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魔酔いの森
第四十四話
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ケウナの要望通り、バスルームで背中を流すことにした。
一緒に服を脱いで入るとは思わなかったらしく、一点を凝視したまま動かなくなってしまったケウナを回れ右して、樹液を掛けた。
「ウナ、寒かったり、嫌だったら言ってね」
「う……う……、うむ……」
猪の血が固着すると、石鹸でも落とし切れない様なので、香油を擦り込んでマッサージ。
広い背中を縮めて、小刻みに震えてるけど、掌に伝わる熱量から、寒い訳じゃなさそう。
「最初にウナを見たとき、羨ましい体型って思った。きっと、遺伝的にも、育つ環境にも恵まれたんだろうって……。でも、そうじゃなくて、努力で作られた体だって、触ってみて分かった。凄く頑張ったんだね」
「カ、カイラ姉さんの様に、な、なりたかったから……」
女傑の後に、角付きを生んだ母との確執。
または、異なる父の力関係を背景とした差別。
そんな構図と情景が目に浮かんだ。
「僕は、もうウナの方がカイラさんを超えてると思う。少なくとも、努力したウナの体の方が好きだよ」
「……う、……あ、あ、ありがとう……。わわわたしは、ノルのことが、すす好きだ……!」
ケウナが体を強張らせ、一直線になってしまったので、タオルで拭きながら話題を変えた。
僕の世界の仮定の話だ。
もし、ケウナが僕の世界で女子プロレスラーだったら。
女傑カイラの比じゃない人気で、男女問わず愛され、体格に恵まれた男達からも求愛されただろう。
そんなある日、ケウナの長年のファンだった僕が、震える手を伸ばして声を掛ける。
「ケ、ケウナさん……! あ、握手してください……!」と。
それでも、観客の一人にしか見えないケウナは、体の小さな僕に目を向けることもなく通り過ぎる……。
「僕は、そんな存在だよ? ウナはどんな相手を理想としてた? 誰を愛したい?」
「……わ、わたしは……、カイラ姉さんの父さんだ! あ、あれくらい大きなオーガを探してた……」
それは具体的で良いね。
「見つからないなら、育てればいい」と提案してみた。
「そそそ、育てる!? わ、わたしが?」
「ううん。ウナとレンとラニで鍛えれば、理想どおりのオーガに育つよ」
自身の父親を理想としたカイラは、探すのを諦めて女色に走ったそうだ。
僕から見れば理想体型の女子達でも、理想の相手を見付けるのは難しいらしい。
「り、理想と、愛は、分かった。ででも、い、今は、ノルに……。違う。わ、わたしは今、ノ、ノルに、こ、恋してるんだ……」
「うん。ありがとうウナ」
もう、服を着る必要もないから、片手で抱えて、もう片手でケウナの手を引いて、裸のままケウナの寝袋状の毛皮に入った。
ケラニと猛獣のレリーフが、目を皿にしてるけど気にしない。
やはりというか、体格差があるから、僕は毛皮から頭を出せなかった。
それでも、内腿まで湿らせてたケウナは、すんなりと受け入れて、痛みを訴えることもなかった。
とはいえ、明日に響くといけないので無理はせず、眠りに就くまで互いの体を触ったり、囁き合ったりした。
「……なせるな……」
「……っ!?」
ウトウトし始めたところを猛獣のレリーフに起こされた。
相変わらず僕に目を向けてて嫌な感じだったので、顔の向きを変えようと手で押したら、細かい振動が伝わって、声として聞こえた。
「ノボル! その子らを死に至らしめたくはあらずば、闇石を捧げよ!」
「……猫の声……雌? 石……?」
まだ眠くて、頭はぼんやりしてても、くぐもった女性の声だと分かった。
聞いたことある感じもするけど、誰だったかな……。
「ウナが起きるといけないから明日ね……」
「待て、ノボル! アイリスのなごりあるそなたなればこそ頼まん!」
アイリス……? 聖女アイリス?
ああ! そうだ、この声はアイリスさんに似てるんだ!
