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序章
異世界転生と人魚
しおりを挟む俺の名前は海堂航希、どこにでもいる普通な水族館が好きなだけの高校生だった。ある日、よく行く水族館帰りに雷に打たれ目を覚ますと見慣れない景色が広がっていた。
「コナー!アンタまた海に行ってたの!?海は危ないから行っちゃダメって言ったでしょ!」
どうやら俺は異世界転生してしまったようで、今はコナー・エイベルという名前で父 アラン・エイベル母 ネリー・エイベルと生活している。
「でも母さん。俺、海の生き物が見たいんだ!」
「何と言おうがダメなものはダメ!海には危険な怪物が沢山いるんだから!魚人やサハギンなんかに食べられるのはあんたも嫌でしょ!」
異世界転生して一番ショックだったのはこれだ。この世界の人は極端に海を恐れている。もちろん人魚やサハギンなどの怪物が実在するというのは脅威だし危険なのは分かるが、異世界転生したというのに俺はまだこの世界の海の生き物をほとんど目にできていない。
「帰ったぞー。いやー今日も疲れたー!」
父さんは冒険者をしていて、今日もゴブリン退治の依頼に仲間の人と行っていた。
「お父さんからも言ってやってよ。この子また海に近づいたみたいなの」
「コナー!海には近づいちゃダメだって何度も言ったろ!俺たち大人も海にはできる限り近づかないんだ。どうしても海に行きたいなら、父さんと修行して一人前の冒険者になってからにしなさい」
今はまだ十歳。一人前の冒険者として認められるのは十六歳からだ。そんなに待ってはいられない。その日は帰ってきた父さんと剣や魔法の修行をして一日を終えた。
次の日、落ち込んでいる俺を見かねて父さんがパーティーメンバーの人と一緒に朝早く海へ連れてきてくれた。
「なぁアラン本当に海に行くのか?それも子供を連れて」
「あぁ一人で行かれる位なら、俺たちが連れて行く方が安全だろ」
家での父さんとは顔つきが違い、普段よりも険しい顔をして仲間と話していた。
「コナー着いたぞ。あまり父さん達から離れるなよ」
白い砂浜にどこまでも続く広い海、鼻に抜ける潮の香り。何度来ても海は気持ちがいい。
「じゃあ父さん近くで探索してくるね!」
「海の傍には近づきすぎるなよ~」
海に近づくなと言われてしまったので、仕方なく海岸に打ち上げられた魚やカニなどの生物を探してまわった。見つかる生物は当然ながら今まで見た生物とは違う生き物ばかりで、どんな生態をしているのかがとても気になる。
そんなこんなで海岸を探索していると海から物凄い速度でこちらに向かってくる生き物がいた。
「コナー!早くそこを離れろ!」
父さんが声をかけた時には既に手遅れで、海岸に一人の怪我をした人魚が打ち上げられ、次に魚の体に長い手足の付いた生き物が三体陸に上がってきた。
「サハギンが三体だ!全員配置につけ!」
父さんとパーティーの仲間が武器を構え戦いを始めた。
「うぅぅ.......」
父さん達が戦っている足場に人魚が取り残されており、俺は父さん達の戦いの中を目を盗み人魚の元へと駆け寄った。
「ごめん痛いとは思うけど。少し我慢してね」
俺は人魚の体を引きずって、父さん達から少しでも離れた場所に移動させた。
「ここなら大丈夫だと思うから安心して。」
「なんで私の事助けてくれたの?」
人間の体をしているから無意識に人の言葉で話しかけていたが、人魚が人間と同じ言葉を話したことに少し驚いた。
「別に大した理由はないよ......怪我してるし、あそこで倒れたままだと巻き込まれて死んじゃうかもだろ」
「そっか……ありがと」
人魚を引きずって移動させてから少しすると、サハギンを倒した父さん達がこちらに向かって歩いてきた。
「コナーそこをどけ。そいつは魔物だ」
父さんは人魚にすごい剣幕で武器を向けている。
「父さん!この子のこと殺すつもりなの!」
「当たり前だ!そいつは魔物だ!うちの子供に何を言ってたぶらかしたかは知らないが、コナーは渡さない!」
「たぶらかしてなんかないわよ!だいたいアンタ達人間は魚人が人間を食べるなんて思ってるみたいだけど、私たちは人間なんて食べたこともないわ!」
「黙れ!コナー早くどけ!」
「嫌だ!」
俺は人魚を庇うように立ち塞がった。
「俺は自分の意思でこの子を助けたいんだ!この子が襲ってきたのならともかく、何もしていないこの子を殺すのは間違ってるよ!」
「おいルイ。そいつの傷を治してやれ。コナーはこっちにこい」
離れたら、殺されてしまうかもしれないと考えてしまい動くことができなかった。
「大丈夫だ殺さない……約束だ。おい、お前を回復している間も俺はお前を見ているからな。何か妙な真似をしてみろすぐにお前を殺してやる」
言われた通りに父さんの元へ行くと、父さんの仲間が人魚の傷を魔法で回復してくれた。
「行け」
人魚に命令をすると人魚は海へと帰って行った。その後皆で家に帰ることになったが、父さんは家に着くまで口を開くことはなかった。
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