婚約破棄から始まる悪役令嬢の暴走劇 〜常識?何それ美味しいの?ラーメンは美味しいわ。比べるまでもないわね〜

lemuria

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全部まとめて煮込んでやるわ

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「公爵令嬢リュシアとの婚約を破棄する!」

「お前みたいなろくに魔法も使えないような無能は、この国の王妃に相応しくない!」

「私は真実の愛を見つけたのだ!この慈愛に満ちた聖なる少女を一生涯愛し続けると誓おう」

どこかで聞いたことあるようなセリフを並べ立てる王子アルフォンス。それをリュシアは黙って聞いていた。半年前、リュシアはこの世界に転生してきた。先に転生してきていた前世の幼馴染、ユウトの話では、ここは乙女ゲームの中の世界だと言う。そしてリュシアは今断罪シーンの真っ最中と言うわけだ。

リュシアを責め立てる数々の言葉。蔑みの視線。

ピンクブロンドの髪で、王子の隣に立つ女は、どこか憐れむような、どこか勝ち誇ったような目でリュシアを見ている。

そんな肌を刺すような敵意と侮蔑が充満した大広間。


そんな中リュシアはーー


「ーーラーメンが食べたい」


そう、思っていた。







「アルフォンス?誰それ?」

「この国の第一王子で、お前の婚約者だろ!元だけどな。たった今婚約破棄されたばかりでなんで覚えてねーんだ!」

「知らないわよ。私の世界なんてラーメンかそれ以外しかないわよ。知ってるでしょ?」

「お前、俺の名前は覚えてるだろうな?」

「覚えてるわよ。アーモンドでしょ?」

「違う!ナッツみたいになってんぞ!レイモンドだよ、覚えてねーじゃねぇか!」

「前世の名前は覚えてるから大丈夫よ、ユウト。まあ、そんなことよりあのクソ男でしょ?とりあえず言われた通り断罪イベントまで我慢したんだからもう良いのよね」

「おい!口が悪いぞ!聞かれてたらどうするんだ!せっかくここまで来たのに不敬罪で処刑されるぞ」

「元がラーメンなだけクソの方がマシでしょ。褒め言葉よ。それよりもう自由にして良いのよね」

「……あくまで、常識の範囲内でだぞ。お前に常識を問うのは無駄な気がするが……参考までに何をするつもりなんだ?」

「よくぞ聞いてくれました!ラーメンを作るのよ!」

「そんなことわかりきってるから具体的に教えろ」

「とにもかくにもまずは小麦よ。小麦、小麦小麦。これがないと麺は作れないし、ラーメンは始まらないわ」

「この国にも小麦はあるじゃねぇか」

「はぁ?」

「い、いや、怖いって。目からハイライト消えてるし首があり得ない角度に曲がってるぞ。俺何か間違ったこと言ったか?」

「バカじゃないの?ラーメンに向いてる小麦と向いてない小麦があるのよ。知らないの?常識でしょ?フォーク持つより先に覚えることよね?」

「そんなわけないだろ……」

「この国の小麦で作れるものはせいぜいうどんよ。私はラーメンが食べたいの。乾燥地帯かつ寒冷地、風が強くて草が浅い。そう言うところで採れた小麦じゃないとコシが出ないのよ、コシが!小麦の産地ぐらい把握しといてくれない?」

「無茶振り過ぎるだろ。本物の悪役令嬢よりタチ悪いぞお前。それでどうするんだ?場所の目星はつけてるんだろ?」

「もちろん視察に行くのよ。この国の辺境伯が居るじゃない?あの辺りが良いわ。私はその小麦をここにまで流通させたいのよ。私は一回分じゃ満足できないわ。毎週三十杯のラーメンを食べたいのよ」

「お前の一週間が何日あるのか知らないが、あんな遠いところからここまでか?どれだけコストがかかると思ってるんだ」

「だからそのための街道を引くのよ。ぜーんぶぶち抜いて一直線!いい案でしょ?」

「王国を私物化するなよ。そんなこと勝手にやったら犯罪だからな」

「もちろんお父様とお母様にお願いするのよ」

「公共事業ってことだろ?そんな、たかが一小娘の言うことなんて聞いてくれるのか?」

「大丈夫よ。お父様の不正の証拠と、お母様の不倫の証拠を押さえてるから、きっと快く聞いて下さるわ」

「大事なことだから二回言うが、お前本物の悪役令嬢よりタチ悪いからな」

「小麦の流通が確保できたら次は塩よ!ラーメンと言えば塩、塩と言えばラーメンと言っても過言ではないわ」

「お前ラーメンの食べ過ぎで前世死んでることを忘れるなよ」

「そうなのよね……。いくら食べても太らない体質だったけど、塩分はダメだわ。ラーメン食べられないぐらいなら死んでも良いって思っていたけど、反省してる。死んだらラーメンは食べられないもの」

