異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

文字の大きさ
37 / 66
魔酔いの森

第三十七話

しおりを挟む
 三人の若いオーグリスを近くで見た印象は、鋭い感じだ。
 収縮した瞳、傷だらけの手先、筋肉質なふくらはぎ、わずかに紫が濃い肌色。

 キイツさんの紹介によれば、大きい順にケウナ、ケレン、ケラニだそうだ。

 頭に長い布を巻いたケウナは、女子プロレスラーのような羨ましい体型。
 その肩に担いでるのは……、長い柄の先に、肩幅よりも広い盾状の、いや、盾でいいのかな?
 総金属製の柄の付いた盾。
 そんな不思議なものを軽々と担いだ上に、沢山の荷物をコンパクトに纏めた背負子まで背負ってるようだ。

<魔神器アイギス改>

 おお! 僕の鏡に、赤背景の警告が出た!
 ケウナが担いでる盾に反応したようだ。
 キイツさんの草刈り鎌のときは、赤背景じゃなかったし、「量産なんとか」だった気がする……。

「こっ……、これは……、くっ、く、くわだっ! みっ、見たいか!?」
「良いの? 片手で持てて凄いね! 腕の筋肉も凄い!」

 緊張気味のケウナが全身紫色になったのは、腕にちょっと触ってしまったから……?
 キイラが舌打ちしたけど、聞かなかった事にしよう。

「綺麗なレリーフ」
「う……、う、うむ」

 盾の表面には、ライオンっぽいたてがみの生き物が浮き彫りされてる。
 鼻にシワを寄せ、鋭い牙を剥き出してるけど、耳の形が羽っぽいからライオンじゃないらしい。

「槍を兼ねて、石突まであるんだね。見せてくれてありがとう」
「う……うむ! い……いつでも、見せる……!」

 槍の穂先は、ライオンの額から突き出た角だ。
 穂先から柄までが一体化して、盾の下側は雫型。
 ケウナが「鍬」と呼ぶ理由は、盾の下側が鋭く、土を掘るのに適してるからかも。

「自分は鎌だけです」

 ケウナとのやり取りを見てたケラニが自己申告した。
 嘘だ……。

 「そう思った」としか言えないけど、一番小さいケラニが一番危険だと感じた。
 表情を見ようとしても、目元は頭巾で見えなかった。

<量産型魔神器ハルパー>

 俯き気味のケラニが、おずおずと差し出してたそれは、キイツさんのと一緒だ。
 僕が知ってる草刈り鎌よりも、カーブが深く、先端が鋭く、物騒な感じに見える。

「私は無視していい」

 キイラが魔女と呼んだケレンは、特に何も持ってないらしい。
 どちらかと言えば、頭脳派に見えるけど、猛獣のいる森に入っても大丈夫なのかな……?

「頼りなく見えるが、この子らも奥まで行ける」

 できれば、カイラの隊を同行させたかったそうだ。
 それは……、トラウマ的に良くないから、良かった。

「保存食らは、この子らが持つ。準備できたら、声掛けてくれ」

 キシラ達に別れの挨拶をする流れのようだ。
 その三人が近付いてきた。

「三人とも、別れを悲しんだりはしないよね?」
「当然! わたし達はノボルの集団プロデサだから」

 意外にもキイラが先に抱きついてきた。
 キイラの長い舌で弄られるのは意外と嫌じゃない。

「その辺でいいでしょ! 次、あたし!」

 キシラが僕をひったくって抱き寄せた。
 あまり舌を絡めず、「すぐ戻ってきて!」などと囁くのは、ちょっと反則。

「最初に飛び付いてくるのは、キアラだと思ってた」
「う……うん……」

 モジモジしてるキアラを抱き上げて、顔を覗き込んでみた。
 目を泳がせてるから、何か言いたい事があるとみた。

「キアラは、僕に何でも言える子だったはずだよ」
「うん……。あの……馬の……、セントーリスの人は、ノボルの恋人?」

 ああ! 絵のアーヤのことか。
 僕は、「そうなれればいい」と本心を伝えた上で、彼女達の事情を話した。

「じ、じゃあ! うん、なら大丈夫! ノボルはノボルだ!」
「分からないよ……」

 元気を取り戻したキアラが、辿々しく舌を絡ませた。
 うん、元気なキアラが、キアラらしくて良い!

