異世界冒険録~七柱の神と十の種族~

ネコノトリ

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序章

初船出と人魚

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「ここいらで錨を下ろすぞ!」

 俺たちは船に荷物を乗せ、海に出た。この船は魔力で動いていて、船全体が魔力で強化されていることもありモンスターに攻撃をされてもビクともしないらしい。
「クロ、大丈夫か?厳しそうだったら、船の中で休んでていいんだぞ?」

「だ……大丈夫……吐いたら少し楽になったから……」

 前世で船に何度か乗ったことのある俺はともかく、船どころか、乗り物に乗った経験の少ないクロにはまだ船は厳しいようだ。
「無理はするなよ。俺は船を回って他の人の様子を見てくるから、ここで休んでな。」

「わかった……」

 クロの隣を離れ、ギルドの仲間の釣りをしている様子を見て回った。かなりの種類の魚が釣れていて、俺は釣りよりも魚を観察することに夢中になっていた。
「おい、コナー。この網は何に使うんだ?」

 ジョゼフさんが、俺の持ってきていた投網に興味を示していた。

「これは投網っていって、こうして!広がるように投げて引っ張ると……海の生き物が取れるんです。」

「コナー!」

 数匹の魚を網で捕獲すると、急にジョゼフさんに肩を捕まれ驚いた。
「これも量産するぞ!投網と釣竿があれば新種を大量に捕まえて、海のことをもっとよく知れる!」

「とりあえず落ち着いて!その話は陸に戻ってからにしましょう。あっそうだ、ジョゼフさんもやってみますか?」

「いいのか!」

 ジョゼフさんに投網のやり方を軽く教えた。
「こうして……こう!」

 ジョゼフさんは、初めてとは思えないほど上手く投網を海に落とした。長さや網の使い方からして浅い所にいる魚しか取れないが、時間までやれば充分な数が捕まえられるだろう。
「おっかなり重いな……コナー引っぱるのを手伝ってくれないか。」

 網を引くと確かに重い。魚の群れにでも当たったのだろうか?

「ちょっと!何すんのよ!」

 網を海からあげると、引き上げようとしている網の中から女の子の声が聞こえた。ジョゼフさんに網を任せ、海を覗き込んだ。そこには見覚えのある人魚の姿があった。
「ジョゼフさん!人魚がかかっちゃったみたいです!」

「なに!海に戻すか!?」

「いえ、このまま戻しても網から出られるか分からないので、一度引きあげましょう!」

 ジョゼフさんと協力し、何とか人魚を船の上に引き上げた。長い金色の髪に青い瞳、そして何より綺麗に整った顔立ち、昔見た人魚にとてもよく似ている。
「さ~て……殺すか逃がすか、どうするコナー?」

「コナー?もしかしてあの時の小さな子供!?人間って六年でこんなに成長するのね。」

 やはりあの時の人魚だった。
「なんだ?お前ら知り合いなのか?」

「六年前、サハギンから逃げてきた人魚を助けたことがあったんです。まぁ、俺は何もできませんでしたが。……ジョゼフさん、この子のこと逃がしてあげませんか。」

「惚れたとか言うんじゃねぇだろうな。」

「違います!俺たちはこの子にまだ何もされていないからです。何かされてからでは遅いかも知れませんが、少なくとも無抵抗の女の子を殺すのは間違ってると思います。」

「フッ……ハッハッハッハ!よく言ったコナー!」

 ジョゼフさんは俺の話を聞くと突然笑いだした。
「実は俺も人魚を殺すのは反対なんだ!人魚の歌を聴いて、男が海に飛び込んだなんて話があったりしたが。俺たちが聞いた時はそんなことはなかったしな!」
 
 「じゃあ!海に逃がしてもいいんですね!」

「あぁ、もちろんだ。よかったな人魚!」

「ちょっと!私を無視して話進めないでよ!」

「なんだ海に帰りたくないのか?」

「帰るわよ!けど、その前にコナー!あんたに話があんのよ!」

 「何?」

「今回のこともそうだけど、私の事庇ってくれてありがと……いつか個人的にお礼するから、期待して待ってなさい!」

 人魚はそういうと、尾ヒレで船の甲板を叩いて跳ね、海へと帰っていった。

「行ったな……よかったじゃねぇかコナー!下半身が魚とはいえあんだけ綺麗な女にお礼してもらえるなんて!」

 人魚が去った後も、ギルドメンバー全員で船が戻る時間になるまで、新種の魚を探す作業は続いた。最終的には十二匹の新種を見つけ、目的は新種を見つけることだったので、他の魚は海に帰し、俺たちは陸に戻った。
「そういえばジョゼフさん。新種を見つけてギルド教会から大量のお金貰ったはずですけど、どこに置きました?」

「金?金なら使ったぞ?」

「は?」

「投網を作るのに使って、残りは全部酒に使った。」

「お前……ふざけんなよ!食費にも船のチャージにも金がいるんだぞ!」

「ナディアさん口調変わってるね……」

「クロ……聞かなかったことにしよう。」

 その日のギルドではジョゼフさんがナディアさんにこっぴどく叱られている光景が一日中続いた。
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