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魔人襲来編
人形使いパぺティア
しおりを挟む六種族会談から三ヶ月が経ち、人々から海への誤解が薄れてきた秋の頃、その悲劇は起こった。
「最近ギルドの様子すっかり変わっちゃったね!」
「まぁな、最初は酒場みたいだったのに、今ではみんなで飲食店をしてるんだもんな」
俺は、ナディアさんに食材の買い出しを頼まれて、クロと一緒に買い出しに出かけていた。
「ねぇ、あれなんだろ?噴水の近くに人が集まってるよ。ちょっと見てみよ!」
「あっおい!クロ!」
クロは噴水に向かい走り出し俺はそれを追いかけた。
「人が多くてよく見えないな……」
「遅れたらナディアさんに怒られるぞ……」
「う~ん……ちょっとだけなら大丈夫だよね?」
「ちょっとだけだぞ……」
俺とクロはなんとか人混みをかき分け、見えるところまで来た。
「おや?どうやら役者は揃ったようですね。では、皆さん。誠に残念ですが本日の人形劇はこれにて終幕です。」
「えーーーーー」
人混みの中心では、ピエロの格好をした男が人形劇をしていたようで、ピエロが終わりを伝えると周りにいた人は落胆の声を上げた。
「ありがとうござます……皆さんに楽しんでいただけたようで私は大変嬉しいです……では!皆さんの期待に応え、魔法を使った人形劇を最後にお見せしたいと思います。それではご覧ください。残酷劇」
「……!!」
男が両手を広げると、吐き気を催す魔力が、瞬く間に街全体に広がっていった。
「クロ!!大丈夫か!」
クロや街の人々は魔力に触れ気分を悪くしたのかうずくまっている。
「おいやめろ!やめてくれ!」
突然後ろから悲鳴が聞こえ、振り返ると女が刃物を持って男に襲いかかっていた。悲鳴は至る所から聞こえるようになり、時間が経つにつれ街全体から悲鳴の声は大きくなっていった。
「ふむ、やはりこの街の規模ではこれが限界のようですね。」
俺はすぐに剣を抜き男に斬りかかった。
「おっと、やめてくださいよコナーくん。今はあなたと戦うつもりはないんです」
「……!なんで俺の名前を!」
「知ってますよ……そこにいるクロエ・ラシーヌやジョゼフ・ギャバンはもちろん人魚の姫のことも知っています。なぜなら私はあなたのファンなので」
「お前は一体なんなんだ!なぜこんなことをした!」
「それは内緒です。今日は顔合わせだけで、次はドラン王国で会いましょう」
そういうと男は羽を生やし空へと消えていった。男は消えたが街は未だに地獄の光景が続いていた。
「……コナー……ここにいる人は私が守るから、コナーは街の人を守ってあげて……」
「クロ……わかった、ここはお前に任せる。」
俺はフラフラと立ち上がるクロにその場を任せ、街で暴れている人を無力化していった。幸いなことにこの街には冒険者ギルドと海洋調査ギルドの二つのギルドがあるおかげですぐに事態は鎮圧された。
事態が落ち着き、俺はジョゼフさんと冒険者ギルドのギルドマスターにことの詳細を伝えた。
「なるほどな……俺たちの名前を知るピエロか……とりあえず今は王国に向かわねぇとな。コナー、クロ、お前たちには悪いが王国に着いてきてもらうぞ。お前たちしかそいつの顔を見てないからな。」
俺とクロ、そして両ギルドの代表は、マルク王にこの街で起きたことを伝えるため馬車でドラン王国へと向かった。
「なんだと!人を操るピエロがこの街を襲う!人手が足りないというのに……」
「何かあったのか?」
「……他の種族が襲われた」
「どこの種族が襲われたんだ?」
「全てだ!ドワーフの住む鉱山、エルフと妖精の住む森、獣人の住む草原、魚人の住む海、その全てが大量の魔物によって襲われた!それに魔物たちは統率の取れた動きをしていたらしく複数の魔物が同時に襲ってきているらしい」
マルク王は頭を抱えながら俺たちに世界で起きていることを教えてくれた。
「襲われていない我々が、他の種族の救援に行くつもりだったのだが……そうも言ってられなくなったな。コナー、お前は私と共に城下へ出るぞ。クロエはジョゼフたちと共にピエロを探してくれ。見つけ次第攻撃をしても構わん、片付け次第、他の種族の救援に向かうぞ」
それぞれのチームに兵士を三人を連れ、俺たちは城の外へとピエロを探しに出た。
「コナー、お前がそのピエロを見つけた時はどんな状況だった?」
「噴水の前に人混みができていて、クロと一緒に何をしているのか見に行くと、ピエロが人形劇をしていました」
「ふむ……人形劇か……よし私に着いてこい」
マルク王に連れられ着いた場所は城下街の中心の大通りだった。
「これはこれは、国王様ではありませんか!わざわざ私の劇を見るために足を運んで頂きありがとうございます。」
大通りに着くと城下町で最も大きい建物の時計塔の上から声が聞こえた。
「貴様は何者だ!お前たちの目的はなんだ!」
