やろうと思えばこんなことだってできる。」
ドニの体は小学生ほどの大きさまで成長しており、先程までとは別格の力強さを感じた。
「ローサ!私を抱えて逃げてくれ!……聞いているのかローサ!」
ファウストが背中を任せたローサの方へ振り返ると、ローサとエリック、腕を失ったアランが戦闘を繰り広げていた。エリックとアランはどちらか一方でもファウストの元へと辿りつければいいとローサの隙を探し奮闘していた。
エリックはローサの攻撃を何度も防ぎ、アランはエリックに短剣を落としてもらい口で加え多量の出血をしながら短い命で必死に突破口を探していた。
「ドニさん!俺たちじゃ無理みたいだ!俺たちごとやってくれ!」
「その必要はないよ。」
ドニは一本の大木に近づき右手をそっと添え魔力を流した。魔力は根を通して森全体に広がり、大森林は妖精の魔力で包まれた。
「ジル王子。僕が魔法を放ったらアランの治療をお願い。それから……たまにでいいから僕たちのこと思い出してね。」
ドニは最後にジル王子へ、彼らしい満面の笑みを見せ大木の中に姿を消した。
「…………」
「アラン……」
アランは地面に倒れ喋ることも動くことも不可能な状況なっていた。
「なっ!」
次の瞬間、エリックたちの足元や近くの大木から木のツルや、根っこが現れアラン、ファウスト、ローサの体を縛った。
「なんなんだこれは!おい、エルフ!早く私を助けろ!」
そう言いファウストが屍のエルフたちに目を向けると、そこには枝や根っこに体を貫かれ動けなくされているエルフの死体があった。
「……まさか、ドニさんなのか?」
アランを縛った根っこは腕をキツく縛り止血し、ツルから口に直接魔力を流し、少しでも回復させようとしていた。
一方、ファウストとローサは大木に縛り上げられていた。
「たっ頼む!辞めてくれ!こんな死に方は嫌だ!」
ファウストの体を這う無数の根っこがじわじわと体の内側へと入り込んでいった。
(痛い!怖い!痛い!怖い!痛い!怖い!)
体を這う根っこがファウストの体全体に侵食する頃にはファウストの体は動かなくなっていた。
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