異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第二十一話

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 地球の笹や竹などが、丈夫でしなやかなのは、細胞内に「プラント・オパール」があるからだ。
 オパールと言っても、七色のやつじゃなくて、土に溶けた水晶の成分シリカを吸収・蓄積したものだとか。

 それが細胞でガラス質を形成してるから、笹の葉でも、指先の薄皮くらいならスパッと切れるらしい。
 オパールを調べてたときに知った雑学だけど、この世界では少し事情が違うようだ。

 案内された群生地に来てみれば、まず禍々しさに驚いた。
 黒っぽい茎が、剣山のように伸びて、動物らしき骨を貫いたり、掲げてるからだ。

 地表には、「黒い血の石」の破片が散乱して、モヤも濃い。
 カリーナさんが見たら盛大に爆破するだろうな……。

「葉の根をつまんで取らねぇと怪我する」
「怖い植物ですね……」

 恐る恐る摘みながら、手袋をして来なかった事を後悔した。
 まだ、肌寒さを感じる季節じゃないからと、アパートの玄関に置いてきたんだ。
 
「大丈夫だ。石持ちの四足よつあし以外には、噛み付かねえ」
「そ、そのようですね。この頭骨も犬っぽく見えます……」

 どうやら、この世界の笹らしきものは、猛獣を捕食するらしい。
 キイツさんは四足の猛獣だけと言うけど、群生地近くでしゃがむのは止めよう……。

 お茶用に刻んで使う細い葉と、肉などを包む用の幅広の葉を十分摘んで、リュックに仕舞った。
 キイツさんは草刈り鎌のようなもので、茎の根本から伐採してるようだ。

 アナさんのパネルじゃなくて、僕用の鏡で良いのかな?
 それが目の前に小さく表示された。

<量産型魔神器ハルパー>

 何のことだろう……? 量産された魔の神器?
 キイツさんの草刈り鎌に反応してるみたいだ。

 鏡に触っても変化しないから、これ以上のことは分からないな。
 分からないことを気にしてもしょうがない。
 それより、キイツさんの茎の使いみちが気になる。

「キイツさん、それは何に使うんですか?」
「竹槍だ。ノボルにやる」

 どうやら、笹らしきものは竹で良く、僕は竹槍を装備することになったらしい。
 槍投げは部活でやったけど、槍術は習ったことないから、杖として使わせて貰おう。

 日本の竹と違って、岩に当たると金属っぽい音がした。
 ミゲルさんは、これを物干し竿として使ってたようだ。

「思ったより、傾斜があるんですね……」
「そうか?」

 男二人の山歩きは、黙々と進むものらしい。
 緩やかな上り坂が続いて、息が切れた。

 相変わらず見通しは悪く、暗く、沈み込む地面も歩き難かった。
 あと、どれくらい歩くんだろう……?

「もうすぐ着く」
「良かった……」

 キイツさんが足下の大きめの石に刻まれた傷を見て教えてくれた。
 やはり、漢数字の「一」に見えなくもない。
 一つ前が「二」で、その前が「三」だったから。

「これは距離ですか? 残り一キロ……じゃなくて、単位は何だろう……?」
「里だ! 一里! 読めるってことは、ノボルは殿様と同郷だったか!?」

 里? 昔の単位だっけ……?
 殿様って言うのも、時代劇な感じだし……。

「どうでしょう? 里という単位を知らないので、何とも言えません」
「そうか……? じゃあ、オレの名前を砕けた感じで呼んでみてくれ!」

 キイツさんの名前を砕けた感じ……?
 キイツ……、キイチ……、「キイつぁん」みたいなやつかな?

「キイつぁんですかね」
「それだっ! そう呼んでくれ!」

 びっくりした。
 僕のように、日本から来た人が殿様なのかな?

「ノボル! 村に着いたら殿様に会ってやってくれ!」
「構いませんが……、代わりに捕虜の方たちにも、会わせて貰えますか?」

 キイツさんが快諾してくれた。
 良かった。
 ミゲルさんに少しだけ恩返しできそうだ。

 そう思えば、残りの距離も足取り軽く、すぐに着くかと思いきや、一里は遠かった。
 杖代わりの竹槍に体重を預けて、膝がガクガクになった頃に、ようやく村に入ることができた。

 村の中も暗かった。
 意図的に、高い木に覆われた場所を村にしてる感じだ。

 ちょうど、夕餉の時間だったらしい。
 村の中央でキャンプファイヤーをしていた。

「あの辺が捕虜らだ」
「普通に生活してるんですね」

 オーガと結婚して、この村に帰属した者もいるのだとか。
 オーガ? 確か、「鬼」だったようなと思ってたら、オーグの男性だと教えてくれた。

「オレの嫁もだ。そこにいる」
「キイつぁん、既婚者でしたか。しかも、奥さん美人ですね!」

 和服とは少し雰囲気が違うけど、老舗旅館の美人女将といった感じで配膳をしていた。
 上品で妖艶な人妻オーラが眩しい……!

「羨ましいです。あんなに美しい奥さんがいたら毎日楽しいでしょうね……」
「そうか……?」

 奥さんの名前は、サリヴェラまたはサリウェラさんらしい。
 キイツさんは上手く発音できないようだ。

「オレはサリと呼ぶ」
「そのサリさんと一緒にいるのは……?」

 オーグの女性で「オーグリス」と呼ぶそうだ。
 キイツさんと同じ肌色で、細長くて、スタイルが良い。

「あれが殿様だ」
「普通に生活してるんですね」

 時代劇は見たことがないから詳しくないけど、殿様と言えば、お城の奥の方にいるイメージだ。
 でも、この村の殿様は、キャンプファイヤーで魚を焼いてる……。

 それに、この殿様の外見は、どちらかと言えば、僕やオーガよりも、捕虜の男性に近い。

「キイつぁん。ひょっとして、殿様は捕虜の人ですか?」
「いけね。言ってなかったか」

 額をペチペチ叩きながら、「アルティス家次男のキアル様だ」と教えてくれた。
 ついでに、サリさんはキアルさんの母の妹の末娘で、女官長のような役職らしい。

 どうやら、ミゲルさんから「オーグ族の人質」と聞いてた領主の弟キアルさんは、「オーグ族の殿様」になってたようだ。
 その名前も容姿も日本人とは思えない殿様が、こちらに気付いて声を掛けた。

「キイつぁん! やっぱり、いくさかい!?」
「いや、殿様、違った! このノボルが落ちて来ただけだ!」

 キイツさんが大声で言った「ノボルが落ちて来た」は、大勢が聞いて広まったらしい。
 後に、「落ちて来た登る」に転じて、あらゆる所で耳にする事になる。

「登るとな!?」
「そうじゃねえ、ノボルだよ、殿様」

 軽く挨拶を交わし、キイツさんが事情を説明してる間に、捕虜の様子を見てみた。
 やはり不当な扱いを受けてる感じはなく、子供連れのカップルもいるようだ。

 四十代くらいの人は肌色が薄紫で、殿様もそれに近い。
 二十代以下になると、かなり濃くなって、眼球と、たぶん歯の色でしか見分けが付かないかも。

 うーん……、周りが猛獣だらけの孤立した村に捕まったら逃げられないから、アーヤ達のような種族問題を解決するために、誘拐した可能性もまだあるけど……。

「ノボル、メシ食うか?」
「あ、はい。頂きます」

 そう言えば、長時間歩いて体力を消耗したせいか、かなりお腹が減ってたんだ。
 キャンプファイヤーを囲んで、大勢の人と夕食を食べるのは初めてだけど、お祭りってこんな感じなのかな?
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