「私は、闇の神フェルメ様によって作られた、七人の魔人の一人パペティアと申します。私たち……いえ、フェルメ様の目的ですね。フェルメ様の目的は面白い世界にすることだそうです」
周囲がマルク王とパペティアと名乗る魔人の会話にざわつき始めた。
「面白い世界だと……衛兵、市民を避難させろ。」
マルク王はパペティアの言葉に何かを言い返そうとしたが、グッと言葉を飲み込み衛兵に市民の避難を命令した。
「勘違いしないでくださいね、あなたたちにとってではなく。私たちにとって楽しい世界です。他種族との協力とかされると私たちはとっても困ってしまうので邪魔をしに来たというわけです」
「一人のくせに随分と余裕そうじゃないか、だったら、さっさとお前を倒して他の種族の救援に向かわねばな」
マルク王は時計塔を脚力だけで登り、パペティアに斬りかかった。パペティアは翼を生やし空に逃げたため攻撃が当たることはなかった。
「一人?勘違いしないでくださいね。私の仲間は一人ではないですよ」
パペティアはそう言うと腕を広げ闇の魔力を解き放った。マルク王は事前に聞いていたこともありすぐに攻撃を仕掛けたが、簡単に避けられ地面にたたき落とされてしまった。
「私の魔法の名前は残酷劇《グラン・ギニョル》この魔法は心の闇が大きいものを操る魔法。故に!私は全種族の中で最も醜い人間の相手を任せられたのです。」
魔力が城下街全体に広がり四方八方から悲鳴と雄叫びの声が聞こえてくる。
「ふむ、やはり。小さな街より城下の方が大勢の悲鳴が聞こえて心地よいですね。聞こえていますかフェルメ様!このオーケストラが!!」
「やめろ!!」
マルク王が斬りかかり、俺もそれに続き応戦するがパペティアに冷静をかいたマルク王の攻撃が当たるはずもなく空振りに終わってしまう。
「おや、怒っているのですか?では、そんなあなたに面白い話を聞かせてあげます」
「黙れ!」
話すパペティアを無視して俺とマルク王は攻撃を畳み掛けるが空を飛んでいるパペティアはヒラリと攻撃を躱してしまう。
「悲劇の王様、ケヴィン王。彼は隣の大陸へ渡り歩き、様々な種族との交流を称えられ王になりました。けれど彼が恋した魚人の姫君レティシアとの恋が結ばれることはありませんでした」
「それは何故か!なんと!裏では魔人たちが手を引いており海が穢れた存在であると信じさせるよう教皇を唆していたのでした!」
「……は?」
「本当におかしな話ですよね!少し唆しただけで思い通り動くれるんですから!それにケヴィン国王の人生!笑っちゃいますよね~!人魚の血を飲んだせいで死ぬことも許されず、一人で三百年間も生きたんですから!」
「貴様アー!!」
「残酷劇!」
飛びかかったマルク王にパペティアの魔法が当たりマルク王は地面に落ちた。
「ふぅ、ようやく僕の魔法にかかってくれた。これで君たちの王様は僕の操り人形さ、マルク王、コナーくんを殺してしまいなさい」
我を忘れ、襲いかかろうとこちらに向かってくるマルク王に、死を覚悟していると。上空からロープで縛られたパペティアが地面に叩き落とされた。
「待たせたなコナー!」
建物の上から聞き馴染みのある声が聞こえ俺は思わず上を見上げた。
「ジョゼフさん!クロ!」
「そいつの声が街全体に響いてくれたおかげで簡単に見つけることができたよ。まぁトラブルを解決しながらだから手間取っちまったけどな。」
ジョゼフさんとクロが到着して安堵すると同時に気持ちを引きしめる。状況が三対二になったとはいえマルク王と二人がかりで相手にすらなれなかったパペティアに加え、マルク王すらも敵になってしまったのだ状況が以前不利であることには変わりはない。
「ジョゼフさんですか……私、あなたのことが嫌いなんですよね……ここで始末しておきたいのは山々ですが。もう一人隠れているのでしょう?」
パペティアがそう言うと建物の影から冒険者ギルドのマスターが現れた。
「冒険者ギルドのマスター、クロード・ジャンメール……元S級冒険者、少々厄介ですね。今回の私の役割は撹乱。この様子ですと充分役割は果たせてそうですね。と、いうわけで本日の私の演目はこれにて終幕になります。次回は今回よりも楽しい人形劇をお見せしてみせます。」
「俺たちが逃がすと思うのか?」
「フフありきたりな台詞ですね……もちろん!私の代わりのお相手は用意しております。ここはお任せしますよラビエ教皇。」
パペティアの言葉が終わると同時にガレキの崩れる音が徐々にこちらに近づいてくる。音がジョゼフさんたちが立っている建物の前で止まると。建物が大きな音を立て崩れ落ちラビエ教皇が姿を現した。
「そうですね……このままでは少し面白さに欠けますね……決めました、マルク王にかけた魔法は解除しておきます。ラビエ教皇、存分に復讐を果たしてくださいね。それでは皆さんごきげんよう。」
パペティアは翼を生やし空へと消えていった。
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