異世界カボ屋の覚え書き

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魔酔いの森

第三十話

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 太ももから蹴り出したキアラが、今度は背中に覆い被さって、モゾモゾしてるけど気にしない。
 スケッチブックを遡って、ミゲルさんから聞き書きした所をみつけた。
 そうだ! ミゲルさんの父ゲイルさんと、奥さんのリアさんの手掛かりも探すんだった!

「あった、ここだ! 『夜の雫は千年前から見られるようになった』って書いてあった!」
「あたし達の先祖が、この世界に移動させられたのも、たぶんその頃……」

 「その日、空が割れ、竜が現れ、光と熱の地に至る」というのがオーグの最初の歴史だそうだ。
 これについて、後に信士が神託を受け、「我らは、理不尽な光の陣営による恣意的な国替えの被害者だ!」と布教したらしい。

 それ以降、オーグは、「王にまつろわず、光にあだなし、故地を目指す」というスタンスなのだとか。

「それじゃあ、この世界に望んで来た訳じゃないオーグは、元々住んでた世界に帰りたいんだね?」
「たぶんね……。少なくても、叔父さんはそう言ってる……」

 ただ、キシラ達からすれば、「怪物一匹倒せないのに、何言ってるの?」だそうだ。
 そう思う理由は、先祖が、「故郷は、怪物溢れ、猛獣多し」と書き残してたからだという。

「キシラ達は、この世界に留まりたい?」
「んー。どっちとも言えないな……」

 キイラも同様で、キアラは「ノボルがこの村にいるなら、ここでいい」だそうだ。
 キアラのくせに、ちょっと嬉しいことを言ってくれる。

「キアラのくせに……」
「なんでだよう!」

 大体の歴史と宗教の話は聞けたかな。
 あとは……、あっ! お腹減ったかも。

「お腹が減った感じがするんだけど、この時間に食事って変?」
「セスタが近いから、そうでもない」

 キイラもお腹が減ってたようだ。
 この時間は、キャンプファイヤーではなく、個別に屋台で食べると教えてくれた。

「お金いる?」
「あれば沢山食べられる。無くても普通に食べられる」

 折角だから、試しに、キイツさんから貰ったお金を使ってみよう。
 他にも、出店があるらしいから、それも見てみたいな。

「じゃあ、オーグリスと捕虜の女性が一緒にいるのは変?」
「カップルもいるから、変じゃない」

 オーグリスと捕虜の女性のカップル?
 聞き直すのはやめよう……。

「それじゃあ……、奢るから案内してって言ったら……?」
「「「行くっ!」」」

 良かった。
 誰かを誘うのは初めてだから、断られたら、それなりに落ち込む所だった……。

「うわぁ、オーグリス密度高いね……!」
「この時間はいつもこんなもん」

 キイラ曰く、オーガの大半は狩猟班に属し、この時間は出先で現地調達したものか、保存食を食べるそうだ。
 捕虜の男性は高齢者が多いため、捕虜の女性が届けたものを自室で食べるらしい。

「カイラと鉢合わせる事は……?」
「ない」

 討伐班の見廻組は、既に食べ終え、村の外周を歩哨してるからだとか。
 あと、討伐班には、遠征組に属する人もいるらしいけど、三人とも詳しくは知らなかった。
 キシラ達のような非戦闘系のオーグリスと捕虜の女性は、当番制で調理班に属するという。

「キアラが料理って……どうなんだろう……?」
「それがさ、こいつ、魚捌いて焼くのすげー上手いんだ」

 キアラが顔の紫色を濃くした。
 外が明るいから分かったけど、オーグという種族は、顔を「紅潮」ではなく「紫潮」させるようだ。
 照れる仕草は人と変わらないから、ちょっと面白い。

「ちなみに、ノボルの魚も、キアラが焼いたの」
「そうだったんだ! ありがとう、キアラ。あれは美味しかった!」

 ますます紫潮して俯くキアラをからかいながら、キイラが僕を「変だ」と言った。
 キシラもそれに同意して、理由を説明してくれた。

人の男性ナーラは、オーグリスを好まないし、お礼なんて言わないし、そもそも話そうとしないよ」
「それはきっと、『膝を折られるかも』って怯えてるからだと思うよ」

 三人とも理解できないらしく、議論が始まった。
 どうやら膝を折るのは愛情行為で、「治療しながら絆を育み、立てる頃に子が生まれ、歩ける頃に子が独り立ちする」という理想の家庭を築くための神聖なプロセスと考え、男性にとっても光栄な事と信じてるようだ。

 なるほど、これは確かに、「魔」に属する者の「善」の価値観と考え方だ。
 僕は経験豊富とは言えないし、結婚とも無縁だったから見当違いかも知れないけど、人の結婚観を伝えてみた。

 「良好な関係を築ける相手と将来を約束し、誓いを立てて婚姻し、収入に見合った家庭を築く」というものだ。
 これに対する三人の反応は、「そんなの言葉だけじゃん!」というものだった。

「この食べ物と一緒で、形がなければ、満足は得られないでしょう?」
「それは、その通りなんだけどね……」

 列に並んでた僕たちの受け取る番が来た。
 僕はメニューと注文方法が分からなかったので、彼女たちに任せた。

「食べられる側の気持ちって言うのかな……」
「そんなの喜ぶに決まってるじゃない!」

 新しい命として統合されることは幸せなのだそうだ。
 何となく、「黒い血の石が複数集まって……」の件を思い出した。

 魔に属する者特有の考え方なのかもしれない。
 説得を諦めるというより、そのままの方がオーグリスらしくて良いと感じた。

「これはウサギのソテーかな?」
「たぶん……」

 オーグの村は物価が安いようだ。
 それでも、三人は、「一番高い二ケイルのメニューは、自分では絶対に注文しない」とのことだった。

 そもそもケイル自体が、殿様を中心とした側近と、キイツさんの様なアルトス寄りの幹部にしか流通しておらず、アルトスの味を再現した高額メニューも、彼ら向けなのだとか。

 さっぱりとしたガーリックソテーに、付け合せで、塩コショウのマッシュポテトと、バター炒めの人参に、青味掛かったこれはアスパラガスかな?

「甘くて美味え! こんなの初めて食った!」
「これは結構ボリュームがあるね。みんな少し手伝って」

 小アナさんの体は少食のようだ。
 その反面、猛烈に赤ワインを飲みたくなった。
 アナさんのゴージャス感は、そんな食生活で磨かれてるに違いない。
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