異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第三十八話

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 黒曜石と祠の関係が気になったので、ケレンに聞いてみよう。

「闇石を祠に祀るのはどうして?」
「古文書に、『女神アイディス、光届かぬ物と冥界とを繋ぎ』とあるの……」

――冥界の女神アイディスは、バアアルに攫われた住民オーグらを案じ、「光届かぬ物」に言寄せた。
――ところが、光届かぬ物として「小さな黒曜石」しか見つけられなかったオーグは、それを祀っても、ごく一部しか声を聞けなかった。
――やがて、若いオーグの信仰心は薄れ、種族としても弱くなっていった。

 古文書には、こんな経緯が書かれてるそうだ。
 そんな時に僕が来て、地球の黒曜石をキイツさんに贈り、オーグの村は闇に飲まれたと……。

「私は、女神が村に降りたか、冥界の空気が村を覆ったと考えるわ」
「ケレン賢い! とても分かり易かった!」

 ケレンがウサギを捌く手を止めて俯いた。
 振る舞いは落ち着いてても、褒められて恥じらいを見せる所は年齢相応のようだ。

「じゃあ、ケレンは冥界に行けるとしたら……?」
「もちろん行く! 遠征組は皆そうよ! 居場所がない村にはいたくない」

 「どうして?」と問う前に、ケレンが帽子を脱いだ。
 頭頂部とその手前に、長さの違う角が生えていた。

「角があると差別されるの?」
「直接ではないけれど、集団には入れないし、勾玉を贈ってくれる人もいないわ。私は特にね……」

 引け目があると消極的になるのは、人もオーグも同じらしい。
 そんな時に、綺麗事や、同情などが意味をなさないのは、僕もよく知ってる。

「条件の良い相手ばかりに目移りして、本質を見ようとしない連中は、最終的に選び損ねて孤独に落ちろ!」
「あはは! 何それ!? 呪いのつもり?」

 うん、ケレンには感情が無いんじゃなくて、出せる相手が居ないだけだ。
 角にしたって、ケレン達が悪いんじゃなくて、違いを受け入れる度量のある相手が居ないだけだ。

「いい? 呪いってのは、こうやるのよ!」
「なにそれ!? 怖い!」

 ケレンが、血抜きした場所に黒いナイフで逆三角を描いて、何かを唱えた。
 三角の中心と三辺の横に模様を描いて、更に唱えると、描いた線から黒い血が溢れ、モヤになった。

「あはははは! そうか! 呪えば良かったのよ!」
「ケレン、程々にね……」

 キイラが魔女と言った意味が分かった。
 どうやら、この世界には呪いが存在するらしい。

「あー、スッキリした! ありがとノル。あいつらが目移りする対象を小動物に変えてやったわ!」
「なにそれ! かわいい!」

 やはり、オーグリスは悪ではない。
 他の遠征組の人達も、僅かな違いで不当な扱いを受け、望まない境遇にあるとしたら、何を正すべきだろう……?

「ノ、ノル……! く、く、暗くなる前に、シ、シ、シャワー浴びないか……?」
「ありがとうケウナ。えっ、凄い! この範囲を全部一人でやったの? 次は手伝うから言ってね」

 いつの間にか、周辺の表土が取り除かれていた。
 掻き集めた表土は、中央に寄せて、キャンプファイヤーの土台にしたようだ。

 そのキャンプファイヤーを中心に、適度な間隔で生えてる四本の木の下それぞれに、オーグ式バスルームが完成していた。

 いつの間にか、ケラニも薪を拾い集め、「癒やしの石」を絞って着火してたようだ。
 ケラニにも、お礼を言ってバスルームに下りて行こうとしたら、丸めた毛皮を渡してくれた。

「キャンプファイヤーとバスルームの間に敷くと良いです」
「これが布団になるんだね」

 青黒い毛皮は、サラサラで毛足が長く、樹液の甘い香りがした。
 遠征組は衛生意識が高いらしく、石鹸まで渡してくれた。

「脱いだ下着を石鹸で洗って、渡してくれれば、自分が木の間に干すです」
「ありがとうケラニ」

 バスルームに下りてみると、オーグの村の大木ほどじゃないけど、汗を流して洗濯するには十分な樹液が出ていた。
 シャワーを浴びて体が冷える前に、脱いだ下着を洗ってたら、三人の話し声が聞こえてきた。

 キシラ達が「夜這い未遂」のときに話してた言語だ。
 やはりというか、僕の鏡が文字で翻訳してくれた。

「ウナ……。まだ明るいのに、ノルにシャワーさせるとか、覗きたいって言ってるようなものよ」
「そそそそ、そうじゃなくて……、い、いや、でで、でも、ノルは白くて細いから……女じゃないかって……」
「ノルのチンコはデカかったですよ。キロスの三倍あったです!」
「なななななななっ! な、なんで、ラニが知ってるんだよっ!?」
「木の上から見たです!」

 ああ……、うん、気付いてた。
 見張りか偉いなと思ったら、覗きだったんだね……。
 まぁ、いいんだけど……。

「そそそ、そ、その手があったか……!」
「やめなさいよ、みっともない」
「見られても気にしてなかったから、ノルはきっとエッチなお兄さんなんですよ」

 それはどうだろう……?
 見られてるとも、見える距離とも思ってなかったから、反応しなかっただけで……。
 それに、見られて、からかわれたら落ち込むから、エッチなお兄さんじゃないと思う……。

「じ、じ、じゃあ……」
「ウナが頼めば、見せてくれるはずです」
「そ、そうか……!」
「これだから処女は……」
「魔女同士の性交は、数に入らないと思うです!」
「そ! そんなことないわっ!」

 あああ……、口論になってしまった……。
 うーん……、幼馴染の女子が集まると、あんな会話をするものなのかな……?

 それに、何となく、ケラニがケウナを焚き付けてるような……。
 だとすると、ケラニの狙いは何だろう……?
 もし、ケウナがケラニの話を信じて、僕に頼んできたらどうしよう。

 これまでの彼女たちの様子から、オーグの村の住人とは、あまり接点がなかったように思える。
 だから今回、僕がダイレクトに拒絶してしまったら、相当傷付いて、護衛に支障を来す可能性が考えられる。

 それ以上に、拒絶されたことを受け入れられず、逆上する可能性だってある。
 ケウナの体格は、おぞましきカイラよりも優れてるから、僕に抗う術はない……。

 そうなると、先手を取るしかないのかな……。
 とは言え、今回は、まだ紛争には至ってないと思うから、アナさんの力を借りずに、出来ることをやってみよう。
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