異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第三十一話

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 食事の席から、フリーマーケットのように店が並ぶ広場が見えた。
 その入口に、小さな祠と看板らしきものがある。
 時折、祠の前で跪き、両手の掌で自分の顔を覆って、俯き加減で祈りを捧げる人がいた。

「あれが、ひょっとして……」
「女神アイディスの信者」

 光を断ち、闇と一体になる祈りの姿勢なのだとか。
 キシラ達は祈ったことが無いという。

「祠に祀られてるのは……アイディス像?」
「ううん。闇石」

 なにそれ気になる!
 ドライフルーツが入ったクリームチーズのケーキを食べ終えたら、見に行ってみよう。

 因みに、デザートは別腹でペロリと食べられて、幸せな気持ちが溢れた。
 小アナさんの体が喜んでるようだ。
 やっぱりアナさんは可愛い。

「向こうのテーブルの奴らが、ノボルに色目使ってるぜ!」
「そうかな? よく目が合う感じはしたけど……」

 オーグリス二人と捕虜の女性二人の組み合わせだ。
 年齢は、キアラと同世代か少し若いくらい。

「きっと、高いメニューを頼んだから珍しいだけだよ……」
「お花持って来る方に賭けた!」

 キイラが持ち掛けて、キシラは持って来ない方に、キアラは持って来る方に賭けた。
 何で花なのか、どうして賭けになるのか聞いても、「今に分かる」としか答えてくれなかった。

「美味しかった! 友達というか、気兼ねなく話せるグループで食事をするのは、結構楽しいんだね」

 コーヒーのような苦味のある濃紺の飲み物を啜って感じた率直な思いだ。
 それに対して三人は、「集団プロデサだと思ってた……」と微妙な反応。

「集団? うん、じゃあそれで! 集団でする食事は楽しいね!」
「「「やった!」」」

 ガッツポーズまで取って、三人とも喜んでくれたなら良かった。
 食器を片付けてくれると言うので、僕は祠を見に行くことにした。

「……なにこれ怖い……!」

 祠の中に祀られてた闇石は、小さな座布団の上で鎮座する、親指大の黒曜石だった……?
 黒曜石だと思う……。
 黒曜石だよなこれ……!? 

 こちらを向いた綺麗な断面には加工された痕跡がなく、恐らく原石を半分に割っただけ。
 なのに、どういう訳か、その断面は光を全く反射してない……。

「……こっちを……見てる……?」

 そんな不安を感じた。
 暗い瞳に見つめ続けられる様な、心の奥底まで覗き込まれる様な……。

「それに、ここ、なんか寒い……!」

 心なしか、この周辺だけ薄暗く感じるし、祠の方から冷たい空気が来る。
 石の側面を見たいなという思いはあっても、小アナさんの体が後ずさりを始めた。

「あ、あの……?」
「ひゃい!」

 突然、後ろから声を掛けられて、変な声が出た。
 慌てて振り向くと、一輪の白いバラを手に持った捕虜の女の子が立っていた。

 食事のときに、奥のテーブルにいて、何回も目が合った子だ。
 オーグリスと違って頬を紅潮させて……って、何で!?

「ま……待ってます……!」
「えっ!? 待つって……?」

 僕の手にバラを握らせて、走って行ってしまった……。
 棘のない茎に、紙が結びつけてある……?

「「白バラだ!」」
「チッ! 強気に出たわね……!」

 看板らしきものの後ろから、三人が出てきた。
 そっか、キシラが賭けに負けたんだね……ってそうじゃなくて!

「あれはどういう意味!?」
「夜のお誘いに決まってるでしょう!」

 ええっ……! じゃあ、この紙は……?
 ああ……、本当だ……、彼女の名前と部屋の場所が書いてある……。

「良かったね! トウカちゃん!」
「えっ! 何で!?」

 この三人に、いみなは伝えてなかったはず!
 女の子に告白されたり、諱がバレたり、ちょっと混乱してきた。

「トウカ。可憐なバラの化身。紅く燃ゆる情熱。どうかその蕾を愛でさせておくれ。カイラ」
「ゾワッと来た!」

 どうやら看板らしきものは、掲示板だったらしい。
 太めの竹を短冊に加工して、白文字で縦書きしたものを掲載するようだ。

「でもさー、何でトウカ?」
「親が女の子を欲しがって決めてたからだよ……」

 三人とも、「オーグリスとは逆だ!」という。
 カイラについては、「あれでも昔はモテた」とのことだった。

「見て見て! トウカちゃん! オーガにもモテモテだよ!」
「いや……、嬉しくないから……」

 掲示板の大半が、小アナさん関連だったそうだ。
 その小アナさんの体は、ここから離れたがってるようだ。

「あと、二ケイルあるから、お店を見て回りたいんだけど……」
「「「行こう!」」」

 古着、食器、雑貨、籠、トラバサミ、武器と防具、日用品……、あった! サンダルだ!
 値段が書いてないけど幾らなんだろう?

「そのサンダルは幾らですか?」
「ケイルかい? それなら、長い方が五で、こっちの短いのは三だ」

 紐の長さで値段が違うのか……。
 長い方の利点を尋ねたら、長距離歩いてもズレにくく、疲れないそうだ。

「あまり歩かないので、短い方で良いんですけど……、持ち合わせが二ケイルしかなくて……」
「いいよ! お嬢さん可愛いから、そのサンダルも喜ぶさ!」

 やった! 一人で買い物ができた!
 キアラには、「トウカちゃん! 値切るの上手だね!」とからかわれたけど、僕は大満足だ。

「これくらいあったよね?」
「あった! ここを削って、返しを付ければ、あのゴリゴリ感を再現できそう」

 キシラとキイラは、すりこぎ棒を買ったようだ。
 でも、何で「顎が疲れる」って話になるんだろう……?

「キアラは買わないの?」
「うん……、後でね……」

 何故かキアラが紫潮して俯いてしまった。
 買い物が苦手なのかな? 何に照れるのか分かりづらいな。

「そろそろセスタだって!」
「どうなるの?」

 今日の販売は終了らしい。
 あれだけ密集してたオーグリス達も、まばらになっていた。

「ノボルじゃなくて、トウカちゃんも部屋に戻れるよ」
「待ち伏せされない?」

 オーグにとって、セスタは聖と光の時間だから、色事は慎むそうだ。
 暗黙のルールというより、禁忌が近いらしい。

「たぶんセスタ明けには、と思うから、殿様かキイツさんに会いに行こうと思う」
「叔父さんの所なら、あたしも一緒に行く。この辺で待ち合わせね!」

 キシラ達を見送ってから、南の木でトイレと歯磨きを済ませた。
 帰り際に、勾玉をくれたハーフ・オーガの子と出くわしたけど、満面の笑顔は一瞬で、半泣きになって走り去ってしまった。

「どういうことだろう……? 勾玉を無くしたことに気付いた感じでもないし……」

 そろそろ眠くて頭も働かないし、考えても分からないから、気にしないようにしよう。
 昨夜泊まるはずだった一軒家に戻って来たのは、すごく久し振りと思いながら、引き戸を開けた。
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