「我が名はアイギス! ゴルゴナの次女にして、アイリスが姉」
「アイギスさん……?」
アイリスさんの姉? レリーフの猫ちゃんがアイリスさんの姉?
なんか目が覚めてきた。
「ノル……?」
「ウナ、寝てて。少し鍬を借りるね」
って、重いな! これ!
盾の柄の付け根を両手で持って、ようやく持ち上がった。
ケラニの視線が冷たいのは、全裸でヨタヨタ鍬を運んでるからだね。
うん、僕はエッチなお兄さんじゃないから、その目で見られるくらいが良いかも。
「ラニも眠った方が良いよ」
「その様子を見せられて、眠れと言われても困るです……」
リュックの横に鍬を置いて、黒曜石を取り出し……って、あれ? 捧げるってどうすれば良いんだろう?
僕の隣に来て、一点を見つめて硬直してるケラニに聞いても分からないだろうから、アイギスさんに確認しよう。
「あの、アイギスさん……? 捧げ方が分からないんですが……?」
「獅子が口に」
この猫ちゃんは獅子らしいけど、獅子って何だろう……? トラ? ライオン?
まあいいや、その獅子の口に黒曜石を押し込む?
「半らにて良し。残りはノボルが物とせよ」
「半分だけ入れれば良いんですね?」
獅子のレリーフが、小さな前歯で黒曜石に噛みつき、ガリッと音を立てて半分に割った。
その半分が口の中に消えると、水面に落としたような音がして、レリーフの背景が闇色に染まった。
満足したようにも見える獅子の顔が、水没するように沈んで行った。
盾の表面からレリーフが消え、光を反射しない黒い水で満たされただけになった。
そこに何かが浮上してきた。
白く、形の良い鼻。
微笑みを湛える上品な薄い唇。
閉じられてても分かる、切れ長で大きな目と、長い睫毛。
きめ細かい肌と、細面な印象を受ける美しい輪郭。
……もうすぐ、あの特徴的な巻き毛も見えるだろうから、これは確かにアイリスさんの姉だ。
その姉が、「何故、盾の中に?」と考えてたら、僕の隣でケラニが小さく悲鳴を上げた。
一緒に服を脱いで入るとは思わなかったらしく、一点を凝視したまま動かなくなってしまったケウナを回れ右して、樹液を掛けた。
「ウナ、寒かったり、嫌だったら言ってね」
「う……う……、うむ……」
猪の血が固着すると、石鹸でも落とし切れない様なので、香油を擦り込んでマッサージ。
広い背中を縮めて、小刻みに震えてるけど、掌に伝わる熱量から、寒い訳じゃなさそう。
「最初にウナを見たとき、羨ましい体型って思った。きっと、遺伝的にも、育つ環境にも恵まれたんだろうって……。でも、そうじゃなくて、努力で作られた体だって、触ってみて分かった。凄く頑張ったんだね」
「カ、カイラ姉さんの様に、な、なりたかったから……」
女傑の後に、角付きを生んだ母との確執。
または、異なる父の力関係を背景とした差別。
そんな構図と情景が目に浮かんだ。
「僕は、もうウナの方がカイラさんを超えてると思う。少なくとも、努力したウナの体の方が好きだよ」
「……う、……あ、あ、ありがとう……。わわわたしは、ノルのことが、すす好きだ……!」
ケウナが体を強張らせ、一直線になってしまったので、タオルで拭きながら話題を変えた。
僕の世界の仮定の話だ。
もし、ケウナが僕の世界で女子プロレスラーだったら。
女傑カイラの比じゃない人気で、男女問わず愛され、体格に恵まれた男達からも求愛されただろう。
そんなある日、ケウナの長年のファンだった僕が、震える手を伸ばして声を掛ける。
「ケ、ケウナさん……! あ、握手してください……!」と。
それでも、観客の一人にしか見えないケウナは、体の小さな僕に目を向けることもなく通り過ぎる……。
「僕は、そんな存在だよ? ウナはどんな相手を理想としてた? 誰を愛したい?」
「……わ、わたしは……、カイラ姉さんの父さんだ! あ、あれくらい大きなオーガを探してた……」
それは具体的で良いね。
