異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第三十三話

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 あ! これは、ひょっとして金縛り!?
 足が開かないのは……ああ、スカートか……。

 そうだ、捕虜の服のまま眠ってしまったんだ。
 セスタの途中で、元の姿に戻ったようだ。

「服を脱ぐことも忘れてたのか……」

 そう言えば、カリーナさんは、僕が小アナさんの姿でも、気にならなかったのかな……?
 言葉に出さなくても伝わるくらいだから、案外、今の姿に見えてたのかも……。

「このタイトスカート状態に見えてたら、ちょっと恥ずかしい……って、あれ? 脱げないぞ……!?」

 これは……!? 思ったより大変な事態かも!
 着替えるだけで、こんなに負荷が掛かるとは……。
 布団を仕舞ったら、顔を洗いに行こう。

「この白いバラは……」

 そうだ、闇の女神アイディスの祠の所で、捕虜の女の子から貰ったんだ。
 小アナさんの体だったから、どうすることも出来なかったけど、傷付いてないと良いな……。

 捨てるのも可愛そうだから、一輪挿しに飾ろう。
 ペットボトルの水をあげれば、元気になるはず。

 ……祠と言えば、祀られてた黒曜石は親指サイズだった。
 もしかしたら、僕の持ってる拳サイズのが、お世話になったお礼になるかも。
 あとでキイツさんに渡すことにしよう。

 タオルを追加した村人セットの袋を持って、サンダルで外に出ても、もうオーグリスの人だかりは無かった。
 キシラ達の説得が効いたようだ。

「まだ少し、早かったかな……」

 身繕いを終え、セスタ前に店があった広場に来た。
 屋台の骨組み以外は片付けられ、高齢の捕虜の男性が数人で掃き掃除をしてる。
 ミゲルさんの父ゲイルさんと同世代と思われるから、挨拶がてら聞いてみよう。

「南のゲイルさんか……。本当に良い人だったよ……」

 五年ほど前に、老衰で亡くなったそうだ。
 生前は、捕虜の代表として、アルティスとオーグの双方と交渉し、捕虜の地位向上に尽力してくれたという。

 ミゲルさんの父親らしい立派な方だったようだ。
 墓はこの村の南側あって、遺品は義理の娘リアさんが受け取ったらしい。

 そのリアさんは、鉱山の捕虜の世話に行ってて、ここには居ないそうだ。
 ゲイルさんのことは残念だったけど、ミゲルさんの奥さんの消息が分かって良かった。

 この村を出発する前に、墓参りをしよう!
 そうだ! ミゲルさんから貰ったお金でお供え物を買おう!

「あ! ノボルだ! トウカちゃんじゃない!」

 そう言って背中に飛び乗るのは、キアラだね。
 小アナさんの時とは違って、大した重さを感じないから、おんぶしたまま振り返った。

「おはようみんな」
「「ノボル!」」

 キシラは、先にキイツさんの所に寄って来たそうだ。
 と言っても、既に出仕してて会えなかったという。

「怪物が出たんだね……」
「何で知ってるの!?」

 カリーナさんに聞い話から予想したとは言えない。
 昨夜、キイツさんが色んな人に声を掛けて回ってたから何となくと答えた。

「会議が終わるまで会えないけど、どうする?」
「この時間は、あの屋台くらいしか開いてないか……。それじゃあ……」

 屋台でクレープとお好み焼きの中間のような軽食を買って、河原に行く。
 戻ってきて、お店が開いてたら、お供え物を買って、森の南に墓参りに行く。
 それから、殿様かキイツさんに会いに行く。
 そんな予定を伝えてみた。

「それいいね!」
「行こう!」

 驚いたことに、屋台のメニューは一つしか無く、しかも無料だった。
 理由を聞いても、それが当たり前だから考えたこともないそうだ。

「沢山得る人が、沢山食べるものじゃないの?」
「僕の世界では、『食べるために働く』だったよ。この世界で言えば、毎日セスタよりも長時間働いてた」

 長時間働いて得た金で、毎食買わなければならないのが信じられないらしい。
 狩猟採集では養いきれない人口というのも想像が及ばないようだ。

「ノボルの世界に行きたかったけど、ちょっと無理そう……」
「それが良いよ。僕も絶望してたくらいだから」

 日本の生活で、僕が理解できる範囲なんて、たかが知れてる。
 でも、一人暮らしをして、収入の大半が生活費で消えてたのは事実だ。

 その上、リストラ話が出てたから、生活費すら捻出できなくなるのは時間の問題だった。
 その一方で、僕の両親のように、働かない高所得者がいるいびつさも知ってる。

 キアラをおんぶして、キシラとキイラに左右の腕を絡め取られ、そんな話をしながら河原まで来た。

「ここあちー!」
「そうかな? 風が涼しくて、過ごしやすいよ」

 河原と言っても、かなり手が入っていて、洗濯する場所や、染め物の染料を洗い流す場所があった。
 日向で作業してるのが捕虜の人達で、日陰はオーグの人達だ。

 向こう岸には、青灰色の粘土を練ってる人が見えた。
 四角く加工したものが日陰に干してあるからレンガかな?

 レンガだけじゃなくて素焼きも、ここで作ってるようだ。
 河岸段丘に掘った横穴が窯らしい。

「なんかいいな……。こういう風景って見たことないから新鮮」
「変なの!」

 キアラは暑さでご機嫌斜めのようだ。
 キシラたちも日陰から出ようとしない。

 染め物を洗ってた人達が休憩に入り、僕たちにも飲み物を勧めてくれたので、一緒に軽食を食べることにした。

 クレープ風お好み焼きは、見た目通りの味だった。
 ほんのりメープルシロップ味の生地に、醤油煮の鶏肉と野菜が入って、「これはこれで……」という感じ。

 飲み物は、樹液の発酵飲料だとか。
 微炭酸と微アルコールで、香りにちょっとクセがある。

 染屋さんから聞いた話では、ここで染めた反物は、プシクの商人を経由して、フィシニウス領で着物に仕立てられるそうだ。
 オーグの村は、毛皮と繊維と染色に強くても、縫製が弱いため、布団や服は、フィシニウスに外注してるとのこと。

「自治は認めないのに、受注するって不思議な感じ」
「猛獣が森から溢れ出ないようにしてるんだから当然じゃない!?」

 島国出身だからかな? 地続きで国境がある地域の関係性を理解するのは難しい。
 それ以前に、プシカリウス自治区とプシク族の実態も分からない。

「プシク族ってどんな人達?」
「よくわかんない連中」

 染屋さん達も同様だけど、「良く分からない人達と取り引きを?」とは聞かないようにしよう。
 ここで得た教訓は、「自分で見て判断すること」だから。
 プシカリウスにもいつか行こう。

「そう言えば、この辺で勾玉を作ってると聞いたんですが……」
「ああ、もう少し下流の、石切り場んとこだ」

 僕達は、飲み物を頂いたお礼を言って、下流を目指すことにした。
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