「死んでもラーメン食おうとしてるけどな今。どこでも塩は貴重だから、お前のラーメンに使ってる余裕なんかないと思うぞ。どうするんだ?」

「簡単な話よ。塩が少ないから悪いの。海を干上がらせるわ」

「聞き間違いだよな?もしくは言い間違いか?この世界にも生態系っていう概念はあるんだからな?」

「誰も海の全てを消滅させるなんて言ってないわよ。そんなわけないでしょ。巨大な塩田を作るのよ。電気があればもう少しやりようがあるのだけどね。この世界ではそれが限界だわ。とにかく生産量を増やすしかないわね」

「まあ、それで塩の生産が拡大できるならどこにとっても有難い話だから良いんだけどな。やりたいことはそれで終わりか?」

「そんなわけないでしょ。私は全てのラーメンをこよなく愛しているけどね、一番好きなのは豚骨なのよ。でもこの世界に豚は居ないから、代わりになるものを探さなきゃいけないわ」

「まあ魔物があり触れてる世界だ、畜産なんて無いしな」

「そう!そうなのよ!その魔物の中にはもしかしたら豚より美味しいものがあるかもしれないじゃない!だから試すわ。とにかく試すわ。冒険者ギルドと交渉して、解体後の廃棄する骨や屑肉は全て買い取るのよ」

「ま、まあ廃棄に手間も金もかかってるだろうし、買い取ってくれるなんてギルドも喜ぶだろうが……」

「それだけだと魔物の種類が偏るから、最終的には自分でも狩りに行かなきゃいけないわね。ドラゴンとか定番で美味しいんじゃないかしら」

「いやいやいや、冗談にも程があるぞ。ドラゴンってなんだか知ってるのか?Sランク冒険者パーティが複数組んで対応する、最大級の国難だぞ。原作でもラスボスの後に出てくる裏ボスだ。それを食う為に狩りに行くとか狂ってるだろ」

「私の脳なんて前世からずっと出汁とスープの塩漬けよ。だからなんだっていうの?全部まとめて煮込んでやるわ」

「何決め台詞みたいに言ってんだ!全然決まってないからな!そもそもSランクの冒険者じゃなきゃ戦う許可すらおりねーよ」

「そうなの?じゃあなるしかないわね」

「そんな買い物行くか、みたいなノリでなるもんじゃないんだよなー。冒険者が一生賭けて目指しても一握りしかなれない憧れなんだよ。そもそもお前、魔法使えるようになったのか?殿下に魔法もろくに使えない無能なんて王妃に相応しくないとか言われてただろ」

「魔法?なんか火とか水とか出たわよ。土とか風とかも動いたわ。でもラーメンは出せないのよ?わかってる?ラーメンを作り出すことはできないのよ!それができないなら魔法なんてどうでも良いわ」

「お前、作中で公式チートの全属性キャラのはずなんだよ。創造魔法とかこのゲームに無いから諦めろ」

「どうせだったら、減塩魔法とか、満腹無効とか、血圧耐性とかが良かったわ」

「血圧耐性とか前世でもそんなスキル聞いたことないからな。普通、剣と魔法の世界に来たら、色々試したくならないのか?」

「火はかまどで十分だし、水は井戸があるじゃない。風は仰げば良いし、土だってこの世界には磁器があるわよ」

「お前が魔法を料理にしか使う気がないことはよくわかった。宝が持ち腐れてもったいないお化けも震えて逃げ出すな」

「あ、でも転移魔法は便利ね。あれがあれば材料の調達すぐですもの」

「……転移魔法?」

「転移魔法よ?」

「………」

「………」


「今、すぐ、ゲームクリエイターに謝れ。お前は今プログラムもゲームバランスもぶっ壊した。ていうかどうやって覚えたんだよ。確かに設定に存在はしたけど、実装されていないぞそんな魔法。理不尽だろ」

「知らないわよ。いちいち採取に行くのも面倒じゃない?パッといければ良いなって思って頑張ったらできただけよ。すごいでしょ」

「すごいけど、すごいとかすごくないとかそう言う次元の話じゃないんだよ。文献にしかないような魔法だし、お前が研究対象になるぞ。軍事の面で見たって、機密が漏れること考えて暗殺まであり得るからな。人前では絶対使うなよ」