「ホント済まねえなノボル……。せっかく、行き遅れの姪っ子らが……」
「叔父さん! それはいいでしょう! ノボルも早く行きなさいよ!」

 あああ……、キシラ達が、僕に夜這いを掛けた理由は、それか……。
 まあ、いいんだけど……。

「それじゃあ皆さん、お世話になりました。また会いましょう!」
「「「ノボルまたね!」」」

 僕は、魔女のケレンと並んで歩くことになったようだ。

 遥か先にいるのが、小さなケラニ。
 ケウナの背負子から弓矢を取り出して、あっと言う間に見えなくなった。

 僕たちの前には、盾を担いだケウナ。
 レリーフが、後ろ歩きしてる様にも見える。

「何か……、目が合ってる気がする……」
「持ち主と一緒でノボルを狙ってるのよ。夜中にペロリと食べられてしまうわ。性的にね」

 感情を込めずに話すケレンは、何を考えてるか良く分からないタイプだ。
 僕を避けるでもなく、受け入れるでもない感じ。
 ケレンから話し掛ける事は少なくても、僕の話には冗談交じりに返事をする。

「ノボルはお人好しなの? それともただのアホ? あんなに貴重なものを簡単にあげてしまうなんて」
「闇石のこと? うん、それならアホだと思う。価値を知らないし、お礼のつもりで渡したから、見返りなんて考えもしなかった。それに、もう一つあるから構わないよ」

 ケレンが、「はああ……、お人好しのアホだわ……」と溜め息混じりに言ったのと同時に、「……ほう……」とくぐもった声が聞こえた。
 ケウナじゃないけど、前の方から聞こえてきた気がする……。

「ノボル止まって。念の為、私の前に立って」
「何かあった?」

 仁王立ちのケウナが盾を下ろし、盾の下側を地面に突き刺した。
 石突も地面にめり込ませ、簡易バリケードのようになった。

「レン! ラニが交戦中!」
「知ってるわ」

 彼女たちは、互いの名前すら省略するようだ。
 予め、僕の事も呼び捨てにするとは、キイツさんから聞いていた。
 緊急時の指示を短縮するためで、遠征組のルールだそうだ。

 ケレンは、僕の名前の「ボ」が発音しづらいから、「ノル」と呼ぶと言った。

「もう良いわよノル。終わったわ」
「何で分かるの!?」

 手持ちの札を見せないのも、ルールなのだとか。
 すると、ケラニの過少申告は、悪意からじゃなくて、ルールに従ったものだった……?

「き、今日の夕飯は、コ、コルヌだ!」
「枝角ウサギのこと」

 ケラニが戻って来る前に、はしゃぐケウナは視力が良いらしい。
 僕が首を傾げる前に、説明するケレンは頭が良いようだ。

「ウナ、血抜きするから、整地頼むわ」
「うむ」

 今日は予想以上に進めたから、傾斜地に入る前にキャンプするそうだ。
 猛獣が少なかったのは、村の方角で異変があったからかも知れないと、三人が話していた。

「ケラニ、変化あった?」
「ないです」

 定期的に、ケラニが木に登って村の方向を観察していた。
 依然として闇に飲まれたまま、先は見えないとのこと。

「やっぱり、引き返した方が良くない?」
「自分は、進んだ方が良いと思うです」

 ケレンも、女神アイディスの気配を感じるから、村の周辺は安全だろうと言う。
 僕が渡した黒曜石を祠に祀って儀式を行ったというのがケレンの見立てだ。

 そう言えば、アイディスの祠と、闇石と呼ばれる黒曜石には、どんな関係があるんだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...