「見つからないなら、育てればいい」と提案してみた。
「そそそ、育てる!? わ、わたしが?」
「ううん。ウナとレンとラニで鍛えれば、理想どおりのオーガに育つよ」
自身の父親を理想としたカイラは、探すのを諦めて女色に走ったそうだ。
僕から見れば理想体型の女子達でも、理想の相手を見付けるのは難しいらしい。
「り、理想と、愛は、分かった。ででも、い、今は、ノルに……。違う。わ、わたしは今、ノ、ノルに、こ、恋してるんだ……」
「うん。ありがとうウナ」
もう、服を着る必要もないから、片手で抱えて、もう片手でケウナの手を引いて、裸のままケウナの寝袋状の毛皮に入った。
ケラニと猛獣のレリーフが、目を皿にしてるけど気にしない。
やはりというか、体格差があるから、僕は毛皮から頭を出せなかった。
それでも、内腿まで湿らせてたケウナは、すんなりと受け入れて、痛みを訴えることもなかった。
とはいえ、明日に響くといけないので無理はせず、眠りに就くまで互いの体を触ったり、囁き合ったりした。
「……なせるな……」
「……っ!?」
ウトウトし始めたところを猛獣のレリーフに起こされた。
相変わらず僕に目を向けてて嫌な感じだったので、顔の向きを変えようと手で押したら、細かい振動が伝わって、声として聞こえた。
「ノボル! その子らを死に至らしめたくはあらずば、闇石を捧げよ!」
「……猫の声……雌? 石……?」
まだ眠くて、頭はぼんやりしてても、くぐもった女性の声だと分かった。
聞いたことある感じもするけど、誰だったかな……。
「ウナが起きるといけないから明日ね……」
「待て、ノボル! アイリスのなごりあるそなたなればこそ頼まん!」
アイリス……? 聖女アイリス?
ああ! そうだ、この声はアイリスさんに似てるんだ!
「我が名はアイギス! ゴルゴナの次女にして、アイリスが姉」
「アイギスさん……?」
アイリスさんの姉? レリーフの猫ちゃんがアイリスさんの姉?
なんか目が覚めてきた。
「ノル……?」
「ウナ、寝てて。少し鍬を借りるね」
って、重いな! これ!
盾の柄の付け根を両手で持って、ようやく持ち上がった。
ケラニの視線が冷たいのは、全裸でヨタヨタ鍬を運んでるからだね。
うん、僕はエッチなお兄さんじゃないから、その目で見られるくらいが良いかも。
「ラニも眠った方が良いよ」
「その様子を見せられて、眠れと言われても困るです……」
リュックの横に鍬を置いて、黒曜石を取り出し……って、あれ? 捧げるってどうすれば良いんだろう?
僕の隣に来て、一点を見つめて硬直してるケラニに聞いても分からないだろうから、アイギスさんに確認しよう。
「あの、アイギスさん……? 捧げ方が分からないんですが……?」
「獅子が口に」
この猫ちゃんは獅子らしいけど、獅子って何だろう……? トラ? ライオン?
まあいいや、その獅子の口に黒曜石を押し込む?
「半らにて良し。残りはノボルが物とせよ」
「半分だけ入れれば良いんですね?」
獅子のレリーフが、小さな前歯で黒曜石に噛みつき、ガリッと音を立てて半分に割った。
その半分が口の中に消えると、水面に落としたような音がして、レリーフの背景が闇色に染まった。
満足したようにも見える獅子の顔が、水没するように沈んで行った。
盾の表面からレリーフが消え、光を反射しない黒い水で満たされただけになった。
そこに何かが浮上してきた。
白く、形の良い鼻。
微笑みを湛える上品な薄い唇。
閉じられてても分かる、切れ長で大きな目と、長い睫毛。
きめ細かい肌と、細面な印象を受ける美しい輪郭。
……もうすぐ、あの特徴的な巻き毛も見えるだろうから、これは確かにアイリスさんの姉だ。
その姉が、「何故、盾の中に?」と考えてたら、僕の隣でケラニが小さく悲鳴を上げた。
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