「あと回復魔法もできたわよ。欠損も回復できるの。素晴らしいと思わない?魔物一匹捕まえれば、無限に食べられるわよ」

「怖い怖い怖い怖い怖い!なんで回復魔法使って最初に思うことがそんな拷問みたいなことなんだよ!俺の回復魔法のイメージ返してくれ!魔物に同情するだろうが!それも絶っ対人前でやるなよ!」

「何よ注文多いわね。断罪イベントまで我慢すれば好きにして良いって言ったのあなたじゃない」

「まあ……このイベントを終えてヒロインが王子とくっつかないと戦争が起きて国が滅びるからな。俺はやりこんだから知ってるけど、お前この乙女ゲームやったことないんだろ?あんまりシナリオ狂わせるようなことしないでくれよ?」

「私はラーメンが食べられればそれで良いの。逆にラーメンが食べられないって言うんならどんな障害でもぶち壊すわ」

「だよな……わかってた。前世からの長い付き合いだ。俺も協力するから、せめて話は聞くようにしてくれよ」

「ええ、頼りにしてるわよ、ユウト。さぁ、これから視察の準備よ!全部まとめて煮込んでやるわ!」




* 一年後 *




「ん~~~~~!!これよこれ!!どれだけ待ち望んだと思ってるの!湯気が、顔に当たるだけで幸せ。見て、この脂の輝き。黄金よ、黄金。これ以上無いぐらいのこってり濃厚の白濁スープ。甘くキレのある塩味が脳を焼くわ。麺がスープに絡んで、噛み締めるたびにパツッ、サクッと幸福が滲み出てくるのよ」
 
「まさか本当にやり遂げるとはな……いやリュシアはチートキャラだし、お前はラーメンのためならなんでもやるやつなのは知ってたけど………でも確かに美味いな」

「当然でしょ。前世では全部で百八ヶ所のラーメン屋でバイトしたのよ。多少は作れるようになったわ」

「お遍路でもしてんのかよ。人間のこなせる数じゃないだろ。煩悩までラーメンになってんじゃねーか」

「外見以外全部ラーメンよ。外見もラーメンになりたいわ」

「とっくに人間辞めてんのか。それはともかくこれみろ感謝状が山ほど届いてる。辺境伯からは、街道を通してくれたおかげで、不足してた物資が届くようになったって。小麦の件も経済効果が高くて今最大の好景気だってさ。冒険者からも、廃棄処理に金がかからなくなった分魔物を高く買取できるようになって、特に下っ端の生活苦が改善されて治安が良くなったらしい。あとたった一年でSランクまで上り詰めてドラゴンキラーの称号を手にした伝説の冒険者にファンレターも届いてるぞ。

商人からもあるな。塩田を無料開放してくれたおかげで、元手がかからない絶対損のしない取引ができるようになったし、塩の値段が下がって十分な量が市民に行き渡るようになったそうだ。

殿下は、そんな株がストップ高なリュシアと婚約破棄した事を各方面から責められ続けてるって。特に魔法がろくに使えないとか言った相手が、全属性かつ転移魔法なんて使えるだなんて、見る目がなさすぎて王の器じゃないという声が強いみたいだな」

「褒められることなんて滅多にないから素直に嬉しいわね」

「だけどお前人に見せるなって言ったのに転移魔法見せたのか」

「しょうがないでしょ?早くラーメン作りたくて倒したドラゴンを転移させたら見つかっちゃっただけよ。目撃者を全員海の底に転移させるより良いと思ったのだけど」

「わずかでも人間の心が残ってて本当に良かったよ」

「それより良いの?アル…なんとかの、あの色ボケ王子、廃嫡されたら戦争が起きるんじゃないの?」

「元々のシナリオだとヒロインと駆け落ちして表舞台からいなくなるから戦争が起きなくなるんだよ。筋書きちょっと違うけど、廃嫡でも一緒だろ多分。ちなみにヒロインは投獄されてる。平民のくせに貴族のような振る舞いをして許されてたのは、将来の王の寵愛があったからというだけだから当然だな。まあリュシアの護衛騎士風情に出来ることは、全部やったさ」

「なら良いわ。はぁ……おいしかったぁ……そうね、色々私の後始末してくれてたの感謝してるわ。ありがとう、ユウト、大好きよ」

「……はぁ、ラーメン食べたあとだけこれだよ。この言葉とこの笑顔だけで、こき使われる俺も俺だけど。報われないのは前世も今世も変わらなさそうだな」

「次の目標は、国外進出よ!ラーメンを全世界に布教するわ。ユウト、一緒に行くわよ、全部まとめて煮込んでやるわ!」
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