異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

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魔酔いの森

第四十一話

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 これは、思ったよりも難しいぞ……。
 腹式呼吸に合わせて腹筋を絞り、夜の雫を地面に浸透できた感触はある。
 腕に力を込めて衝撃を乗せれば、より早く、広範囲に広がるのも予想通りなのに……。

「狙いが定まらないのはどうして?」
「タイミングを合わせて。戻って来た波紋が、枝に重なるタイミングでぶつけるのよ」

 うーん……、そのタイミングが分かるようになるには、相当数をこなす必要がありそう……。
 いっそ可視化できるようにした方が、感覚に頼らず済むかな……?

「まずは、戻ってくる感覚が掴めれば上出来。すぐに身に付くものじゃないし、数こなせるものでもないから、程々に試してみて」
「うん。やってみる」

 ケレンはケラニに話があるようだ。
 じゃあ次は、地面に浸透させるんじゃなくて、水溜りを作る感じで試してみよう。

 あ! いい感じ! 押し込む力がいらない分、かなり早い?
 水溜りというよりは、灰色の薄い膜のようになったけど。
 それでも、波の伝わり方は、見た目どおりだから、狙った場所でタイミングを合わせるのも楽だ。

「あれ……? 砂になってない……?」
「何よそれ……!?」

 ケレンが立てた枝に向かって走って行った。
 僕も行こうとしたけど、強烈な目眩に襲われ、立ち上がれなかった。

「そこに座ってなさい!」
「大丈夫です……?」

 ケラニがお茶を持ってきてくれた。
 ケレンとケウナは、枝の前で話し込んでるようだ。

「ありがとう、ケラニ」
「ノルは……、魔女になるです……?」

 そういう訳じゃないけど、自分より若い女の子を危険に晒して、守られ続けるのは不本意だし、幼馴染の三人の連帯感が羨ましかったから、僕もその輪の中に入りたかったと、正直に辿々しく伝えた。

「自分達は、幼馴染じゃなくて姉妹です」
「ぶほっ! そ、そうだったの!?」

 お茶を吹き出すほど、衝撃の事実だ!
 厳密には、ケラス氏を父とする異母姉妹だそうだ。
 ただ、ケレンの母は不明で、ケラス氏の家の前に置き去りにされた為、魔女に預けられたのだとか。

 「ケ」から始まる名前のオーグリスは、大抵ケラス氏か、その弟ケロン氏の子で、姉妹として扱われるらしい。
 「孕ませられる者が孕ませる」がオーグの掟なので、当然、キシラ達もキラン氏の娘で姉妹だという。

 「なんてことだ、僕は三姉妹に……!?」と、ショックを受ける暇はなかった。
 「女傑カイラとウナは異父姉妹です!」の方がガツンと来たから……。

「あの鍬は、ウナが遠征組に入る時に、カイラさんが譲ったです!」
「そ、そうだったんだね……」

 ガキン! と硬質な金属音がした。
 その方向に、振り下ろした鍬を弾かれた姿勢で固まるケウナが見えた。
 さっき僕が練習してた枝の辺りだ。

「ノル、立てる? 立てたら、こっちきて!」
「うん。今行く」

 氷? いや、違うな……、灰色のガラス、スモーキークォーツ……?
 ケウナの一撃で、薄くヒビ割れたそれは、枝を包み込むように、稜線を描いて広がっていた。

「なにこれ?」
「こっちが聞きたいわ!」

 どうやら、ケレンですら知らない現象だったらしい。
 説明を求められたので、手順とイメージを伝えた。

「ありえない……」
「どういうこと?」

 ケレンの手順は、モヤを物質に伝播させ、その性質を増幅させるものなのだそうだ。
 それに対して、僕のは、モヤを直接変質して操り、更に別な性質に変化させた様に見えるらしい。

「つまり……?」
「つまり、高等技術をこの短時間で編み出したのよ! 教えなさい! 私ができるまで寝かさないから!」

 ケラニが、「一旦、落ち着くです!」と言って、乾燥トクサとお湯の入った器を持ってきてくれた。
 歯磨きしてクールダウンしろって事のようだ。
 乾燥トクサは、お湯に漬けると、柔らかくなるとのこと。

「ム、ムリだ! 割れねえ!」
「……ふむ! ……! ほう……!」

 連続して金属音を立てるケウナも、ヒートアップしてたようだ。
 猛獣のレリーフが、感嘆の声を上げてる様にも聞こえた。

「そう言われても、教わったとおりに出来なかったから、可視化しようと思っただけで……」
「だからって、拡散する空気に、エネルギーを保持させるなんて、出来る訳ないでしょ!」

 確かにそうだ。
 あれ? でも、夜の雫は、モヤとして地表に留まり続ける訳だし……。
 すると、僕の手順では、どこで何が違ってしまったんだろう……?

 まず最初は、教わったとおり地面に浸透させた。
 次に、水滴を垂らし続ける感じで地表を満たした。
 それから、衝撃を与えて波紋を作った。
 その波紋が戻ってきて、立てた枝に到達するタイミングに合わせて、もう一つ波紋を作った。
 そしたら、枝のところで波紋がぶつかって、高く持ち上がって、動かなくなった。

 うん、分からない。
 歯磨きのおかげで考えは纏まったけど、理解できそうにない。
 なので、「先に地面に浸透されば、地表を満たせるんじゃないか」と仮説を伝えてみた。

 ん? だとすると、同時に地中にも波紋を作ったらどうなる……?
 あれ? それ以前に、変化は戻る波紋との衝突でしか引き起こせない訳でもない……?

 そんな独り言で考えを纏めてたら、ケレンが慌てて歯磨きを終えた。

「ま、待って! 先に行き過ぎ! 検証が先!」
「うん。まず、ケレンにも再現できるかが先だね」

 僕が歯磨きを終えるまでに、ケレンが別な場所で試して、あっさり出来たようだ。
 ただ、僕のスモーキークォーツっぽいものとは違って、ケレンのは黒い氷だ。

「……何てこと……!」
「うわ! これ、恐ろしく冷たい……! 皮膚が張り付く……って聞こえてないか……」

 ケレンが硬直して考え込み始めたようだ。
 その間に、僕も実験しよう!

「よーし、同時波紋をやってみよう! まずは上下の衝突だ!」
「ノル……。そのノリはもう魔女ですよ……」

 結果は、やはり地中のタイミングが掴めず、枝の真下で衝突できたか分からなかった。
 というか、どこかですれ違ったんだろうけど、変化が起こったようには見えなかった。

「不発です?」
「そう見えるね。次は、上下一緒に波を作ってみよう!」

 上下同時に同じ力で波紋を作っても、進む速度は異なるようだ。
 結果は、密度を上げた範囲が、灰色の道になって、枝が消えた。
 いや、三分の一だけ飛び出てるってことは……?

「地盤沈下して、枝さんが閉じ込められたです?」
「不思議だね! それじゃあ最後は、強い衝撃を与えてみよう!」

 上下を満たして範囲を絞り、波は立てずに、灰色の薄い膜を両手の拳の底で……バン!
 おお! 満たした境界に、トゲが出来た!
 やはり、強いエネルギー自体がトリガーになってるのかも……。

「ノルが上級魔女になってしまったです……!」
「それはないよ。目は回るけど、面白かった!」

 座り眩みするので、砂地の上に大の字になって休むことにした。
 この実験を書き残すのは不適切かなと考えてたら、少し離れたところで金属音を立ててたケウナの叫ぶ声が聞こえた。
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