異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第二十話

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 無色透明で、表面に強いガラス光沢。
 柱状じゃなくて、両端が尖ってる両錘りょうすい
 でも、微妙に対称じゃないから三方晶系。
 そんな結晶構造で、小指の爪ほどの大きさと言えば……。

「ハーキマーダイヤモンドですね!?」
「は? 何が硬い?」

 うーん? ここにニューヨークはないから、両錘水晶の方が伝わったかな……?
 いずれにせよ、生物の体内で作られた結晶とは思えないほど、高温高圧下で形成された特徴が出てる。

「これが心臓に……ですか?」
「オレにもある。多分な」

 枝角ウサギを受け取って、黙々と解体してたキイツさんが、内臓を取り出した時に、この結晶を渡してくれた。
 長期間、夜の雫に曝されると体内で生成されるらしい。
 キイツさんは、この結晶を「黒い血の石」って言ったけど、僕には無色透明の水晶にしか見えない。

「よく見てみ」
「黒い何かが……動いてる……?」

 焚き火に翳すと、炭化物の粒状インクルージョンじゃないものが見えた。
 その揺らいでる「黒い何か」は、振ったり、傾けても変化しない。
 って事は、地下水と炭化物が封入された「水入り水晶」でもない。

「この黒いモヤっぽいのは、ひょっとして夜の雫……?」
「たぶん」

 この結晶が体内で生成され、体格や性格が変わってしまった生物を「猛獣」。
 死んだ猛獣の結晶が夜の雫に曝され、黒いモヤとして蘇った凶暴な猛獣を「怪物」と呼ぶそうだ。

「うわ……、僕は猛獣に襲われたのか。よく死ななかったな……」
「運がいい」

 アーヤのお守りが効いたんだ!
 僕が渡したお守りにも、効果があって欲しい。

「怪物はもっと厄介だ……」

 後日、キイツさんの説明を纏め直した。

――小さな結晶でも、結晶全体の色が黒ければ黒いほど、強い怪物として蘇る。
――小さな結晶が複数集まって蘇った怪物は、それぞれの猛獣の特徴を備え、外見にも反映される。
――大きな結晶から蘇った怪物は、更に大きく凶暴になる。
――大きな結晶が複数集まって蘇った怪物は、神・王・勇者にしか倒せない。
――怪物を倒す方法は、体を傷つけて結晶だけの状態に戻すか、結晶自体を破壊すること。
――キイツさん達オーグ族は、猛獣または怪物を倒したり、その結晶を砕くと、「力が手に入る」と信じている。

「でしたら、これはキイツさんに差し上げます。モモ肉と知識のお礼です」
「良いのか……」

 キイツさんは、石の上に結晶を置き、手に持った石で叩き割った。
 それから瞑想のような姿勢で、聞き取れない言葉を呟いてる……。

 やはり、見た目ほど若くなく、辿々しく標準語を話すキイツさんは悪人には見えない。
 恐らく、言葉の壁と、人種の違いから齟齬が生じた可能性は高い。

 とはいえ、死傷者が出たオーグ族と、死者行方不明者のいるミゲルさんの村で、和解できるだろうか?
 領主の弟さんが無事で、オーグ族に悪い感情を持ってなければ、アルトスに仲裁して貰えるかな?
 そうなると良いな。

「我が神に捧げた。ノボルに協力せよと言われた」
「キイツさんの神が……僕に?」

 頷いたキイツさんが、「準備できたら、オレの村に向かう」と言った。
 キイツさんは毛皮の処理をするようだ。

 歯磨きを済ませ、荷物を詰め直してたら、アナさんのパネルが目の前に現れた。
 周りにアナさん姿は見えないけど、何かあったのかな……?

 ああ! いつもの「契約のお知らせ」か! うん、毎回違う曲でも楽しげでいいね。
 内容は……、「まだ、女神アナ(仮名)との契約が完了していません!」から始まる非難めいた長文……。

 いつの間にか、カリーナさんと契約済みになってたこと以上に、心の中の仮称が反映されててビックリ。
 でも、考えが筒抜けだったとしても、言葉で伝えるのは得意じゃないから、手間が省けて良いかも。

 背景の画像は、髪を掻き上げる仕草で、髪と同じ色アピールかな……?
 うーん……、露骨に見せられると、ちょっと違うというか……、フェチズムって意外と難しい……。

 でも、ありがとうございます! 非常にセクシーで美しいです!
 この際だから、アナさんの事と、契約について考えよう。

 まず、僕の命を救ってくれたこと。
 この世界に迷い込んで、どう影響するか分からない僕は、カリーナさんに斬り殺されるはずだった。
 それなのに、カリーナさんと口論してまで、僕を助けてくれたアナさんには、僕も命を以て応えたい。

 次に、生きる方向性を示してくれたこと。
 魔酔いの森で放置されれば、僕はすぐに野垂れ死んでたはずだ。
 そんな僕に地図を示して良縁に結び付けてくれたアナさんには、心から感謝し続けたい。

 それから、僕に何度も手を差し伸べてくれたこと。
 諦めずに何回も声を掛け、何回もカリーナさんを説得してくれたアナさんは、強く、優しく、陽気で、咲き誇るバラの様にあでやかなのに、黙考する表情は理知的で、反対に悪戯っぽく扇情的なポーズを取る姿は、劣情を抱いてしまうほど魅惑的だから崇拝以上に敬愛したい。

 だから……。

「女神アナとの契約が完了しました!」

 びっくりした! アナさんの声だ。
 ボタンを押さなくても契約できたらしい。

「特典として、女神アナから鏡を、女神カリーナから剣を授けます」
「剣はいりません」

 カッターで指先を切った経験すら乏しい僕に、いきなり長剣を渡されても困る。
 でも、このパネルは嬉しいかも。
 鏡だったのは意外だけど。

「ノボル……、それで……いいんか……?」
「何のことですか?」

 枝角ウサギの皮と角を手に持ったキイツさんが後ろに立っていた。

「……いや、いいんだ。それより、皮と肉は買い取る。角はいるか?」
「貰います! ってこんなに良いんですか!?」

 「傷がなくて大きいから」と言われ、十ケイルと角を受け取った。
 一匹で二食分は良い稼ぎって一瞬思ったけど、命懸けだと割に合わないな……。
 それでも、鹿角じゃなくて、兎角アクセサリーは面白そう。

 枝角ウサギの肉は、大きい葉っぱに包んで運ぶようだ。
 あっ、その笹っぽいのは、ミゲル茶に入ってたやつだ!

「キイツさん、その葉っぱは、どこで採れますか?」
「途中のクッと曲がった所だ」

 そう言って焚き火を消し、荷物を担いだキイツさんに、僕は付いて行くことにした。
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