異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第二十九話

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 まだ、キシラ達は戻ってなかった。
 だからと言って、自慰をするつもりはない。
 あんな目にあった後で、気持ちを切り替えるなんて、僕には無理。

 かと言って、何もしないと暗い気持ちになるから、森の中での出来事をまとめよう……。
 書きたいことは沢山あるけど、何から書こうかな……。
 猛獣と怪物、猛獣を捕食する植物、オーグ族、殿様、捕虜、和食、討伐班、勾玉……。

「あっ! もらった勾玉なくした!」

 きっとカイラに襲われた時だ……。
 探しに行くの嫌だな。
 元の体に戻ってから考えよう。

「ノ・ボ・ル・ちゃーんっ!」
「キアラやめろ」

 帰ってきたキアラが、僕の背中にのし掛かって、捕虜の下着で目隠しをした。
 「怒るなよう!」などとブーブー言いながらも、降りる様子はない。
 それなら、無駄かも知れないけど幾つか聞いてみよう。

「ねえ、キアラ。殿様は、北のアルトスや南の村と交流することは考えてないの?」
「ないんじゃん」

 オーグの認識では、森の北部は猛獣エリアで、南部はフィシキ族のテリトリーなのだそうだ。
 フィシキ族の大半は、森の西部のプシク族だけでなく、オーグの自治も認めていない。
 その一方で、プシカリウス自治区のプシク族は、オーグがフィシキ族と交渉することを認めないのだとか。

「プシクの商人と、フィシキの職人はたまに見た。ちょいグロ!」
「うーん……」

 紛争被害を「許す、許さない」だけの問題じゃなかったのか……。
 キアラにマッサージを要求したら、「ソフトレズ的な!?」と勘違いされたけど、意外にも応じてくれた。

「じゃあ、東側って何があるの?」
「んー、分かんない」

 森の東側は高温地帯で、オーグには厳しい環境なのだそうだ。
 オーグが薄着なのは、種族として暑がりだからのようだ。

「それじゃあ、キアラは、セントーとセントーリスをどう思う?」
「なにそれ?」

 特徴を説明したら、「なにそれ!? かっけー!」という反応だった。
 どうやら、オーグはかなり閉鎖的な生活をしてるらしい。

「あとは……、オーグの歴史と宗教かな……?」
「それは無理! キシラに聞いて!」

 まぁ、そうなるよね。
 キアラだし。

 ただ興味深いのは、僕のスケッチブックを見ても、白紙と黒文字以外に違和感はないそうだ。
 全部は無理でも、幾つかの単語は理解できた。
 殿様が広めてるのかも。
 当座は十分聞けたかな。

「ありがとうキアラ。お礼にして欲しいことはある?」
「うーん……? お……、お、お姉ちゃんプレイ……?」

 ん!? それは、一体何……!?
 背中でモジモジ動くキアラに聞き直そうとした所で、玄関の開く音がした。

「お! レズってる?」
「キアラ! 盛りすぎ!」

 キシラとキイラが一緒に帰ってきた。
 神雷騒ぎに僕が関係してると思って、河原まで見に行ったそうだ。

「何で分かったの?」
「だってノボルは『光の眷族』でしょう?」

 光の眷族……? アナさんやカリーナさんとの契約のことかな?
 キシラが続けて種明かしをしてくれた。

 一、若い女性に手を出すことで有名なカイラが被害者だった。
 二、これまで、カイラに手を出された女性はいても、神雷は一度もなかった。
 三、カイラが神雷に打たれたのは、僕が女性化して河原方面に行ったタイミングだった。
 四、決め手は、「河原への道で見た美しい赤髪の捕虜の少女」を探すオーガが広場に複数いたこと。

「キシラすごいね」
「まあね! あ、でも、カイラ死亡は外した! とどめ刺しに行く?」

 僕はそこまでは望まなかった。
 今後も、カイラに手を出されて悲しい思いをする女性が出るのは忍びない。
 それでも、今回の一件は、僕の負け戦に、アナさんが適切に報復してくれたから、それで十分。

「ううん。それより、怖い思いをしたんだから、三人で労って!」
「「ソフトレズ的な!?」」

 うーん……、オーグリスって……。
 それより、キシラの話で、アナさんの美貌が、オーガにも通用するって分かったのは収穫だ。
 オーグは「闇の眷族」かも知れないけど、アナさんを信仰する余地はありそう。

「ねえキシラ。さっき僕を光の眷族って言ったよね。するとオーグは闇の眷族になるの?」
「たぶんね……」

 仰向けになって三人掛かりでマッサージされると、小アナさんの体は、あっちこっちにゆっさゆっさすると分かった。
 隙を突いて、太ももの間に顔を入れようとするキアラをブロックするのも一苦労だ。

 キシラによれば、オーグ全体で見れば、アイディス信仰は廃れてきてるそうだ。

「アイディス?」
「わたし達の故郷の闇の女神だよ」

 キイラが教えてくれた。
 その女神アイディスに祈りが届かず、声が聞こえなくなって久しいのだとか。

「あれ? キイツさんは、黒い血の石を捧げて、声を聞いてたような……」
「叔父さんは女神さまの使徒だから」

 衝撃の事実だ!
 キシラはキイツさんの姪で、キイツさんは闇の女神の使徒!?

「勇者じゃなくて……?」
「ああ……、叔父さんからもう聞いてた?」

 「詳しくは……」と僕は曖昧に首を振った。
 キイツさんの個人情報をアナさんの鏡で知ったとは言えないし、女神ジョークと思ってたから……。

「叔父さん達が、この地に移動することになった原因は、怪物なんだって……」

 キイツさんは、その怪物の討伐を女神アイディスに強く願い、祈りを捧げて使徒となり、代償を払って勇者となった。
 その結果、撃退には成功したものの、痛み分けの形で、破壊された村からの移住を余儀なくされたそうだ。

 後日、復活した怪物が大量の猛獣を率いて、この村に侵攻したことを後に、「南アルティスの惨害」と呼んだ。
 思った以上に重い話だった。

「でもさ、あたしには、女神アイディスの所為にも思えるんだ……」
「どうして?」

 後日、キシラがそう思う理由を纏め直した。

――女神アイディスは、「光の地」を侵略するために、「夜の雫」を降らせている。
――その結果、「闇の地」は拡大したものの、それに伴って、大型化した猛獣が増加傾向にある。
――猛獣は、「光の地」を忌避するため、オーグを含む「闇の地」の住人だけが実害を被る。
――近年は、猛獣の撃退に成功しているが、瀕死の状態で巣に戻って死に、怪物となって戻るリスクは高まっている。
――これについて、信者たちは「女神アイディスの試練だ」と言い、キイツさんは「帰郷を諦めた罰だ」と言っている。

 またもや衝撃の事実だ!
 小アナさんの体で、うつ伏せになってメモを取ると、筆跡が美しい上にスラスラ書ける!
 でも、胸が押しつぶされて、息が苦しい!

 いや、そうじゃなくて、夜の雫だ!
 この事実を知る人は、かなり少ないんじゃないか!?

 確か、ミゲルさんから聞いた話をメモしてたはず。
 いつの間にか、太ももの間に顔をうずめ、「ムホーッ!」と叫ぶキアラを踵で蹴り出し、僕はページを遡った。
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